海外駐在員処遇に関するベンチマーキングの重要性

稀なケースではあるが、筆者が15年前に第二新卒として入社した外資系企業の給与体系は、基本給と営業インセンティブのみで、賞与や交通費等その他の手当は一切支給されなかった。当時友人達にどういう給与体系になっているのか"個人調査"を行ったところ、世間では多様な手当があることがわかり、なんで自分にはないのかと悔しい気持ちを抱いたものだ。

さて、現在海外駐在員処遇関連のサービスを担当している筆者は、新規のお客様への対応を行う機会が多い。現行の体系に海外拠点間の不公平感や給与算出過程の不透明性といった課題があり、主にマーサーが提供している生計費指数(INDEX)を用いて駐在員給与を算出するお手伝いをさせていただいているのだが、算出後には、大半の企業から次の言葉をいただく。

「で、手当はいくらにすればいいんでしょうか?」 「他社の水準はどのくらいなのでしょうか?」

自社制度の新規策定、また駐在員給与の決定方式の変更を伴う見直し時において、手当や福利厚生制度の「一般的な水準(相場)」は常に検討しなければいけないプロセスである。筆者が言うまでもなく、手当の設定は各社の決め事であり、会社がどういうメッセージを込めるかによって各社の金額が異なるのは当然である。しかし、そうはいっても設定した金額が他社に比べて高いのか、低いのかを把握することは駐在員のモチベーション管理において重要である。

業種や派遣先にもよるが、海外駐在員とその家族は他社の駐在員家族と交流を持つ機会が多く、前述の「世間での多様な手当」に関する情報に触れ易い環境にある。また、教育や住宅といった現地で会社が費用を負担する内容に関しても、とりわけ駐在員の他社水準への関心は高い。つまり、海外駐在員の方が、現地の情報を多く有しているケースが多いため、本社は知識武装をしなければ後手の対応にならざるを得ない。

駐在員が入手する他社情報は往々にして狭義的で、好いとこ取りになりがちなため、本社としては、駐在員の言い分の合理性をしっかりと検証したうえで、無理な要求には誠意をもって説得し、拒否しなければならない。

海外駐在員の処遇内容は多岐にわたるため、部分最適ではなく、制度全体の合理性と競争力を確認しながら駐在員とのコミュニケーションを取り、モチベーションを維持することが求められる。

マーサーでは、お客様からのご協力によって、駐在員処遇また福利厚生制度に関する調査を定期的に行い、レポートにしてまとめている。ピンポイントで知りたい企業の情報を見ることはできないが、数百社の実態が反映されているので、マーケットの情報を一定程度把握することができる。もし、自社のベンチマーキングに不安があれば、駐在員からの要求が合理的か否かを検証するための情報としてご活用いただければ幸いである。


 

執筆者: 徳田 俊樹 (とくだ としき)
プロダクト・ソリューションズ コンサルタント

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