海外拠点はいまや独立した存在として収益責任を負っており、各国において最適な組織体制の構築と強化に取り組んでいる。しかし、そこに出向している海外派遣者は組織体制の構築と強化に貢献しているのであろうか。そして、処遇制度はどうか。見直されないまま高コスト体系が放置されてはいないだろうか。

 

派遣期間の長期化で過払いに 

当社の購買力補償方式は、「No Loss, No Gain」の思想のもと、海外派遣によって経済的な損失や利益が発生することのないよう本国と同等の購買力を補償するものである。日本人が海外で「暫定的」に暮らす場合を想定したもので、①派遣期間は1年以上5年未満、②本国へ必ず帰任する、③本国と派遣先地域には物価や為替の差があるという3つが適用の前提条件になる。
しかし、どの段階で海外派遣者から現地社員に切り替えるかといった現地化計画や海外派遣者 の要員計画が劣後していたりすることから、ただ本社にとって便利だから海外勤務を続けてもらいたいということで、高コスト体質、過払いが長期化する例をよく目にする。

 

海外派遣者処遇には生計費差額補填という都市別に異なる特殊なコストが含まれている。さらに、税・社会保障の負担、任地住宅支援、教育支援、一時帰国費用などの特殊なコストが加わる。購買力補償方式を適用し、海外へ社員を派遣する場合は、必ず高コストになる。故に、現地組織に貢献できる優秀な人材の選定、派遣期間と目標の設定が欠かせない。その上で、海外派遣者処遇の適正化・スリム化に取り組むことになる。

 

複線的にポリシーを整備・スリム化 

長期派遣、短期派遣、トレーニー、役員クラス派遣など、その求められる役割や期間の違いを踏まえると、購買力補償方式だけでは処遇しきれない、あるいは妥当でない場合が出てくる。こうした状況に対して、外国企業(グローバルプラクティス)では海外派遣を「目的・貢献度」「期間」「コスト」を軸に複線的な処遇が行われている。すなわち、派遣者の立場・位置付けと処遇ポリシーを区分し、購買力補償方式だけでなく、「海外出張」「短期派遣」「現地化」など複線的にポリシーを整備することで、内部公平性を担保しながらコストの適正化を図るというやり方である。
また、海外派遣者給与を算出する際、起点となる理論年収の設定方法は実態に合っているか、支給目的にモレやダブりのある手当はないかなども海外処遇を適正化する上で着目しなければならない。任地生計費で処遇すべき項目と海外勤務手当、ハードシップ手当で処遇すべき項目が混在していないだろうか。

 

適正化に向けた4つの視点 

購買力補償方式のスリム化を検討する視点は、次の4つである。
第1に外部競争力の確認。海外給与水準が他社に比べて高いか低いか、マーケット比較をして自社の競争力を把握する。そして、スリム化すべき項目を可視化する。
第2に二重支給の回避。これまでの経緯などによる医療費、子女への語学研修費用などの二重支給、派遣都市による有利・不利が発生する項目も散見される。相関関係にある福利厚生を確認・検証し、適正化に向けて施策を講じる。
第3に最新の手当水準データの確認。手当水準の改定・検討を行うことで必要以上のコスト がかからないようにしたい。
第4にグローバルプラクティスとの比較を通じたスリム化の検討。グループ内で国籍を問わず国境を越えた異動もある時代。「グローバル共通異動ポリシー」を整備する必要がある。それを日本人へも適用することで処遇のスリム化を図る。グローバルプラクティスとの違いを通じて、例えば、単身赴任者処遇のあり方、ひいては自社のPay for Family という処遇方針と向き合うことになるだろう。

質疑応答

―― 現地の物価が下落した実感がない中で生計費指数が下がることを派遣者にどう説明したらいいか。
生計費指数は、本国における本国通貨建ての生計費額を100 とした場合に、任地でこの購買力維持に必要な現地通貨建て任地生計費額を算出するための数値。本国と任地の物価変動、本国通貨と現地通貨の為替変動の影響によって変わる値となるため、必ずしも“生計費指数が小さくなる=任地生計費額が下がる”ことではない。現地通貨建て任地生計費額の変動を説明されることをお勧めする。

―― 派遣期間長期化への対応はどうしたらいいか。
最初に規程で派遣期間を明示しておくこと。「1年以上」とだけ書いてあるようなあいまいな例が多い。

(文責・日外協)
グローバル経営 2019年6月号


内村 幸司

講演者: 内村 幸司 (うちむら こうじ)
プロダクト・ソリューションズ プリンシパル

 

 

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