平成29年(2017年)3月28日 官邸主導の政策会議の一つ、働き方改革実現会議から「働き方改革実行計画」が示された。
いわゆる"働き方改革"という言葉は、一般には"生産性向上"、"残業削減"、"年休取得推進"、"過重労働の回避"としての意味合いで捉えられているが、「働き方改革実行計画」は、『処遇の改善(賃金など)』、『制約の克服(時間・場所など)』、『キャリアの構築』という3つの方向性に対し、雇用形態から雇用条件、処遇、労働環境、福利厚生全般に及ぶ改革を実施することを目指したものである。
主な改革に関する内容は9テーマ、19項目に及ぶ1。政府による労働関連法制に関する検討において、これほど広範な指針が提出されることは、筆者が知る限り初めてのことと言える。まさに、同報告が言う、労働基準法70年の歴史の中で歴史的な大改革を含むものであり、政労使が、必ずやり遂げるという強い意志を持って法制化に取り組んでいかなくてはならない。との文言が、誇張ではないことを感じる。
そのロードマップを見ると、その多くは、環境整備・助成などの支援策の検討(予算措置)が中心となっている。但し、来年度より「施行準備・法改正の施行」と記載されている以下の項目については、来年度からの対応の検討が必要となると想定される。その点は、以下の項目である。
"同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備"
"法改正による時間外労働の上限規制の導入"
"勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備"
今後、しばらくの猶予期間が設けられることが想定されるが、"同一労働・同一賃金"を実現すること、"過重労働を回避すること"の二つについては、その対応が必要となることは間違いがないようだ。
後者については、具体的な数字ガイドラインに基づく法改正への対応となるが、"同一労働同一賃金"に関しては、基本方針は日本から"非正規"という言葉を一掃するという強い意志を持った対応を行うことを目指しており、その方向性は、平成28年(2016年)12月20日に示された"同一労働同一賃金ガイドライン案"2がより具体化する形で示されると想定される。
その内容は、基本給・手当・福利厚生・教育訓練・安全管理等の処遇全体に亘り、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の3つの点を考慮し、同じ場合は「同じ待遇」を実現する「均等待遇」を実現すること、及び、「不合理」な待遇差を禁止するという「均衡待遇」という二つの方針での対応を求めていくこととなる。
この指針における対応の難しさは、具体的な数値で示される労働時間の規制と異なり、示されるのはあくまでもガイドラインであり、EUにおいて"客観的正当化事由"を"司法判断"とすることを引き合いに出していることから、多くの範囲が規制監督官庁の判断もしくは司法の判断に委ねられる形となることが想定される点である。
これが意味するところは、現時点では、検討の対象は、非正規社員(パート労働者・有期契約労働者・派遣労働者)の処遇格差の解消という点を中心に検討が進められていくが、今後の運用上、正社員においても同様の原則が適用されていく可能性があることだ。その備えが必要となると考えられる。
昨今、各社では、大手を皮切りに、この変化を先取りし、非正規雇用の原則廃止を進めているケースが増えてきている。一方で、こうした対応においては、新たな手当・賞与の支給などでかなりの人件費の上昇が必要となる部分の覚悟が必要である。
一方で、同指針においては、基本給を始めとした賃金制度の決定要素が多様であることを前提としており、各企業において職務や能力の明確化とその職務と能力等と賃金等の待遇との関係を含めた処遇体系全体を話し合うことを肝要なものとしている。これは、こうした一連の改正に備え、自社に合った、「均等待遇」と「均衡待遇」のあり方、その基準となるものを先んじて見直すことを推奨していることを意味している。
最終的には、今年度の通常国会での審議等の推移と結果を見守る必要があるものの、現在の個社の処遇体系の考え方が、上記の原則に照らした中で、どのようなインパクトをもたらすのか。その検討と備えを行うことは不可欠な情勢にある。と筆者は考える。
執筆者: 中村 健一郎 (なかむら けんいちろう)
組織・人事変革コンサルティング プリンシパル