メディア掲載記事
年金情報 No.739 2017.6.19
*当記事は『年金情報 No.739 2017.6.19』の『運用コンサル』に寄稿した内容の再掲載

 

運用コンサル

年金運用の高度化戦略 資産配分管理(2) 単純化で運⽤の「原点回帰」

前回は、ポートフォリオ全体を「安定資産」と「収益追求資産」の2つに大きく分けて考える「目的別資産管理」について、その典型的な運営例(以下「典型例」)を示し、この考え方のポイントについて、①「安定資産」として一定の流動性と安全性を確保しておくことによって、それ以外の部分で自由な収益追求活動が可能になること、②計画段階でのリスクの過小評価を回避することにあることーを解説した。そのほかにも、③金融変数からの解放④長期投資と分散投資戦略の分離―と大事なポイントが2点あると考えている。

【ポイント③ 金融変数からの解放―シンプルにリスクに着目】

平均分散法に基づきポートフォリオを最適化しようとすると、資産の数だけの期待リターンと標準偏差、組み合わせの数だけの相関係数を用意しなければならない。4資産の場合には全部で14変数になる。どんなに労力をかけてこれらの数値を準備したとしても、その安定性には疑問が残る。株式や為替の期待リターンは実現可能性が高いとは言えないうえ、相関係数も、前項で見たように急変することがある。にもかかわらず、最適化は、こうした数字のわずかな差に敏感であり、時として極端な結果を導くため、根拠のはっきりしない制約条件を持ち出さなければならないことがある。

典型例では国内債券とグローバル株式の二資産に絞られているため、必要な変数の数は5とかなりシンプルになる。「最適化」もない。グローバル株式の期待リターン以外の4つの変数は比較的安定性の高い数値を得られるとすれば、「グローバル株式(収益追求資産)のリターンを仮にこのくらいだとすれば目標リターンを達成するために必要なリスクはこのくらい」といったラフな議論を気軽にできる。こうして、もっとも大事な資産配分を決める上ではとにかくリスクに着目しようというメッセージを意思決定上の関係者にもシンプルに伝えることができる。

一方、安定資産と収益追求資産の配分が決まり、それぞれの具体的な分散投資を検討する段になれば、期待リターンや標準偏差の資産間の相対比較はその有効な材料になる。いま何に投資するのがよいのか、収益追求資産の期待リターンがグローバル株式に対して極端に低くなっていないか、それぞれで分散した結果、安定資産と収益追求資産の間の相関関係が前提と変わっていないか、といった検討を重ねてポートフォリオを構築していくのである。

【ポイント④ 長期投資と分散投資戦略の分離―投資機会に合わせて判断も】

最後のポイントは、資産を「長期投資に値するもの」と「今だから投資できるもの」に分類し、前者には政策的配分を与えて長期保有にコミットする一方で、後者はいつでもやめられるようにしているという点である。

典型例においては、長期投資に値する資産として選ばれているのが、国内債券とグローバル株式ということになる。マイナス金利政策導入以降その根拠は揺らいでいるが(これについては次回扱う)、国内債券は基本的に元本が保全され安定した金利収入を見込める投資対象であるし、グローバル株式は、(為替要因を除けば)グローバルな株主の圧力の下、グローバルに収益機会を追求する企業活動の成果を享受できる。債券利回りを下回るような成果しか期待できない株式は長い目で見れば淘汰されているはずである。

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今井 俊夫

執筆者: 今井 俊夫 (いまい としお)
資産運用コンサルティング
シニア コンサルタント



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