2018年最新海外派遣者処遇 10年間の変化に見る多様化(ダイバーシティ)の進展

外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案1が参議院で可決、成立した。今後日本で働く外国人材がさらに増加することが考えられる。

一方で、同性のカップルを公的に認めるパートナーシップ制度2を導入する自治体(2018年11月現在で11市区)が増えた。日本の大手企業でも、同性のパートナーを持つ社員について、異性の配偶者の場合と福利厚生面で同様に扱う制度が導入されはじめている3

1 第197回臨時国会において、『出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案』が提出された。新たな外国人材受け入れのための在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」の創設、「特定技能2号」については、外国人の配偶者および子に対し在留資格を付与することを可能とする規定の整備などが示されている。
参考:法務省資料

2 戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係をパートナーシップと定義し、一定の条件を満たした場合に自治体が公に婚姻に準ずる関係などとして証明する制度。具体的な内容は各自治体によって異なる。
参考:渋谷区パートナーシップ証明書

3 参考:コンサルタントコラム722 三条 裕紀子「LGBT社員に向けた福利厚生制度について」

こうした変化に伴い、日本企業の社員がより多様化(あるいは、多様な現状が顕在化)する傾向が加速すると見込まれる。
マーサーは1990年代から日本企業を対象にした海外派遣者の処遇制度と運用に関する調査を実施してきた。この程、2018年の調査結果をリリースしたが、この最新調査レポート4と、10年前の調査結果5を比較すると、海外に派遣される日本企業の社員の規程や制度にも、社員の多様化に伴う影響が垣間見える。ここでは、その一部を紹介したい。
今後予測される、社員のさらなる多様化に対応するためにも、海外派遣者の規程や福利厚生制度を再検討するうえでの一助となれば幸いである。

4海外派遣規程および福利厚生制度調査」本国への帰任を前提とした派遣期間1年以上の長期派遣の海外派遣者の規程、福利厚生制度に関して、2018年に調査を実施。日本企業482社が参加。

5 「海外駐在員給与・処遇制度および運用実態に関する調査」 2008年調査実施。日本企業176社が参加。グローバルでも同時に行なわれた調査であり、アジア67社、ヨーロッパ220社、北米467社が参加。

海外派遣者規程における配偶者の定義は?

 
2008年
2018年
婚姻関係にある妻または夫
80%
69%
妻・夫に加え、長きにわたり同居している事実婚の異性パートナー
13%
3%
妻・夫に加え、長きにわたり同居している事実婚のパートナー(異性、同性を問わず)
0%
3%
会社として特に定義はしていない
7%
26%
回答企業数
174
482

 

家族・配偶者の定義は、海外派遣者給与水準や会社がサポートする福利厚生の内容に関係する。
配偶者を「婚姻関係にある妻または夫」と定義する企業が大多数を占めていることに変わりはない。

「妻・夫に加え、長きにわたり同居している事実婚の異性パートナー」と定義する企業が13%から3%に減り、「会社として特に定義していない」企業が7%から26%に増えたのは、本調査の参加企業数の増加に伴い、派遣規模が小さい企業の割合が増加したことが影響していると考えられる。2018年調査では、派遣者数が50人以下の企業が参加企業の55%を占めている。2008年調査では各社の派遣者数については調査していないため参加企業名リストからの推測になるが、派遣者数が50人以上の企業が多数を占めていると考えられる。筆者の推察だが、これら派遣規模が比較的小さい企業の多くは、配偶者は婚姻関係にある妻または夫という意識が強いために、規程で定義すべき項目という認識がないまま策定された過去の規程が見直されていないのかもしれない。

「妻、夫に加え、長きにわたり同居している事実婚のパートナー(同性、異性を問わず)」と定義する企業は10年前の調査では皆無であったのに対して、2018年調査では3%(14社)に上っていることは、多様なパートナーシップ・家族のあり方に対応する企業が現れ始めたことを示しており、数値上の変化は小さいものの、大きな意義があると考える。

一方、日本以外の地域の企業の調査結果5では、10年前の時点ですでに半数近くの企業が「妻、夫に加え、長きにわたり同居している事実婚のパートナー(同性、異性を問わず)」と定義していることが確認されており、未だ7割近くの海外派遣規定・制度上の配偶者の定義が狭義に留まっている日本企業との傾向の差は歴然としている。

一時帰国の渡航先、多様化への対応

 
2008年
2018年
本国に限定している
97%
83%
本国以外にも認めている
3%
17%
回答企業数
174
444

 

海外派遣期間中の一時帰国は、1)派遣者と家族の結びつきを維持するため、2)派遣者のキャリアおよび仕事上の人間関係を維持し、会社内の同僚との交流を絶やさないための配慮として定期的に与えられる、会社負担による本国への渡航として位置づけられる。1)の目的を考えると、派遣者本人や配偶者の出身地、家族が居住する場所が多様化している場合(外国籍の社員、国際結婚カップル、家族が海外に在住しているケースなど)、結びつきを維持すべき場所は本国(派遣元)とは限らない。派遣者本人や家族の背景の多様化を考慮して、一時帰国の渡航先として、派遣者本人や配偶者の出身地、家族が居住する場所を認める企業の割合が10年前と比較して3%から17%へと増加している。海外派遣者とその家族の背景の変化に応じて、各企業が対応してきている結果がうかがえる。

海外派遣者の男女比、依然女性は3パーセントに留まる

 
2008年
2018年
男性
98%
97%
女性
2%
3%
回答企業数
173
463
派遣人数
26,556
45,836

 

日本企業における海外派遣者の男女比率を見ると、派遣者全体に女性が占める割合は、2008年時と比べ2%から3%へと、僅か1ポイントの微増に留まる。女性の海外派遣者数は、今回の調査では1,576人に上った。しかしながら、日本以外の地域の企業の調査結果5において、2008年時点で女性の割合が15%を超えていることと比較すると、日本企業の海外派遣における女性の活用・性別の多様化はほとんど進展していないとも捉えられる(なお、本調査においては、男女以外の性・性的少数者については調査されていない)。

 

以上、ここでは3つの事例のみを取り上げたが、かつての日本の企業においては、以下のような社員像を想定し、海外派遣者規程および福利厚生制度が規定されることが多かったと考えられる。

  • 派遣者本人は男性
  • 本人や家族の出身地、家族の居住地は日本
  • 配偶者の定義は、婚姻関係にある異性
  • 配偶者は本国、任地で就労していない (本国で就労していた配偶者は、帯同に伴いキャリアを中断する)

前述のように、こうした海外に派遣される社員像はすでに変化・多様化している。一部の日本企業は、この傾向に対応し、海外派遣者規程や福利厚生制度を見直し、この10年の間にも大きな変化が見られた。一方で、未だ10年前と同じ規程・定義のままの企業も少なくなく、今後のさらなる海外派遣者像の変化・多様化を見据え、再考される必要がある。

今回のコラムでは、海外派遣者の変化・多様化に焦点をあてたが、この他にも、10年の間に日本の企業における海外派遣の位置づけ、海外派遣者を取り巻く環境は大きく変化している。ビジネスにおける女性の活躍の場が僅かながらも広がりはじめ、派遣先として新興国が増え、海外派遣は以前ほど特別なものではなくなった。海外派遣者の処遇は、公平かつ合理的であるべきという考え方を堅持しながら、時代の変化、企業の海外ビジネス戦略、派遣者のニーズに合わせ、より公正で魅力的な処遇制度となるように、定期的な見直しが必要である。もし貴社の海外派遣者規程が10年以上改訂されていないのであれば、本調査レポートをご覧いただき、見直しの余地はないか検討いただきたい。


 

執筆者: 小野 佳奈子 (おの かなこ)
プロダクト・ソリューションズ コンサルタント