福利厚生制度の見直しに関するコンサルティング

「人事のコンサルティングってどんなことをやっているの?」と、他業界で働く友人から聞かれることがよくある。
「メーカーで営業をしています」とか「商社で貿易事務をしています」と言えば、なんとなくイメージがつかめるので、すんなりと納得してくれるのだと思うが、人事関連以外のお仕事をされている方々にとっては、わかりにくい仕事なのかも知れない。
筆者のたずさわっている業務は、マーサーの一部門の、さらに特定の領域となるので、「人事のコンサルティングとはどんなことをやっているのか?」に対する答えになっているかどうかはわからないが、比較的親しみやすい例として、「福利厚生制度の見直しに関するコンサルティング」について、ご紹介させていただきたいと思う。

 

ご依頼の経緯と内容

筆者は「保健・福利厚生コンサルティング」グループに所属しているが、日系、外資系企業を問わず、福利厚生制度の見直しや、導入アドバイスのご依頼を受けることが多い。
一番多いのが、外資系企業のご本社や地域拠点の人事からのご依頼で、「グローバル全体で福利厚生制度の見直しをしているので、水準検証などをお願いしたい」「制度の見直しは未定だが、まずは現状分析をお願いしたい」というものである。
次いで多いのが、「休暇制度を見直したい」「育児・介護休業を見直したい」「既存制度の棚卸をして、現在の社員のニーズに合わせた制度に換えたいのでアドバイスがほしい」という、制度見直しに際してのアドバイス依頼である。
その他、企業の合併や事業部門の独立、譲渡、吸収等に伴う制度統合サポート等をご提供することもある。
コンサルティングの範囲も様々で、検証から導入のアドバイスまでをお願いされるケースもあれば、部分的なご依頼もあり、ニーズやご予算に応じて対応させていただいている。

福利厚生制度見直しに関するコンサルティングの流れの一例

基本的には、以下のような流れでプロジェクトを進めている。

  1. 現状分析
    1. (1) 法定遵守検証
    2. (2) 水準検証
  2. 現状分析結果フィードバック
  3. 見直しのご提案
  4. 導入サポート

1. 現状分析

ご依頼企業の現行制度の現状を分析するもので、(1)法定を遵守しているか(2)市場水準に対しての位置づけはどうなっているか の2点で分析を行っている。

(1)法定遵守検証
文字通り、会社制度が法律に遵守した内容になっているかどうかの検証である。
実際にご使用されている規程をご提供いただき、各項目について検証することになる。「制度見直しにあたり、まずは法改正の施行に合わせて規定を反映させているか、確認しておきたい」という目的の他、日本の制度に不慣れな外資系企業のご本社や、地域拠点統括人事の方から「日本法人が法定の内容を網羅しているか、確認したい」という理由でのご依頼も多い。日本では医療・年金などの社会保障制度がまんべんなく網羅されている、という前提があるが、他国では必ずしもそうではないからだろう。
この法定遵守検証は、法定福利費として最低限一定の経費が必要であることや、労働基準法に基づいた労働条件など、日本にはどのような法定制度があり、最低限どんな制度を整えておかないといけないか、という基本情報を他国のご担当者に知っていただく意味で、大切な部分となる。

(2)水準検証
水準検証とは、ご依頼企業の制度が、マーケットの中でどの程度の水準であるかを検証するものである。同業他社などのマーケットとの比較をすることで、依頼企業の制度の外部競争力を知ることが可能となる。(「人事諸制度および福利厚生調査に関する市場調査」参照)
もし制度の見直しを検討されている場合は、見直すべき点を洗い出したり、どのような水準に変更するのが適切であるか、などの判断基準となる。制度変更で従業員や経営層への説明を求められる際にも、客観的な理由として示すことができる。さらには、合併などで複数企業の制度を統合する場合の指針の一つにもなっている。
また、法定制度ではないものの、日本では当たり前に付与する制度であって、海外では必ずしも当たり前ではない制度について説明する際にも、この水準検証は役にたつ。実際に、海外のご依頼者から、「通勤手当は必要か?」「年末年始休暇は付与しなければいけないのか?」など、疑問を投げかけられるケースが時々あるのだが、水準検証の結果をお見せしてご納得いただくことも多い。

水準検証にあたっては、ご依頼企業の業態や規模に合った調査結果を用いることが重要である。産業や人数規模によって、重きをおいている制度が異なるケースが多いからである。また、部分的な見直しを検討されている場合も、水準検証だけは、全制度について検証することが望ましい。見直しの結果、制度全体のバランスが偏らないか、問題点は見直そうとしている制度ではなく、他にあるのではないか、ということを確認できるからである。

2. 現状分析結果フィードバック

前述の現状分析の結果についての客観的なご報告と、それを踏まえてどのように見直しをすべきかを項目ごとにお伝えするものである。

具体的には、現状分析の結果として法定遵守状況、マーケット水準に対しての位置づけを客観的に記載した上で、見直しが必要か・現状のままで問題ないかなどのアドバイスを加えたご報告をさせていただいている。一例としては、「年次有給休暇の日数は法定を上回っているものの、マーケット水準を下回っているので、見直しを検討することをお勧めする」といった感じである。

3. 見直しのご提案

具体的な見直しを前提としたご依頼の場合は、現状分析の結果を踏まえてご提案をさせていただくことになる。ただ、現状分析の検証結果はあくまでもニュートラルなものなので、最終的な見直しのご提案は、ご依頼企業に合う内容かどうか、また、予算等の諸事情を勘案した上での提案であることが肝要となる。
「日本法人を立ち上げて年数も浅く、法定の制度をほとんど持っていない。現在、社員規模は50名であるが、2年後には300人に増員を予定しており、今からそれに見合った制度を構築しておきたい」という企業と、「過去、数回にわたり合併を繰り返しており、各社の古い制度がそのまま残っているので、整理したい」という企業では、当然であるが、見直しのご提案内容も変わってくる。

内容によっては、コストの増減がかかわってくるため、コスト試算などの提示も重要な要素である。たとえば、「生命保険の死亡給付金額のマーケット水準と同じ程度に引き上げたい」という場合や、「私傷病休職の有給期間日数を減少させて、その分の原資を他の制度に使いたい」といったようなケースでは、具体的なソリューションをご提案することもある。

4. 導入サポート

実際に制度を見直して導入する際に、スムーズに進めることができるよう、必要に応じて導入のサポートをご提供している。制度の見直しによって生じる各種の人事規程の修正対応や、従業員向け説明会の実施等が主な導入サポートであるが、場合によっては退職金や、民間保険の導入・見直しについても他部署と連携してサポートすることもある。

 

コンサルティング業務というと、ともすれば理論上で完結しがちであるが、われわれの業務は、ご依頼企業の従業員やそのご家族の生活に直結しているということを常に念頭に置くことが、提案を行っていくうえで、なにより大切であると考えている。われわれが携わったことで、ご依頼企業の方から感謝されたり、制度への満足度が高くなるのであれば、なによりもうれしいと思う。
今後も、さまざまな問題を抱えていらっしゃる企業の方々に、コンサルタントとして的確なご提案ができるよう、引き出しを多くする努力をしながら日々取り組んでいきたい。


 

執筆者: 三条 裕紀子 (さんじょう ゆきこ)
保健・福利厚生コンサルティング/ Mercer Marsh Benefits アソシエイトコンサルタント