マーサーアカデミックコラム 第3回
オンライン会議がもたらす疲れ ― カメラとの向き合い方

オンライン会議による疲れ(Zoom fatigue)

COVID-19の流行が始まった2020年から、世界中でコミュニケーションの多くがオンライン化され、対面で行われていた会議の多くがバーチャル会議に取って代わられた。

 

あなたの会社ではいかがだろうか。一日の予定に複数のオンライン会議が組み込まれているのは、もはや珍しくない。オンライン会議からまた別のオンライン会議へ、バーチャル空間での移動が延々と続く日を経験している方も少なくないだろう。そんな一日の終わりに、「疲れた…」と感じることはどれくらいあるだろうか。

 

物理的な移動は減った一方で、私たちはバーチャル空間ならではの疲労を感じている。世界中でリモートワークが始まった数週間後には、「Zoom fatigue(疲れ)」という言葉が米国を中心に広く用いられるようになった1。私たちはなぜ、オンライン会議に疲れるのか。そしてその疲れは、仕事にどのような影響を与えるのか。本コラムでは、そんな「オンライン会議による疲れ」について考えるヒントを与えてくれる、経営学の研究を紹介したい。

 

なぜ、私たちはオンライン会議に疲れるのか?

オンライン会議に疲れる理由として、単純に「会議の時間が増えたから」ではないかと思う方もいるだろう。しかし面白いことに、世界規模の研究では、パンデミックの発生以降会議に費やした時間は全体で11.5%減少しているという2。それでは、この疲れはどこから来るのだろうか。

 

Journal of Applied Psychology掲載の『バーチャル会議におけるカメラ使用の疲労効果:個人内データによるフィールド実験』3という論文において、Shockley教授らはアメリカ企業に勤める103名の従業員を対象にフィールド調査(延べ1,408日)を行った。参加者は4週間にわたり「前半2週間はカメラオン、後半2週間はオフ」等の条件のもと勤務した。また、毎日勤務終了時に疲労や会議での発言・エンゲージメント(活発な関与)に関するアンケートに回答した4。その結果、「会議の回数や時間」ではなく、「カメラの使用有無」が日々の疲れに直結しているという仮説が支持された5

 

図1. Shockley教授らによって検証されたモデル

Figure 1

Conceptual Model

図1. Shockley教授らによって検証されたモデル

出典:Shockley, K. M., Gabriel, A. S., Robertson, D., Rosen, C. C., Chawla, N., Ganster, M. L., & Ezerins, M. E. (2021). The fatiguing effects of camera use in virtual meetings: A within-person field experiment. Journal of Applied Psychology, 106(8), 1137–1155.
https://doi.org/10.1037/apl0000948

 

 

カメラオンが疲れをもたらす背景にあるのは、「自己呈示理論」(self-presentation theory)である。自己呈示理論によると、人には誰しも、自分をよく見せようとする欲求や傾向があるという。カメラオンの場ではこの「見られている」意識が高まり、自分をよりよく印象づけることにエネルギーを使っているのだ。

 

ここで言うエネルギーとは、心理学用語で「自己制御資源 (self-regulatory resources)」と呼ばれ、「意志力」とも表現できる。会議の本題に加えて、常に自分をよく見せることに注意を払い続けるために、意志力が削られて疲れが生じるのである。

 

カメラオンによる疲れがオンライン会議の参加者に与える影響

疲れると何が起こるのか。調査結果から、疲労感は本人の会議での発言・エンゲージメントを低下させることが示された。カメラの使用は疲労感を生むだけでなく、積極性も低下させる可能性があるのだ。会議への参加には、発言や進め方のコントロールに「意志力」を使う。しかし、カメラオンによって「自分の見せ方」に意志力を使ってしまうため、発言や関与の度合いが低下するのである6

 

改めて整理すると、調査からは(1)カメラオンにより日々の疲労感が強まること、(2)会議の回数や時間は疲労に関係がないこと、そして(3)疲労により発言やエンゲージメントの度合いが減少すること、が明らかになった。この結果を意外に思われる方もいるかもしれない。より積極的に参加してもらうために、カメラをオンにするよう促した経験がある方もいるだろう。しかし結果を踏まえると、カメラオンが参加者の疲労感を高め、それが会議での積極性を下げてしまう可能性もあると言える。

 

さらに興味深いことに、「女性」や「入社間もない新人」であるほどより疲れるという。これは「きちんとした身なりをすべき」という意識や、「能力があることを見せる必要がある」というプレッシャーからくるものと考えられる。この結果は、女性や新人のみならず特に疲労を感じやすくケアが必要な人がいる可能性も示唆している。

 

図2. カメラオンが疲れに与える影響の性別・勤続年数に応じた差異

Figure 2

Cross-Level Moderating Effect of Gender on the Within-Person Relationship Between Being Required to Use the Camera During Video Call Meetings and Fatigue

図2. カメラオンが疲れに与える影響の性別・勤続年数に応じた差異 Figure 2

Figure 3

Cross-Level Moderating Effect of Organizational Tenure on the Within-Person Relationship Between Being Required to Use the Camera During Video Call Meetings and Fatigue

図2. カメラオンが疲れに与える影響の性別・勤続年数に応じた差異 Figure 3

出典:Shockley, K. M., Gabriel, A. S., Robertson, D., Rosen, C. C., Chawla, N., Ganster, M. L., & Ezerins, M. E. (2021). The fatiguing effects of camera use in virtual meetings: A within-person field experiment. Journal of Applied Psychology, 106(8), 1137–1155.
https://doi.org/10.1037/apl0000948

 

 

なお、結果の解釈における注意点としては、検証はあくまで個々人の疲労感を扱ったものであり、カメラオンが会議全体の有効性を高めるかどうかを実証したものではない。例えば、参加者が皆カメラオフだったがために盛り上がらないという状況は大いにあり得る。この点はご留意いただきたい。

 

実務における活用

本研究結果を踏まえて筆者の考える、今後実務の中で参考にできる教訓は以下3点である。

 

1点目に、そもそも私たちはリモートワーク下で思わぬ疲労を蓄積している、ということを認識したい。会社通勤に比べオンライン会議はさほど疲れないようにも思えるが、その認識は改め、特にマネージャーの皆さんにとっては、部下がどの程度オンライン会議に参加し、どれほど疲労しているかをまず知ることが求められる。

 

2点目に、「カメラオン」慣習が意図せず社員を疲れさせるという結果から、先入観や思い込みでオンラインツールの運用ルールを決めるべきではないと言える。一般的にカメラオンの方が参加者がより積極的になるはずだと思いがちだが、検証結果はむしろその逆を示した。だからといって、一律でオフにすべき、というわけでもない。「会議の目的に照らして自分たちにとって何が最適か」を常に考えながら検討することが重要だ。

 

研究では、会議が社内向けか社外向けか、相手との上下関係はどうか、等の要素には触れていないが、「この場面はオフでも可」「この場面は表情まで見えないとしても、オンの方が良い」など、会議の目的と疲労とのバランスを取りながら議論を深められたい。例えば筆者の勤務先には、リモートワーク下での身支度などに配慮し「午前中開催の小規模な社内会議はカメラオフでよい」というルールを2年前から適用しているチームがあるが、個人的に魅力的なルールだと感じている。このように時間帯や会議体によって使い分けることもできる。

 

3点目に、個々人でカメラオンによる疲労度合いが異なることに十分留意すべきである。女性や新人に限らず、その他にも特にケアが必要なメンバーがいる可能性もある。この点についてぜひお勧めしたいのは、定期的にチーム内でコミュニケーションをとり、対話しながら考えていくことだ。リモートワークでは、家庭環境が業務に影響することも少なからずあるだろう。聞き方には配慮が必要だが、個々人にとってより疲れにくく、モチベーション高く働ける環境が求められる。

 

オンライン環境での業務は今後も長く続くはずだ。自分自身の疲れはもちろん、部下・同僚の疲れをケアする上でも、カメラの使い方が意外にも個々の疲労感や積極性につながる要素であることは、心にとめておいても良いかもしれない。 

 

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1 URL: https://www.nytimes.com/2021/04/13/us/zoom-fatigue-burn-out-gender.html

2 DeFilippis, E., Impink, S. M., Singell, M., Polzer, J. T., & Sadun, R. (2020). Collaborating during coronavirus: The impact of COVID-19 on the nature of work (Working Paper Series, 27612). National Bureau of Economic Research.
http://www.nber.org/papers/w27612

3 Shockley, K. M., Gabriel, A. S., Robertson, D., Rosen, C. C., Chawla, N., Ganster, M. L., & Ezerins, M. E. (2021) The Fatiguing Effects of Camera Use in Virtual Meetings: A Within-Person Field Experiment. Journal of Applied Psychology, 106(8), 1137–1155.
https://doi.org/10.1037/apl0000948

4 実施期間の4週間のうち1日は祝日、また土日は営業日ではないため、調査実施の実日数は19日間となっている。また有効回答者数は103人だが、参加者全員が19日分全てを回答したわけではないため、延べ日数は「有効回答者数×19日」とは一致しない。

5 変数間の関係はマルチレベルパス解析をもとに検証された。検証においては、オンライン会議の参加時間および回数、回答がなされた曜日、回答前日の疲労・発言・エンゲージメントの度合い、カメラオンとオフのどちらを前半・後半週に行うかのグループ区分といった要素が統制変数としてモデルに組み込まれた。これらにより、疲労や会議での発言・エンゲージメントの度合いに影響を及ぼしうる要素を統制することで、本当にカメラの使用可否がこうした要素に影響を及ぼしているのかのより精緻な検証が試みられた。

6 なお補足分析として、 「カメラオンによって発言やエンゲージメントの度合いが強まるために、疲労するのではないか」という、因果が逆方向のモデルも検証された。ただし今回のデータからはこの関係性を裏付ける結果を得られなかったため、「カメラをオンにすることによって疲れ、結果的に発言やエンゲージメントの度合いが影響を受ける」という当初想定した因果関係の方が蓋然性が高いと筆者らは考察している。

 


執筆者

山本 静里奈(やまもと せりな)

山本 静里奈

山本 静里奈(やまもと せりな)

組織・人事変革コンサルティング アソシエイトコンサルタント

監修

大矢隆紀

大矢隆紀

大矢 隆紀(Takaki Ohya )

Doctoral Student at Raymond J. Harbert College of Business, Auburn University

京都大学経済学部卒業、神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了後、マーサージャパンを経て現在に至る。マーサージャパン在籍時は主に国内外のグローバル企業を対象に、人事制度設計、グローバルグレード導入、M&Aに伴う組織統合(PMI)、役員報酬制度改定、ジョブ型人事制度導入等のプロジェクトに従事。現在は大学院の博士課程にて組織行動論を専攻し、リーダーシップ、ウェルビーイング、ワーク・ライフ・バランス等のトピックに関する研究を行っている。

土井口司

土井口司

土井口 司(Tsutomu Doiguchi )

Senior Graduate Assistant at Walton School of Business, University of Arkansas

戦略人事/人的資源を専攻し、主に人事制度と人材の差異が企業業績へ与える影響、およびそのメカニズムを研究している。住友電気工業、マーサージャパンで人事実務・コンサルティング業務を経験し現在に至る。マーサージャパン在籍時は人事戦略策定、人事制度設計、M&Aに伴う人事DD・組織統合(PMI)、役員報酬制度改定等のプロジェクトを中心に国内外企業を支援。京都大学法学部卒業、コーネル大学MILR(HR & Organizations Concentration)修了。