2015年の会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの適用開始等を契機として、昨今、多くの上場企業等がガバナンス改革の取組みを進めている。本年6月にはコーポレートガバナンス・コード改訂版も発表され、各企業は当該ガバナンス改革を「形式」から「実質」へと深化させていくことが求められている。
一方で、コーポレート・ガバナンスに関わるテーマは、法務、IR、財務、経営企画、人事、秘書室といった、複数の部門にまたがるテーマとなることが多く、主管部門の不在や責任所在の暖昧さによる推進のしにくさ、各部門間の連携の負荷等が、問題点の1つとして挙げられることも多い。このようななか、一部の企業では、事務局や担当者を置く等の対応にとどまらず、コーポレート・ガバナンスを主管する専門部署を設置するなどして推進を図るケースもみられる*。
そこで本稿では、コーポレート・ガバナンスを主管する組織(事務局等を含む)に求められている機能とは何か、について整理を行い、あわせて当該組織の望ましい形態(組織図上の位置づけ)についても考察を加えたい。
各企業においてコーポレート・ガバナンスの強化・充実が経営上の課題として重要性を増している昨今、企業内においてコーポレート・ガバナンスに関する課題・アジェンダを主管する組織には、その形態が部署/チーム/事務局/連絡会等の形式によらず、従来とは違う、図表1のような機能・役割の発揮が期待されてきていると考えられる。
(1)経営的視点からの理解
従来から、関連法制やルールの理解、コーポレート・ガバナンスに関する潮流・動向の把握は当然必要であるが、そういった一般的な知織だけでなく、ガバナンス主管組織として、自社のコーポレート・ガバナンスを発展させることの経営的な意義や、株主・投資家など各ステークホルダーの視点からどのような意味合いを持つか等、より踏み込んだ、かつ主体的な認識・理解が不可欠になってくると考えられる。
これまで (従来の典型的機能) |
これから (今後期待される機能) |
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コーポレートガバナンスに関する視点・視座・理解 |
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自社コーポレートガバナンスの戦略・方向性の定義 |
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コーポレートガバナンス実務の運営 |
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関連部門との協働・連携 |
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(2)コーポレート・ガバナンス戦略・方向性の定義
従来、典型的には社長や取締役会等からの指示・要請を受けて何らかの検討や活動を開始することが現実的には多いと考えられるが、ガバナンス主管組織としては、より能動的に、自社コーポレート・ガバナンスのあり方について検討をし、積極的に提言していくことが期待される。またそのために、コーポレート・ガバナンスに関するルール・潮流等の変化や、自社の事業戦略・事業構造の変化等を機敏に捉え、自社のコーポレート・ガバナンスに関する影響、改善点の抽出や課題の定義をタイムリーに行うことが期待される。
(3)自律的なガバナンス品質向上の取組み
取締役会・株主総会等ある程度決まった年間計画に沿った運営が軸であり、ここに不定期に社長・取締役会の指示・依頼等の対応が入る形が従来の実務の典型例かと思われるが、固定的な年間計画に沿った活動であっても、そのなかで常に、自社ガバナンス機能をより向上するための工夫や改善、いわばPDCAサイクルを自律的に回していくことが求められる。
そのための1つとしてたとえば、株主・資本市場とどのような(形式的なものではなくより実質的なものとして)コミュニケーションを図るか、といったテーマや、社内/社外取締役、社長、執行幹部等の間の情報連携やコミュニケーション円滑化をいかに図るか、といったテーマも含まれてくるだろう。
そして、これらを受動的に進めるのではなく、社長・取締役会等への積極的な提言や、より建設的な議論のためのリード・アドバイスも行うようなあり方が、望ましい姿だと考えられる。
(4)関連部門の主導
前述のように、コーポレート・ガバナンスのテーマは多くの関連部署が関係することが多いなか、責任の所在が曖昧でお互い"見合ってしまう"ようなことに陥りがちであるが、ガバナンス主管組織たる機能としては、まずこういった活動の必要な初動を迅速に取ること、そして当該活動の全般的な主導権・管理責任を持つことが望ましいと考えられる。
各関連部門に、必要な指示・要請を行い、相互連携の中心として、また必要なアウトプットのとりまとめの責任機能として、当該活動をリードすることが期待されるであろう。
昨今、各企業でガバナンス改革が経営課題として重要性を増していることに照らせば、その主管組織は(どのような建てつけの組織であるかにかかわらず)このような、従来とは異なる、より踏み込んだ機能を担うことが期待される。一言でいえば、自社コーポレート・ガバナンス品質の担保・向上の責任組織として、その自覚・認識を持ち、そのために必要な活動を主体的に定義・リード・推進する、ということであろう。
それでは、前述のような、期待される機能を発揮するためには、コーポレート・ガバナンスの主管組織はどのような形態を採ることが望ましいのだろうか。
理屈上は、当該組織形態が、部署/室/チーム/事務局/担当者等の形式を問わず、前述のような機能が発揮できればそれでよいのだが、現実的には、組織の建てつけによって当該機能を持たせにくい/発揮させにくいという可能性も多分にありそうである。典型的な組織形態ごとに、その観点で考えられる特徴を整理すると図表2のとおりである。
(1)プロジェクトチーム型
各関係部署から一過的にメンバーをアサインする形態である。
特定課題の解決を企図して組成された一過的なチーム組成ゆえに、自社ガバナンス品質向上のためのPDCAを継続的に回すといった恒常的な機能は持たせられないと考えられる。
(2)事務局(兼務スタッフ)型
所属部署の業務と並行して、兼務として事務局業務を担う形態である。
兼務でのアサインメントとなるため、どうしても自社のガバナンスアジェンダに対し受動的になりやすいという懸念がある。また、組織図上、ガバナンス関連テーマの推進において、関係部門と並列的な立ち位置で捉えられるケースも多いと考えられ、ゆえに部門間連携における実質的なリード・ハンドリングがやりにくい可能性がある。
(3) 専門組織型A(特定機能部門下)
特定の機能部門(例:法務部門)に、コーポレート・ガバナンス関連を専門に主管する組織として設置する形態である( 「室」、「事務局」など名称は問わず)。
専門組織として設置するため、前述の二形態に比べ、ガバナンスアジェンダをリードする機能を持たせやすいと考えられる。社内的にも専門組織として一定の認識・理解を得やすいという面もあろう。
ただし組織図上、他の関係部門を強くリードすることはやりにくい可能性もあり、結果、関係部門との調整機能が主となり、活動が漸次的な改善等に終始してしまう懸念もある。
(4)専門組織型B(社長直下)
コーポレート・ガバナンスを主管する組織として、実質的に、社長に直接的にレポートする独立組織として設置する形態である。
実質的に社長直下の組織すなわちレポートラインが社長であることから、自社のガバナンス戦略の観点に立脚したうえで、ガバナンス課題を推進し、また関係部門を強くリードする役割を担いやすいと考えられる。ガバナンス改革を経営課題として位置づけるとの主旨が明確化されやすく、社内的にも円滑な活動が展開されやすい環境となることが期待される。
以上整理してきたように、やはり、特にコーポレート・ガバナンスの大きな改革局面では、社長に直接レポートするような形での専門組織の設置が、当該改革を進めやすい面はあると考えられる。
一方で、そういった専門組織を設けたものの実態は社内調整機能や受動的な実務担当に留まる状況に陥っては、改革の推進のエンジンとはなり得ないため、当該組織の設置の検討においては、その実質面が担保・発揮されるよう、組織ミッションの明確化、各関係部門を含めた設置主旨の理解醸成、適切な人材の配置なども重要な観点となろう。
(コンサルタントコラム799号に続く)
担当組織の形態(典型例) | 特徴(概要) |
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プロジェクトチーム型 |
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事務局(兼務スタッフ)型 |
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専門組織型A 特定機能部門の下部に設置 |
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専門組織型B 社長ダイレクトレポート(あるいはそれに準ずるレポートライン) |
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※本稿は『旬刊 経理情報 2018年9月10日増大号(No.1522)』(中央経済社)に掲載されたものです。
執筆者: 田村 征継 (たむら まさつぐ)
組織・人事変革コンサルティング シニアコンサルタント