メディア掲載記事
年金情報 No.746 2017.9.18
*当記事は『年金情報 No.746 2017.9.18』の『運用コンサル』に寄稿した内容の再掲載

 

運用コンサル

年金運用の高度化戦略 資産配分管理(5) 損失限定や責準対比、基金ごとに応用管理

通常、一定の目標の下に中長期的な視点から定められた戦略的な資産配分は、長期にわたり維持すべきとされる。株価が下がったら買いを入れてポートフォリオ・リスクが下がらないよう留意しつつ、ある日突然やって来る上昇相場の恩恵を受けられるよう備えておく。また逆に、上がったらこまめに売ることにより、ある日突然やって来る下落相場で当初想定以上の損を出さないようにしておく。期待した成果を得るにはポートフォリオ・リスクを一定に保つべきということだ。

しかし、すべての投資家にとって一定のリスクを取り続けることが適切であるとは限らないかもしれない。ここではその可能性のある例として、①年度末などの特定の「満期」までの損失を一定範囲内に抑えたい投資家②給付超過状態にある年金制度など資産の継続的な取り崩しが見込まれる投資家――の資産配分戦略を取り上げる。

【年度末考慮し、損失限定戦略】

年度末など意識すべき特定の「満期」を持つ投資家にとっては、その満期までに上昇相場が来るとは限らない中で、株価下落時に安易に買いを入れることはできない。むしろ出血を止めるべく売った方がよい、ということもあるだろう。下がったら売り、上がったら安心して買いを入れる。真逆の資産配分戦略をとることになる。この戦略は、オプション価格の計算モデルとして知られる「ブラック・ショールズ・モデル」も正当化している。

図1a)のように、年度末までに株価が上昇した場合にはある程度その恩恵を受けたいが、下落した場合の年度の損失は一定範囲内に抑えたいという投資家は、図1b)のような株式保有戦略を採るべきと、ブラック・ショールズ・モデルは説く。図1b)は9月末と12月末の各時点において、株価水準に応じて株式をどの程度保有すればよいか示したものだ。つまり年度初に2万円だった株価が上昇していれば上昇しているほど株式の保有比率を上げるべきで、下落していれば下落しているほど下げるべきであることを示している。

金融機関の資金運用はもとより、長期投資家といわれる年金であっても、毎年度末の資産額をもって、追加掛け金の要否を判定されたり、退職給付会計上の年金費用が確定したりするように、年度末を意識せざるを得ない状況がある。その要請が強い場合には、概念的にはたとえば年度末が近付いた段階で、その時点までの損益を考慮して年度末に向けたリバランス戦略を見直してみるということが考えられる。ただし、年度末を無事乗り切ったら翌日にはよほどのことがない限りすぐに当初のリスク水準に戻せるよう、ルールなどを設けておいた方がよさそうだ。一度落としたリスクを再び取るタイミングを意思決定上の関係者に諮ろうとすれば、「今はやめておいた方がいい」など、様々な意見が出て収拾がつかなくなる可能性があるからだ。

(図1)ブラック・ショールズ・モデルによる損失限定戦略

 

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今井 俊夫

執筆者: 今井 俊夫 (いまい としお)
資産運用コンサルティング
シニア コンサルタント



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