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プロフェッショナル対談 第3回

Mercari x Mercer

企業・社員のパフォーマンス向上にリモートワークを活かすには、明確なコミュニケーションや評価の仕組み、効率的な業務の進め方が重要です。また、社員同士の信頼関係がその前提となります。株式会社メルカリ 執行役員CHROの木下達夫様にお話を伺いました。

Mercari x Mercer

第3回 リモートワークを通じたパフォーマンスの向上にむけて

 

株式会社 メルカリ

 

執行役員 CHRO
木下 達夫 様

 

慶應義塾大学卒業後、1996年に新卒でP&G(現:プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社)に入社し、人事部で採用とHRBPを担当。2001年に日本GE株式会社入社。HRリーダーシッププログラムを経て、GEプラスチックス(現:SABICジャパン)のブラックベルト、同栃木工場の人事マネジャー、GEキャピタルの人事ディレクター、同アジアパシフィック人材・組織開発リーダー、日本GE人事部長などを歴任した後、マレーシアにてASEAN人材・組織開発ディレクター、GEオイル&ガス(現:ベーカー・ヒューズ・GEカンパニー)のアジアパシフィック人事責任者・シニアHRビジネスパートナーとなる。2018年12月からメルカリに参画して、現職。


インタビュアー:山内 博雄

組織・人事変革コンサルティング部門 シニアプリンシパル

 

 

社員がリモートワークができる環境づくりを支援

今回のコロナショックを受けて貴社ではどのような対応をされていますか

メルカリでは2月中旬から在宅勤務を強く推奨するようにしており、比較的切り替えは早かったと思います。緊急事態宣言以降は福岡・仙台のカスタマーサービスを含む全社に在宅勤務を適用しており、官公庁向けの書類申請などやむを得ない場合の出社対応を除き、ほぼ全社員が在宅勤務へと移行しました。

リモートワークに対する貴社社員の反応はいかがでしょうか

もともとリモートワークは取り入れておりインフラも整っていたので、ほとんど混乱なく移行ができました。全く問題なくリモートで業務を継続できており、思った以上に生産性を落とさずにやれるというのが実感です。

3月、4月に社員アンケートを実施し、業務の生産性について調査をしましたが、社員の約35%は生産性が高くなった、約50%は変わっていない、約15%は下がったと回答しています。生産性が高くなった理由としては、通勤しなくて良い・集中してプログラミングができるといった点が挙げられていました。一方、下がったという約15%の理由としては大きく二点あり、経営陣と人事で対応を図りました。

一点目は、通信インフラなど働く環境に関する問題です。そこで緊急事態宣言が発令された日に、全社員を対象としてワークフロムホーム手当6万円の支給を決定しました。使い道は完全に自由で、通信インフラを整備するだけでなく、座りやすい椅子を買う社員もいたようです。また、社員同士がカジュアルなコミュニケーションをとるためのオンラインランチなどにも活用してもらっています。いったん、月1万円×6ヵ月間としていますが、早期に緊急事態宣言が解除されても返金なし、緊急事態が延長されれば別途検討する予定です。

二点目は、家族の関係で働く時間の確保が難しい社員がいることです。特に緊急事態宣言以降の保育園の登園自粛などを受け、日中はお子さんの世話で仕事を進められない社員がいました。そこで4月中旬にコアタイムなしのフルフレックス制度を導入しました。一ヵ月に160時間働けばよく、平日の時短分を週末に埋め合わせることも可能です。今のところ期間限定としていますが、その効果を検証してできれば恒久的なポリシーにしたいと考えています。

株式会社メルカリ 執行役員CHRO 木下様とのオンライン対談の模様

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コミュニケーション貯金のある関係性があれば、リモートワークはむしろ効率的に進む。ただし、オフィスはアイディアを創発する場所として有効。今後Full-Flex化を進め、グローバル化に柔軟に対応していく。
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リモートワークは社員同士の信頼関係が前提。今後はオフィスの意義も変化

今後は、オフィスで働くことの目的や意味合いは変わっていくでしょうか

アフターコロナの働き方に備えてオフィスを再設計しようと考えています。ちょうど元々、新たなオフィススペースの拡張計画を予定していたため、新オフィスでは会社への帰属意識を醸成する場、アイデアを創発する場、といった目的のもとに、ミーティングスペースを多くとるなど設計にメリハリをつけていく予定です。リモートワーク時代にもオフィスは重要であり、在宅勤務とオフィス勤務の両方の良さを活かしていく必要があります。

働く上で、社員同士が対面することの良さは何でしょうか

我々が「スクラム」と呼んでいる、ピボットを繰り返して素早い製品開発を推進する際には、やはり対面で議論したほうが、皆が十分に理解・納得した上で意思決定できると考えています。また、今までにないビジネスモデルを作ろう、どのようなカスタマーエクスペリエンスを提供したいのか、といったアイデアにアイデアを重ねていくような場面でも、やはり対面のほうが良いでしょう。

現時点ではそういった業務も含めて、在宅勤務でも実は大きな支障なく業務を進められていますが、これは、“コミュニケーション貯金”を使っているという見方をしています。つまり、これまで社員同士が信頼関係を構築しており、お互いを理解しているから機能している側面があると考えています。そのため新しく入社した社員へのオンボーディング対応などは、やはり当社でもチャレンジングな点です。

リモートワークを上手く機能させるには、明確なコミュニケーションや評価の仕組み、効率的な作業の進め方が必要

リモートワークを機能させるには、どのような点を変えていくべきでしょうか

まずは “分かりやすい”コミュニケーションを目指すことだと思います。対面のハイコンテクストなコミュニケーションから、オンラインでも支障がないローコンテクストなコミュニケーションへの転換が必要です。実はメルカリでは、企業の多国籍化が進む中でコロナの前からここ数年、この課題に直面してきました。従来は日本のモノカルチャー企業でしたが、40ヵ国の社員からなる企業に変容する中で、日本のハイコンテクストカルチャーは通用しなくなってきました。そこで人事では、メルカリが求める人材などの考えを整理し、”Culture Doc”という文書のかたちでまとめ、新入社員や海外の社員にも共通軸として理解を促進しています。また評価・報酬制度なども、同じ文脈で現在見直しをかけているところです。

パフォーマンスマネジメントについては、期待している内容が明確に設定されているかが出発点になります。その上で、期待された成果が達成できたか、取り組みの過程で当社のバリューを体現できたか、といった具体的な評価軸を設定し、評価する側/される側で十分な説明や話し合いができるようにするべきです。このように、社員の事業への貢献をベースに評価ができていれば、リモートワークでも問題なく評価できるはずです。

その他、メルカリが上手く在宅勤務にシフトできる理由として、コロナの前から効率的な業務のあり方を徹底していることもあるでしょう。当社では業務に関わる全てのデータがクラウド上で共有されているので、社員が円滑に連携しながら業務を進めることができます。また会議ではアジェンダを事前に準備し、議事録を残し、誰がいつまでに何をやるかを確認する習慣も徹底されています。

ちなみに当社では、360度評価を四半期に一度実施しており、これが評価上重要な参考情報として活用されています。ミーティングでの発言頻度など、社員同士がお互いについて意見を言うので、これが在宅勤務においても良い意味でのプレッシャーになっているようです。

オンラインでの採用活動についてはいかがでしょうか

当社では、コロナショックの影響により2月中旬から全ての面接をオンラインで行っています。オンライン面接自体は従来より弊社では取り入れていました。エンジニアとしてのスキルやカルチャーフィットも含めて判断しています。GAFAに対抗して海外の優秀なエンジニアを採用するには面接プロセスのオンライン化は必須であり、当社自体はオファーまでオンラインで完結しています。

場所や時間にとらわれない働き方を実現し、自社の競争力向上に繋げる

貴社として、今後より注力していきたい施策は何でしょうか

やはりフルフレックス制度です。現在はトライアルの段階ですが、時間や場所にとらわれず、アウトプットとバリューの実現で評価していくことでこの制度を定着させたいと考えています。またそのためにも重要なのは、先ほどお話しした“コミュニケーション貯金”です。今後、海外の優秀なエンジニアを採用する上では、彼らが海外からリモートワークをすることも考えられます。そうした際でも、対面のコミュニケーションを確保するために、例えば1~2ヵ月に一度は日本に来てもらう、といった働き方も考えられます。また、新しく入社した社員についてオンライン環境で信頼関係を構築していくこともチャレンジです。

この点では、現在フルリモートでオンボーディングするためのチェックリストを作成しており、マネージャーがすべきこと、メンターがすべきこと、本人がすべきこと、人事がすべきことなどを整理していますが、現在適切な方法を模索している段階です。

 

こうした新しい働き方を促進するにあたり、公的機関への要望などはあるでしょうか

官公庁への要望としては、やはり印鑑からクラウドサインへの移行を始めとして、オンライン上で業務が進められるようにすることでしょう。これにより押印作業や郵便物を取りに行くためだけに会社に行くといった事態は避けられます。また、時間管理の問題もあります。時間管理の考え方は、従業員の自律性に委ね、フレキシブルに働くリモートワークの働き方に反していると思います。日本の時間管理の考え方はグローバルではスタンダードとは言えず、違和感を持つ外国籍社員も多くいます。当社でも法令順守のためシステムできっちりと時間管理を行っていますが、適切な人事管理・業務管理により過重労働が防止できるのであれば、過度な時間管理に縛られる必要はない、という考え方もあるのではと思います。

 

2020年5月7日 対談実施

 

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インタビュアー