年金ニュースレター第13号
FASの改正動向(複数事業主制度の開示拡充)

以前ニュースレター(年金・財務リスクマネジメント・ニュースレター第9号)でもご説明しましたが、米国財務会計基準審議会(FASB)では、総合型厚生年金基金などのいわゆる複数事業主制度に関する情報開示の拡充が検討されてきました。

基準の最終化・公表は9月中頃までに行われる予定となっていますが、現時点で改正内容がほぼ確定したため、本ニュースレターでお知らせいたします。

開示が必要となる情報

掛金拠出額からみて重要1と判断された制度について、次の項目を「表」形式で開示します。

1:重要:multiemployer plan for which contributions are individually material
  • 制度名
  • 事業主番号、制度番号
  • 貸借対照表日時点(通常2年分)の直近の積立状況、具体的には、
    • 米国の制度であればcertified zone status2
    • 米国外の制度であればそれに類似した情報として、次のいずれの状態にあるか
      (i) 積立水準が65%未満、(ii) 積立水準が65%から80%の間、(iii) 積立水準が80%超
  • 定められたルール("funding improvement plan or rehabilitation plan")に基づいて積立水準を回復するために掛金を拠出しているか否か
  • 各事業年度(通常3年分)について、制度への掛金拠出額
  • Surcharge3を支払っているか否か(日本の制度では該当する事項はないと考えられます。)
  • Collective bargain agreement4の有効期限(日本の制度では該当する事項はないと考えられます。)
  • 制度への掛金拠出額が、その制度全体の掛金額の5%を超えているか否か

また、重要な制度以外の制度については掛金拠出額を開示します。

 

2:米国の制度はその積立状況に応じて「赤」「黄」「緑」に分類されます。

3:米国では、積立水準の著しく低い制度は「Rehabilitation plan」という積立計画を定め積立水準の回復を図りますが、その計画を実施するか否かは各事業主が労使協議に基づき判断します。計画を実施しない場合には、ペナルティとしてSurcharge(追加掛金)が課せられます。

4:米国の場合(注3)の通り、労使合意に基づき積立計画を実施しないことが可能です。労使間で確認した運営方法についての合意を「Collective bargaining agreement」と呼びます。日本では規約に定められた掛金を拠出しなければならないため、Collective bargaining agreementに相当する概念はないと考えられます。
公開草案からの主な変更点

公開草案では、制度から脱退するとした場合に必要となる一括拠出金の開示が要求されていましたが、最終的にはこの開示は不要となりました(ただし、制度からの脱退を予定している場合には、開示または負債計上が必要となります)。

また、公開草案では定性的な情報開示が多く求められていましたが、最終的にはそれらは撤回され、容易に入手可能で定量的な情報の開示に限られることとなりました。

適用時期

2011年12月15日以降に終了する事業年度から適用となります。早期適用も可能です。また、この基準は遡及適用される見込みとなっています。従って、例えば12月31日決算の会社の場合、適用初年度については2011年12月31日と2010年12月31日の(直近の)積立状況に関する情報および2009、2010、2011年度の掛金額を収集する必要があります。