文化の異なるアジアにおいて人材マネジメントが難しい、優秀な人材が定着しないため人材採用と育成にコストがかかる等、アジアで拠点展開する日系企業より人材マネジメントの課題をよく聞く。一方、欧米企業・グローバル展開するローカル企業の中には、ジョブホッピングが当たり前という文化の中でも人事制度に工夫をして、人材育成や人材の動機付けに成功している。
人事制度の中でも、文化の違いが顕著に見られるのは評価制度である。日本の多くの企業では、期待されていること以上のことをやる、先を読んで動く等の仕事に取り組む姿勢が社員の間で根付いている。そのため評価制度が多少曖昧でも、日本では組織は十分機能し、高いパフォーマンスを維持できているという特徴がある。しかし、アジアにおいては目標や評価基準が曖昧で、処遇との関連が希薄な場合、コミットして頑張って働く社員は少ない。
日本の感覚で現地社員を評価すると「どうして気が利かないのだろうか」、「なぜいつも受身なのだろうか」という印象に陥りがちである。これは評価基準を「能力・行動」に重点を置いていることからくる結果である。一方、現地社員は上司に「成果」を評価してもらいたいと思っている。流動性の高いアジアの労働市場においては、キャリア意識が高いゆえに、「成果」に連動した報酬や昇格に対する執着が強い。日本では中長期雇用を前提としているため、将来にわたって継続的に成果を生み出せる人材が求められている。短期的な「成果」よりも、安定的・継続的に「成果」を生み出すことのできる「行動」といった要素を重視する傾向がある。
この認識の違いは、日本人管理職と現地社員の信頼関係にマイナスの影響を及ぼし、現地社員の「任せてくれない」「正当に評価されていない」という不満に繋がっている可能性がある。事態が悪化すると、優秀な社員の離職、現地化の進まない理由に繋がっているとも考えられる。
アジアに拠点をもつ多くの日系企業が抱える評価制度の課題をここで共有したい。
これまでの考察を踏まえて、アジアにおいてはどのような評価制度が適しているのか考えてみたい。
評価制度を通じて処遇と育成をうまく運用し人材を動機付け・確保することが、変化の激しいアジアでの海外事業展開・人材マネジメントの鍵になると考えられる。そのためには、如何に迅速にアジア各国の文化及び労働環境の変化に応じた評価制度を設計し、海外拠点の管理職をサポートできるインフラを整備できるかが肝要となる。
また、評価制度がもつ機能の一つとして、人材育成がある。アジアに拠点をもつ日系企業において、評価制度を通じた現地人材の育成、ならびに海外事業戦略の達成及び現地化推進は喫緊の課題である。評価を通じて、期初に個人の課題を把握した上での目標設定、期中に上司から部下へ課題解決に向けた支援・指導、期末に改善点と対応策のフィードバックを徹底することで、現地社員の育成に繋げることができる。そのためには、評価者の育成及び戦略的な評価制度の運用が重要になってくる。
執筆者: 上原 和子 (うえはら かずこ)
Mercer Japanese Business Advisory and Mercer Career Products シニアコンサルタント