執筆者: 星野 実 (ほしの まこと)
資産運用コンサルティング
シニア コンサルタント
早いもので2015年になったと思ったらもう1月も下旬になりますが、皆様は「2015年問題」という言葉から何を思い浮かべますでしょうか。一部の業界では今年、人材不足の顕在化が懸念されており、「2015年問題」と呼ばれています。例えば、IT業界では「社会保障・税番号制度」(いわゆるマイナンバー制度)の導入に向けて行政機関がシステムを改修するなど大規模な案件が見込まれており、2015年から2017年にかけてシステム・エンジニアが不足することが予想されています。また、物流業界でもトラック・ドライバーの不足が懸念されています。ピーク時の2006年頃には約92万人いたとされるドライバー(全日本トラック協会の調査)ですが、国土交通省の調べでは今年は14万人の不足が予想されています。一方、少し変わった「2015年問題」としては、2012年12月23日に人類が滅びるとされていたマヤ歴の人類滅亡説には計算ミスがあり、正しくは2015年に滅亡するといったものもあります。
さて、年金運用に関係する「2015年問題」となりますと、1947年から1949年に出生した団塊の世代の方々が全て65歳以上となり、年金の受給人口が増大して年金財政を圧迫することへの懸念が挙げられます。もちろん、この問題は団塊の世代が65歳を迎え始める2012年よりも前から取り沙汰されていましたが、当時は年金財政の圧迫とともに日本の国債への影響を心配する声も聞かれました。今ほどではありませんが、やはり低金利だった当時の国債は銀行・保険会社といった金融機関や年金資金によって買い支えられている面がありました。ところが、年金の受給人口が増加すると年金資産による国債の保有残高が減少する、或いは、年金暮らしの人口が増えると預金の取り崩しが進み、銀行が国債を購入できる資金も減少し、その結果、国債が売られて価格が低下(金利は上昇)することが懸念されていた訳です。しかし、実際には2013年4月から日銀による異次元緩和が始まり、日銀が国債を大量に購入したことで国債価格は上昇し、金利は更に低下することとなります。
そこで気になるのは、日銀の異次元緩和後、国債の保有者内訳がどのように変化しているかということですが、以下の表は日本の国債等(国庫短期証券および国債・財融債の合計)の主な保有者内訳の推移を示したものです。
2012年3月末 | 2013年3月末 | 2014年3月末 | 2014年9月末 | |||||
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残高 | 構成比 | 残高 | 構成比 | 残高 | 構成比 | 残高 | 構成比 | |
国債等の残高 | 920 | 100.0% | 970 | 100.0% | 998 | 100.0% | 1,015 | 100.0% |
保有者内訳 | ||||||||
日銀 | 89 | 9.7% | 128 | 13.2% | 201 | 20.1% | 233 | 22.9% |
保険 | 177 | 19.2% | 193 | 19.9% | 195 | 19.5% | 197 | 19.4% |
銀行 | 160 | 17.4% | 158 | 16.3% | 127 | 12.8% | 127 | 12.5% |
公的年金 | 69 | 7.5% | 69 | 7.1% | 66 | 6.6% | 62 | 6.1% |
企業年金 | 29 | 3.1% | 31 | 3.2% | 35 | 3.5% | 35 | 3.4% |
海外 | 77 | 8.3% | 82 | 8.4% | 84 | 8.4% | 90 | 8.9% |
その他 | 320 | 34.7% | 309 | 31.8% | 290 | 29.1% | 271 | 26.8% |
注:日銀の資金循環統計を基にマーサージャパンが作成。金額は兆円単位。
2012年3月末は団塊の世代による年金受給がまだそれほど増えていないと思われる時期、2013年3月末は異次元緩和が始まる直前の時期、2014年9月末は公表されている最新データの時点ですが、2012年3月から2014年9月までの間、国債等の総残高は95兆円増えたのに対し、日銀の保有残高はそれを上回る144兆円の増加となっています。一方、銀行の保有額は33兆円減少していますので、全体の残高増加分に加え、銀行の減額分も日銀が吸収したと言うことができます。但し、銀行協会が公表しているデータを見ますと、この間、全国の銀行の預金は増加していますので、銀行による国債の保有減は何か他の理由によるものと思われます。また、年金による国債の保有残高を見ますと、公的年金は7兆円減、企業年金は6兆円増となっており、合せて1兆円の減少に留まっています。
つまり、上記のデータを見る限り、日銀による異次元緩和がなかったとしても、団塊の世代による年金の受給増は国債の需給関係にそれほど大きな影響を与えなかったと思われます。その一方で、日銀による国債等の保有比率は9.7%から22.9%へと倍増していることが確認でき、この比率は今後更に拡大するものと予想されています。しかし、国の借金である国債が増え続け、日銀がそれを買い支える構造は永続するものではありません。市場が日銀に対する信任を保っている内に、日本が本格的な景気回復を実現し、政府の財政も改善に向かい、日銀の異次元緩和が出口戦略を迎えることを切に願います。
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