海外派遣者報酬制度と「生計費」~「2014年世界生計費調査-都市ランキング」

一体海外駐在員の世帯が現地で日常生活を営むにはどれ位の費用がかかるのであろうか。答えは、駐在員本人やその家族のライフスタイルによって異なる。また、赴任国や地域の物価、駐在員として安全で快適な生活を送るための生活インフラの状況に大きく影響を受ける。

駐在員とその家族にとっては現地で必要な「生計費」に見合った処遇を受けているかは切実な問題であり、社内の駐在員間はもちろん他社の駐在員とも情報交換が活発なようである。そのため海外人事担当者はしばしば駐在員からの不平・不満に対する合理的で説得力のある対応が求められる。

このような背景から、多くの企業の海外派遣者報酬制度において給与水準決定のために、第三者機関が派遣元と派遣先の物価を調査した結果をもとに算出した「生計費指数」という客観的な生計費データが用いられている。

マーサーは1980年代後半より日系の大手メーカーや商社で採用が始まり、現在では最も多く用いられている海外派遣者報酬決定方式「購買力補償方式」を適用して海外派遣者の給与を決定する際に必要となる「生計費指数」を「世界生計費レポート」として他のデータとともに提供している。このレポートは、マーサーが例年3月と9月に実施する世界一斉の物価調査「世界生計費調査」の結果をもとに作られている。

本稿では、マーサーの「世界生計費調査」に関する2014年7月10日付プレスリリース「2014年世界生計費調査-都市ランキング」の内容に簡単な解説を加えご紹介する。読者のランキングを読む一助となれば幸いである。

なお、今回発表された「都市ランキング」はプレスリリース用に作成されたものであり、外国人駐在員が一般的に利用する住宅の家賃を含めたランキングとなっている。通常、住居費は別途手当で支給すべきと判断し、「生計費指数」の算出対象品目の中には、住居費は含まれないのでご注意願いたい。

この「都市ランキング」は2014年3月にマーサーが実施した「2014年世界生計費調査」の結果にもとづいている。マーサーは世界211都市において、住居費、交通費、食料、衣料、家庭用品、娯楽費用など200品目以上の価格調査をおこなった。

ランキングの結果を抜粋すると「海外駐在員にとって世界で最も物価が高い都市は、アフリカ南西部の国アンゴラの首都ルアンダ、2位がアフリカ中央部の国チャドの首都ンジャメナ、3位は香港で昨年より順位を3つ上げた。東京は7位で昨年より順位を4つ下げた。」となっている。

この結果について読者はどう思われるであろうか。アフリカの2都市が最上位となり、アジアやヨーロッパの都市がその後に続いていることに違和感を持たれた方も少なくないであろう。

ランキングを読むポイントは3つある 1. 「世界生計費調査」は海外駐在員の「生計費」を計る目的でおこなわれる 2. 派遣元と派遣先の物価変動および為替変動が影響する 3. 海外駐在員向け住宅の賃料の変動が影響する

まず、このランキングの前提を平易に説明する。このランキングはニューヨークに所在する企業の従業員が海外駐在員として別の都市に派遣され、派遣先の都市でニューヨークと同じ物やサービスを買うことができるには、派遣元の通貨ドルでいくら必要かニューヨークを100とした場合の指数で比較したものである。

アフリカの2都市が最上位となった要因は、海外駐在員としての生活を想定した場合の極めて高い生活コストにある。

物価変動については言うまでもないが、ランキングは為替変動の影響を大きく受ける。ニューヨークと比較対象都市の両方において、物価変動が無い前提で、前回の調査時よりドルの価値が比較対象都市の現地通貨に対し高くなればランクが下がり、逆にドルの価値が低くなれば、ランクが上がるという相関関係にある。今年、日本の都市は昨年調査時と比べ円安ドル高が進行したため、ランクを下げている。

本稿は、海外派遣者報酬制度における「生計費」ならびに生計費調査に焦点をあてお届けした。実際、海外人事担当者の海外派遣者報酬制度の実務における「生計費」への関心は高い。例えば、給与に占める「生計費」の算出方法や「生計費指数」自体の信頼性は頻繁に論点となっている。筆者は、コンサルタントとして生計費データの内容およびその利用方法を企業に正確により明快に伝える責務を日々感じている。

結びに企業の制度設計上の論点は生計費部分だけではないことを強調させていただきたい。マーサーは海外派遣者報酬制度をトータルパッケージで設計するよう推奨している。いわゆる「海外勤務手当(インセンティブ)」、「ハードシップ手当」、「住宅手当」や「教育手当」などのエキストラコストは、企業にとって海外駐在員派遣に伴う相当の負担となるため、「生計費」と比べると経営上より管理が重要であろう。

企業が海外駐在員派遣の費用対効果を検証しながら、魅力的な報酬パッケージを提示し、グローバル人材のモチベーションを上げ、企業の海外戦略が成功するという労使ともwin-winの関係が理想であると思う。


 

執筆者: 石本 一郎 (いしもと いちろう)
プロダクト・ソリューションズ コンサルタント

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