パフォーマンスマネジメントのポイント

マーサーはグローバルコンサルティング企業として毎年多くのレポートを発行しており、2019年7月には"Performance Transformation in the Future of Work"を発行し、パフォーマンスマネジメントにおける"4つのTruth"と"3つのPrediction"を発表した。その中ではゴール設定が明確であることの重要性やAI(Artificial intelligence)が今後の人材育成やキャリアディベロップメントに与える影響などを予測している。本稿はレポートの報告ではないため詳細の記述は避けるが、上記の施策やトレンドは日本企業の今後のパフォーマンスマネジメントの在り方に対して示唆となり得る内容であろう。

上記レポートは日本のみを対象としたものではないが、日本企業においても昨今書籍なども増えている印象があるOKR1やフィードバックをタイムリーに行う仕組みなどの導入を実施している、もしくは検討している企業が増えており、パフォーマンスマネジメントは少しずつ変わりつつあると感じる。

1OKR:Objectives and Key Results

だが仕組みが変わればパフォーマンスマネジメントは変われるのであろうか?パフォーマンスマネジメントは他の人事施策(例えば、人員計画や組織設計など)と異なり、最終的な施策の実行はいわゆるPeople Managerが主役である。仕組みを変えるだけでは本質的な変革にはつながらず、People managerがその本質を理解したうえで実行できなければ、最終的な目的であるパフォーマンスの向上にはつながりにくいと筆者は考える。

ではPeople Managerは、パフォーマンスマネジメントという文脈において、どのようなポイントを踏まえる必要があるのだろうか?パフォーマンスマネジメントが機能するためのポイントとして3つあると筆者は考える。

一つ目は、事業戦略・事業目標と整合した個人目標の設定である。

この点については過去より既に多くの議論が尽くされてきた内容でもあるため、深く立ち入ることは避けたいと思うが、MBO2やOKRなど、どのような仕組みで目標設定するにせよ、企業のパフォーマンス向上および目標達成に向けて個人の目標と企業の戦略・目標が結びついていることは、全社一丸での戦略実行に不可欠である。ハーバードビジネスレビュー誌3では、事業目標と個人目標が整合している企業は業界内で上位になる可能性が同業他社と比べて2.2倍であるという論文もある。筆者が評価制度策定をサポートさせていただく際にも、目標の一貫性が話題にあがることは多く、この重要性については筆者が言うまでもないであろう。

2MBO:Management by Objectives
3(出所)
How Employee Alignment boosts the Bottom Line, Harvard business review, June 16, 2016

二つ目は、適切な対話やコーチングによるフィードバックである。

フィードバックに加え、個々人のパフォーマンスの承認も含め、Conversation, Feedback, Recognitionの頭文字をとり、CFR4と呼ばれることもある。目標の達成度にせよ、いわゆるコンピテンシー評価や行動評価などに代表される目標達成に向けたプロセス評価にせよ、その結果を適切に被評価者に伝え、達成した内容を承認することが最終的な組織や個人のパフォーマンス向上につながる。しかし、フィードバックと一言に言っても、単純に何でもフィードバックをすればいいわけではない。また最近ではフォーマルな年次評価を止めて、フィードバックの頻度を増やす動きもあるが、回数を増やせば増やすほどいいというものでもない5。フィードバックの内容、仕方、タイミングなどは部下やフィードバックを受ける従業員の能力や業務の状況などに合わせ、柔軟な対応が求められる。

4(出所)
John Doerr, Measure What Matters: How Google, Bono, and the Gates Foundation Rock the World with OKRs, April 24 2018
5(出所)
Is HR Missing the Point on Performance Feedback? , MIT Sloan Management Review, April 04, 2018

最後は、トップ層~ミドル層自らが率先して、フィードバックを行い、また受けたフィードバックに基づき学習し、パフォーマンスを改善していくことである。

このポイントは案外見落とされがちのように感じている。また、本ポイントはパフォーマンスの向上という文脈に限らず、Leadershipや組織文化の形成などにおいても重要と考える。

筆者は、これまで複数の企業の人事制度策定をサポートしてきたが、評価制度を検討する際、若手層(係長やチームリーダー以下程度)をどう育成するのか、どのような仕組みでパフォーマンスが低い社員を改善していくのかが中心になることが多い。確かに、若手はまだ経験が浅いことが多く、育成の効果が大きい可能性もあるだろう。また、残念ながら現在パフォーマンスが高くない社員にどう成果をあげてもらうかも大きな課題となる。
一方、部長層や本部長層のような一定程度シニアのポジションがパフォーマンスマネジメントの文脈で話題となることは比較的少ないように感じる。確かに、ポジションが高くなり、業務経験も増え、新たな学びが減り、成長できる余地が若手よりは少ないこともあるかもしれない。また、部長層や本部長層になったのだから、今さらフィードバックや育成というポジションでもないだろうという声をお聞きしたこともある。

しかし、パフォーマンスマネジメントとは個人と組織全体のパフォーマンスを向上させるためにあり、若手層だけが成長すれば組織のパフォーマンスが改善するわけではない。トップ層が、ミドル層に適切なフィードバックや承認を行わなければ、ミドル層のパフォーマンス向上につながらず、またミドル層は部下に対して適切なフィードバックや承認を行うための手本を得ることができないだろうし、ミドル層自身の成長にもつながらない。加えて、トップ層やミドル層が成長し変化しようとしていない状況の中、いくら若手層にフィードバックをして、成長を求めても、真摯に受け入れてくれない可能性もある。変化を見極めることが困難である現在のような市場環境ではどのようなポジションであっても過去に固執せず、変化し、成長していくことが求められるだろう。

 

以上、3つのポイントはそれぞれ目新しいものではなく、以前から重要性が強調されてきたものではあるが、現実的にこの3点を十分に実行されているケースは少ないように感じる。各社が状況に合った新たな仕組みを設け、People managerがその目的とポイントを理解したうえで実行できてこそ、効果的なパフォーマンスマネジメントに繋がっていくと筆者は考える。


 

執筆者: 香椎 康太朗 (かしい こうたろう)
組織・人事変革コンサルティング アソシエイトコンサルタント