コンサルタントコラム 732
アスリートたちに学ぶ

今年の夏は、リオデジャネイロオリンピック/パラリンピックや、イチロー選手のメジャー通算3000本安打達成など、アスリートたちの活躍に手に汗を握り、胸を熱くした毎日を過ごした人が多いのではないだろうか。日頃、あまりスポーツに関心のない私も、テレビの前で釘づけになり、思わず拍手をしたり、感動の涙を流したりと、例年になく「熱い」夏を過ごした。

オリンピックや大リーグの場で活躍するような一流のアスリートのパフォーマンスは、どうしてこんなに人々に感動を与えるのだろうとふと思う。

1. 最高のパフォーマンスへのこだわりと集中力

アスリートたちが本番という瞬間に臨むときの表情やしぐさからは、自分自身の最高のパフォーマンスを発揮することに対する強い意気込みが伝わってくる。メダルをとりたいとか、記録を破りたいという気持ちももちろんあるだろうが、その一試合、その目の前の相手、そして、その瞬間に向き合うときは、前の試合のことや会場の声などは気にせずに、自分自身の最高の演技をすること、自分で満足のいく演技をすることに集中している。

  • 「目の前のことだけを考えてプレーしたい」 (卓球の福原選手 3位決定戦を前に)
  • 「自分の力を出し切るようなパフォーマンスができたと思います」 (水泳の萩野選手 帰国会見で)

一流のアスリートであればあるほど、自分の最高のパフォーマンスを本番で発揮することへのこだわりと集中力が高いように思う。言い換えれば、自分自身のベストを尽くすという意識が、強烈な集中力を生んでいるとも言える。

2. 自己管理能力

一流のアスリートたちの本番における完成度の高いパフォーマンスを見ていると、そこにいたるまでの練習や日常生活がどのようなものであったかを垣間見るような気がする。アスリートたちは、4年に1度のオリンピックだけではなく、様々な国で様々な試合を経験するわけだが、そのような試合に向けて目標を立て、着実に練習を積み重ね、試合を経験しながら、自分に何が足りないのか、どうやったら目標に近づけるのかを常に問いかけている。また、特に海外の試合では、体調が万全ではないときや環境に恵まれないときもあるだろうが、どういう状況であっても、いかに普段通りの自分の実力を発揮するか、という試練に直面していると思う。

アスリートの世界では「心・技・体」という言葉をよく使うようであるが、日々の練習や試合を通じて、技を磨くだけではなく、メンタルタフネスや本番での勝負強さも鍛えておかなくてはいけない。メダルや記録へのプレッシャーがかかる一流のアスリートにとっては、技よりも、心を鍛えることの方がより重要なのかもしれない。

  • 「気持ちが落ちてしまうと、それを肉体でカバーできませんが、その逆はいくらでもあります。」 (イチロー選手)

一流のアスリートは、自分のパフォーマンスがメンタル(心のあり方)で大きく変わることを理解しているからこそ、日々、自分の心に向かい合い、ウィークポイントを補強し、自分の心をコントロールできるようになるまで、努力を続けることができるのだろう。だからこそ、本番でどのようなピンチや想定外なことに陥っても、冷静さを失わない心の強さがあるように思う。

また、日々の体調管理、食事、睡眠、休養などすべての面において、自己管理している一流のアスリートは多い。海外での試合が多いことや、体調不良が怪我につながりかねないことなどを考慮すると、アスリートが自分の体に対する自己管理も徹底していることは当然かもしれないが、ややもすると、ビジネスパーソンが最も軽視しがちなところではないだろうか。

アスリートの完成度の高いパフォーマンスを見ていると、心・技・体のいずれの面においても、日頃から自分に真剣に向き合い、生活の改善を重ねるという、自己管理が行き届いていると感じる。

3. 他者への感謝と使命感

リオデジャネイロオリンピックの試合後のインタビューでは、勝者も敗者も必ずコーチや家族、応援してくれた人々への感謝の気持ちを述べていた。また、自分のパフォーマンスにとどまらない、より高い使命感のようなものを口にしていた。

  • 「コーチのことを信じ続けてきて本当によかった」 (水泳の金藤選手 決勝戦後に)
  • 「内容的に満足できるものではなかったですけど、柔道という競技の素晴らしさ、強さ、美しさを見ている皆様に伝えられたんじゃないかなと思います」 (柔道の大野選手 決勝戦後に)
  • 「体操の難しさ、おもしろさを伝えられたことが、勝ち負けよりもよかった」 (体操の内村選手 試合後に)

自分の目標を追究するだけでなく、自分を支えてくれている周りの人への感謝の気持ちが生まれてきたとき、そして、指導者やコーチを始めとする周りの人と一体となり、自分がやっていることの社会的な意義や使命感を追究しようとする強さを心に秘めたとき、アスリートの本番でのパフォーマンスはより安定感と完璧さを増すものになるのかもしれない。

これらのコメントは、試合後に選手の口から出てきたものではあるが、日々、このような感謝の気持ちや使命感を抱きながら自分を高めてきたことは明らかである。

一流のアスリートの本番でのパフォーマンスというのは、1. 最高のパフォーマンスへのこだわりと集中力、2. そのための日々の自己管理能力、3. 他者への感謝の気持ちと使命感といったものが、その瞬間に凝縮されているからこそ、人々に感動を与えるのだと思う。

また、そう考えると、一流のアスリートとは、生まれながらにして資質や能力に恵まれた部分があるにせよ、地道な(でも並外れた)努力を積み重ねることによって、常に高い目標や使命感を追究し、達成しようとする人と思えてくる。そして、そういったアスリートの思考や行動に思いをはせると、ビジネスパーソンに共通することや、ビジネスに活かせることがたくさんあるように思う。

日々の仕事の中で、自分のパフォーマンスへのこだわりがあるだろうか。ここ一番のところで集中力を発揮しているだろうか。最高のパフォーマンスを発揮するために、日常の生活を少しでも改善しているだろうか。自分の気持ちや体にきちんと向き合うことができているだろうか。そして、自分を支えてくれる人たちに感謝の気持ちを伝えたり、自分の仕事の意義を意識したりしているだろうか・・・

私たちはいつの間にか枠や限界というものの中に自分を閉じ込めて安住しがちであるが、これらの問いかけを自分自身にすることにより、そういった枠や限界といったものを打破しながら、日々を送ることの大切さを、アスリートたちが教えてくれたように思う。

さて、4年後の東京オリンピックに向けて、アスリートたちとともに、私たちはどのくらい成長できるだろうか?