組織人事のアナリティクスの明日

アナリティクス、ビッグデータ、コグニティブ等の言葉が世間に広まり始めたのは2011年頃と記憶している。当時は眉唾モノと言われたアナリティクスも、ここ数年で急速に現実味を帯びてきた。以前に、人事のアナリティクス初級編として(海外子会社のワークフォース見える化とベンチマーク)、組織の生産性指標、要員構成や報酬の市場水準データをご紹介したことがあったが、本稿ではこれに続く"明日から役に立つアナリティクスPart2"として、"要員の人口動態の見える化"をご紹介したい。

1. 要員の人口動態とは?

企業の労働力は流動的に移動し変化する人材によって形作られている。 人材は、社会情勢や市場環境等の外部要因に限らず、企業の人材戦略/人材マネジメントを受けて入社、昇進、異動、退職するが、これらを表すのが"要員の人口動態"である。具体的には、特定の地域や職種を対象として、階層別の要員構成に対して入退社、昇進・異動等の動態を整理したものを指す。要員構成や動態に自社の事業戦略や人事戦略を重ね合わせることで人材マネジメント上の課題やリスクを把握することをねらいとしている。

要員の人口動態の見える化(サンプル)

2. 要員の人口動態を見ると何がわかる?

要員の人口動態を読み解くに当たっては、人口ピラミッドの形と階層内、階層間での要員数変動に着目して、自社戦略/方針との合致をチェックすることで得られた課題やリスクを議論のテーブルにのせてゆくことが望ましい。

要員の人口動態のチェックポイント

  • 要員構成はビジネスモデルや事業戦略に沿ったものになっているか?頭でっかちになっていないか?
  • キャリア上のボトルネックはどこにあるか?それは意図したものか?
  • 離脱者(離職)が多い階層はどこか?離職率は想定の範囲内か?他社と比較して高すぎないか?重要人材が流出していないか?
  • 外部採用(Buy)と社内育成(Build)のバランスに問題はないか?昇進枠が外部採用者に独占されていないか?

例えば、上記サンプルのケースでは、ボリュームゾーンであるLevel3に注目されたい。他Levelと比べて、離職率・外部採用率が最も高く、次レベル(Level4)への昇進率は最も低い。つまり、Level3がキャリア上のボトルネックとなっていることが見て取れる。社内で育成してきた人材がキャリア上の行詰まりを感じて流出している? 数少ない昇進者が外部採用者で占められている? そもそも昇進スピードが遅すぎる?等が様々な課題が考えられる。結論を出すには、原因調査・インタビューや各項目を市場水準と比較するなど追加分析を要するものの、アラートからリスクに気付くという目的は十分に果たされるだろう。

3. 要員の人口動態の高度活用とは?

上記で述べたような分析をさらに発展させて高度に活用する方法としては、要員の人口動態分析や要員コントロールを継続的に実施した結果を蓄積し、そのデータを基に要員構成と人口動態をモデル化し、将来の要員構成予測やシミュレーションを行うなどの使い方が考えられる。

アナリティクスで重要なのは、難しい統計手法を使うことやとんでもない量や新しい種類のデータを使うことではなく、得られる示唆や気づきの価値と考える。シンプルでもまずは始められることから着手し、小さなアナリティクスの成果を手にしていただけたらと考える次第である。
また、シンプルとはいえアナリティクスに取組む以上、一定程度の精度を持ったデータが必要となる。近いうちに人事部門でもアナリティクスを…とお考えになるのであれば、まずは自社データの収集・蓄積だけでも早期に着手されることを推奨したい。これこそ、本当の意味で明日から始められるアナリティクスと言えるに違いない。


 

執筆者: 伊藤 実和子 (いとう みわこ)
プロダクト・ソリューションズ コンサルタント