マーサージャパンHealthチームへのコンサルティングで最も多い依頼の一つは、健康保険組合に関するものである。自社健保を設立する規模ではない企業にとって、どの健保組合に入るのが、社員にとって魅力があるのか。保険料率の違いはもとより、医療費の自己負担額の引き下げや、健康診断に関する各種補助、さらには健康増進に関する事業を比較して検討したいといった要望が多く、関心の高さがうかがえる。
そんな中、筆者が最近注目しているものに、第2期データヘルス計画がある。ご存じの方も多いと思うが、レセプト等の医療費情報がデータ化されたことに伴い、様々な分析が健保組合に義務づけられたものだ。
分析項目としては以下のものがある。
各健保組合は、上記のデータ分析に基づいた「現状把握」「課題抽出」「課題に対応した事業の選定、目標設定」を行っている。これが第2期データヘルス計画である。簡単にいえば、医療費等の給付を減らすために有効な施策を各健保組合が考えて実施するということである。
海外では医療保険は民間の保険会社の制度を利用することが多いが、企業は毎年の保険料が決定されるにあたって、自社の医療費実績(クレーム)データに基づいて保険料引き下げ交渉を行うのが通常である。日本の健保組合もようやく、レセプトデータ等の分析を通じて保険料の上昇を抑制できる可能性が出てきたといえるだろう。
いくつかの健保組合の分析例を見てみよう。
このような紹介の仕方では十分に伝わらないかもしれないが、各健保組合が作成している実際のレポートは、データ分析も含めると100ページ近い分量となっているものもあるなど、関係者がこの分析に要している時間と労力は相当なものと思われる。今後はこうした地道な努力によって、医療費の削減効果が表れるようになり、健保組合の差別化がより顕著になっていくかもしれない。
その一方で、健保組合の運営が順風満帆ではないことについては、昨今のニュース等でご存じの方も多いだろう。健康保険組合連合会の「2016年度の活動と今後の課題」によると、一人当たりの保険料負担額は10年間で98,978円増加している(2007年は383,612円、2017年は482,590円)にも関わらず、赤字となっている健康保険組合は7割超の1015組合もある。
医療費等の保険給付費は対前年で3.51%の伸び率なのだが、高齢者医療費に対する拠出金は対前年で7.23%と大幅に伸びていることが原因となっている。事実、この拠出金支払いが保険料収入に占める割合は平均で44.5%、同割合が50%以上となっている健康保険組合も331組合となっている。保険でありながら、保険料の半分近くが加入者以外の支出にあてられているのが現状なのである。こうした状況では、せっかくのデータヘルス計画による医療費削減効果も焼け石に水となりかねない。
高齢者医療の問題は、日本社会にとって難しい課題であるが、この分野に関わるコンサルタントとしては、健保組合の地道な努力が無駄にならないような解決策が早期に取られることを心から期待している。
執筆者: 柳沼 芳恵 (やぎぬま よしえ)
保健・福利厚生コンサルティング/ Mercer Marsh Benefits プリンシパル