複数の部門にまたがる問題にどう対応する?コーポレート・ガバナンスの主管組織を考える (2)

海外企業プラクティス

ここまで国内の話を前提に論を進めてきたが、海外企業のプラクティスから一定の示唆を得られる可能性もあるので、ここで概観しておきたい。

米国、カナダ、欧州などでは、「Corporate Secretary (コーポレート・セクレタリー)」あるいは「Company Secretary (カンパニー・セクレタリー)」等と呼ばれる、取締役会・委員会の運営・記録管理・支援、株式取引関連の法律要件遵守、取締役・執行幹部・投資家間の連携、等を担う役割・職務が確立されている。

一義的には、法的観点で企業のコーポレート・ガバナンスが適正に行われることを支える役割・機能であるため、法律の専門知識を持つ人材がその役割を担うケースが多い。レポートラインとしては、CEO、法務部門トップ、取締役会議長等にレポートするケースが多い。

日本の典型的な法務部門/組織と比較した場合、特徴的な点は、「『コーポレート・ガバナンス』を担当する」ということが直接的に役割として定義された職務であるということであろう。したがってその職務として、取締役会の運営サポートやガバナンス関連ドキュメントの作成・メンテナンス等だけでなく、たとえば、機関投資家や議決権行使助言会社とコーポレート・ガバナンスに関するテーマ、役員報酬の方針・プラクティスなどについて定期的に討議・意見交換等を行うケースもある(図表3)。

図表3 米国企業のコーポレートセクレタリーの位置づけ (一例)

とはいえ、経営課題としてのコーポレート・ガバナンスアジェンダを実質としてどこまで経営的・戦略的視点で幅広く主導するかについては各社によってさまざまと見受けられ、法務領域を主要範囲とするケースもあれば、より広くガバナンスアジェンダ全般のイニシアチブを取ることを期待されているケースもあり、必ずしも1つのプラクティスが支配的であるということではないと考えられる。

まとめ

ここまで言及してきた日本でのガバナンス主管組織のあり方という論点について、本稿のまとめとして、大きく2つのポイントを示しておきたい。

第一は、コーポレート・ガバナンスの実質化・深化にあたり、そのミッションを明確に持った推進母体たる中核組織を作ることの有用性である。

日本でももちろん、取締役会、株主総会、アニュアルレポート作成などの各ガバナンス関連活動に、それぞれ担当部署や事務局はあるわけだが、多くは、それら各活動個別、いわば"部品"ごとの観点でその仕事が規定されており、「コーポレート・ガバナンス」という全体文脈で役割や責務が定義されたものではないことが多い。

コーポレート・ガバナンスが経営課題となっている今、当該組織のミッション・目的として、「コーポレート・ガバナンスの実質化・深化を図る」ことを真正面に掲げた組織を設置し、相応の権限と陣容を整えることは、社内的にもインパクトを持って受け取られることであろうし、対外的にも自社の本気度・コミットメントを表すこととなり、株主・投資家にとってもわかりやすいシグナルとなる。

そしてもう一点は、米国・英国等に比してコーポレート・ガバナンスの取組み・経験値がまだまだ十分でない多くの日本企業においては特に、ガバナンス改革局面である現段階では、経営トップである社長の直接配下に当該ガバナンス主管組織を設け、運営上の推進力とリーダーシップを備えることが、効果性・効率性の観点からみても大変有効で意味を持つであろうという点である。

企業全体としてのコーポレー卜・ガバナンスに関する経験値が増し、各関係部門の活動や相互連携のあり方が定常化した段階であれば、たとえば米国・英国等の例のように法務部門下に主管組織を置くこと等で、期待される機能は担保され得ると考えられるが、その手前の現段階では、より推進力の高い建てつけであることが望ましいと考えられるのである。

もちろん先に触れたように、形式的に主管組織を設ければいい、ということでは決してないが、主体たる責任・認識を持って、取締役会・社長・経営陣を支え、ともにガバナンスの議論を深められるような組織・機能を設置することは、ガバナンス品質を高めていくことに大きく寄与し得るのではないかと考えられる。

筆者の見聞きする範囲では残念ながら、コーポレート・ガバナンス改革を経営改革と位置づけ、その主管組織を設置したうえで、より質の高い経営の実現を強く推進しようとしている日本企業の例は多くない。したがって、他社に先んじて、「攻めのガバナンス」を実現するための「司令塔」たる組織を新設し、さらなる経営改革を推し進めることは、競争優位性につながり得るといえよう。多くの日本企業において、さらなる取組みが行われることを期待したい。

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※本稿は『旬刊 経理情報 2018年9月10日増大号(No.1522)』(中央経済社)に掲載されたものです。

 

 

執筆者: 田村 征継 (たむら まさつぐ)
組織・人事変革コンサルティング シニアコンサルタント