誰が、どのように“仕事”をするのか? AIが加速する Work Transformation

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ILO(国際労働機関)がその創立100周年に向けて“Future of Work”イニシアチブを立ち上げたのは2013年であり*1、今日に至るまで”Future of Work”はビジネスリーダー達のホットイシューであり続けてきた。
しかし、私達は2019年に新型コロナウイルスの流行を経験し、また足元ではChat GPT-4 を筆頭とするAIのケイパビリティの飛躍的な向上が連日のニュースとなるなど、もはや”Future of Work”の現実は、これまでの予想や議論を追い越し、急速に私達の日々に浸透しつつあるように感じられる。

*1 ILOのFuture of work initiativeについては https://www.ilo.org/global/topics/future-of-work/lang--en/index.htm


なお、本稿の執筆にあたっては、調査にBing AI / 構成案のドラフトや校正にChat GPT-4を活用した。

 

Work Transformationの視点
   

今現実となりつつある”Future of Work”に順応し、好機とするにはどうしたらよいのか。様々な企業がビジネス全体のトランスフォーメーションを推し進め、またその”仕事”の仕方、捉え方を変えつつある。本稿では、この「誰が、どのように、“仕事”をするのか?」という”仕事”の仕方、捉え方の変革をWork Transformation(ワークトランスフォーメーション)と呼び*2、焦点を当てていきたい。

*2 一般的に広く用いられている用語ではないが、これまで”Workforce Transformation” や” Workstyle Transformation”、 ” Workplace Transformation”といった言葉で議論されてきた内容を包括的に議論する際に、”Work Transformation”や”Transformation of work”、”Transforming work”といった言葉が用いられるようになってきている
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今日のWork Transformationの大きな特徴は、以下4つの視点 *3からの変革が、時に同時多発的に、また並行して進行していくことであるといえる。

*3 Jesuthasan, Ravin and Boudreau, John W. “Work without Jobs : How to Reboot Your Organization’s Work Operating System.” The MIT Press, 2022
レヴィン・ジェスタサン、ジョン・W・ブードロー著、(2023)「マーサージャパン訳『仕事の未来×組織の未来」ダイヤモンド社の内容を参考に、筆者にて再構成
 
  • 仕事の再定義
    顧客への提供価値や自社のオペレーションモデルの変化の結果として、なされるべき仕事の優先順位や構成・内容が大きく変わる、または全く新しい仕事が生まれる
  • テクノロジーとの融合
    AIやソーシャルロボティクス等を導入することで、人間が取り組む仕事内容に変化が生じる
  • 雇用関係の多様化
    仕事の担い手との関係が変化し、より多様なものとなる(シェアードサービス化、アウトソーシング、ギグワーカーの活用など)
  • 働き方改革
    リモートワークやサテライトオフィス、フレックスタイムなどの導入により、働く場所、時間の柔軟性が高まる

簡易的なRPA導入や、リモートワーク導入といった変化を含めれば、Work Tansformationが全く進んでいないという会社を見つけるほうが困難かもしれない。各社固有のビジネス状況に応じて、どこが変化の起点になるのかは違っていて当然だ。

しかし、ここで共通して念頭に置くべき点がある。事業(経営)か人材(従業員)、いずれかの視点に偏った形でのWork Transformationを進め、全体のバランスを崩してしまうことがないようにすべきだ。経営視点での事業変革が起点となったWork Transformationを推進する場合には、従業員視点から見たやりがいやインセンティブが毀損されていないか、育成観点で残すべきタスクが無くなっていないかといった点に留意が必要だ。反対に、働き方改革のような従業員視点を起点とする場合には、自社の戦略やコアケイパビリティ―を弱体化してしまわないか、といった形で全体の有機的なバランスのチェックが欠かせないだろう。

 

ワークOSの進化
 

また、上記のような複数視点からの変化を複合的に議論し、事業環境変化へのアジリティー(機敏性)を一層高めていくという観点から、”仕事”と、それを担う主体をマッチングし駆動していくシステム=ワークOS(Work Operating System)自体を進化させようという動きもおきている。

現在、多くの日系企業においてこれまでの終身雇用のコミュニティを前提とした「メンバーシップ型雇用」から、”ジョブ”を単位として戦略実現に必要な人材を社内外から柔軟に調達する「ジョブ型雇用」へのシフトが議論されている*4が、このジョブ型雇用を「伝統的なワークOS」であるとし、”ジョブ”にこだわらずにより細かい単位で、フレキシブルにリソースをマッチングする「新しいワークOS」を取り入れようとする取り組みが海外で進みつつあるのだ。タスク単位でのフレキシブルなマッチングと聞くと、そんな複雑なことが可能なのかとも言いたくなるが、ここでもAIをはじめとしたテクノロジーの発達が大きく貢献している。実際にユニリーバでは、こうした考え方に基づき、内容や要件の明示された様々なプロジェクトに、グローバルの全従業員が自身のスキルや経験を活かす・あるいはスキルを高める機会として応募できる、AIを活用したオンラインプラットフォームを設けているという *5

*4ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いについては、マーサージャパン(2021)「日経文庫 ジョブ型雇用はやわかり」日本経済新聞出版 および 白井正人(2021)「経営者が知っておくべき ジョブ型雇用のすべて」ダイヤモンド社に詳しい
*5 ユニリーバ HP https://www.unilever.com/news/press-and-media/press-releases/2019/unilever-launches-ai-powered-talent-marketplace/
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従来のジョブ型雇用では、”ジョブ”単位での組み換えを行うことで戦略や事業環境の変化に柔軟に応じられる一方、個人のキャリア・業務がジョブに固定されるといったデメリットも生じていたが、「新しいワークOS」はそのフレキシビリティの高さを生かし、メンバーシップ型とジョブ型のいいところ取りをしていくのかもしれない。ワークOSの進化については、マーサーのコラムBig Picture Disruption #50および 『仕事の未来 x 組織の未来 WORK WITHOUT JOBS』(発行:ダイヤモンド社)でも触れている。

 

Work Transformationの今後のドライバー
 

最後に、今後2~3年間で企業の人材の質×量の両面に大きな変化をもたらすであろうドライバーとその具体例を紹介したい。

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  • AI
    その飛躍的なケイパビリティの向上は周知の通りだが、こと日本市場においては、AIが停滞していたDXを一気に加速させる切り札になるかもしれない。これまで日系企業の多くがシステムのカスタマイズを好み、またそのコストに苦しんできたが、データ正規化やシステムカスタマイズのコストをAIがほぼ0にすることにより、リープフロッグ現象的な形でのDXの進行が期待される。さらに、すでに軍事用途では”仕事”の代替だけではなく、人の意思決定をAIが代替しており、こうした動きはすぐにも民生領域に展開されてくるだろう。

    ⁃    Power Platform AI(マイクロソフト):自然言語で作りたいアプリについて説明するだけで、AIがアプリケーションのソースコードを生成*6
    ⁃    AI兵器、AI防空システム:2020年に起きたアゼルバイジャン、アルメニア間の軍事衝突ではAIドローンが標的を自動的に判断して攻撃を行った。またイスラエルの防空システムでは、既にAIの判断を前提とした意思決定プロセスが採用されているという*7
*6 マイクロソフトHP https://powerapps.microsoft.com/en-us/blog/announcing-a-next-generation-ai-copilot-in-microsoft-power-apps-that-will-transform-low-code-development/
*7 Youtube(Washington Post) https://www.youtube.com/watch?v=Rnr6NY8VRbM
 
  • ソーシャルロボティクス
    AIがDXを加速するのと同じように、人間とロボットの共存・協働を前提としたソーシャルロボティクスの技術発達により、これまでは導入が困難だった業界や仕事においても、自動化が進められるようになる。

    ⁃    Flippy(Miso Robotics):人と協業する調理ロボットを様々な飲食店チェーンに展開。試験導入した店舗では多くの従業員が継続的なロボットの利用を希望する結果になった*8
    ⁃    自動ピッキングロボット(イノテック/OSARO): AIが不定形物やつぶれやすい物のつかむ位置を自律的に判断し、ピッキング*9
*8 Youtube(AWS)  https://www.youtube.com/watch?v=a2UaDLjZs_I&t=427s
*9 Youtube(OSARO) https://www.youtube.com/results?search_query=OSARO+Picking
 
  • OMO
    OMO (Online Merges with Offline)は、テクノロジーを活用した事業そのものの見直しとも言える動きであり、この「顧客体験をデジタル起点で見直し・再設計」する試みにより、抜本的な”仕事”の変革が進んでいる。

    ⁃    売らない店舗(丸井グループ):店舗は販売の場としてではなく、新規顧客との接点、あるいは既存顧客を含めたエンゲージメントを高める場として位置づけられている。店員には売り上げ目標すらなく、顧客とのコミュニケーションに全精力を注ぐ*10
    ⁃    モバイルオーダー(マクドナルド社):来店前にアプリで注文した顧客はレジに一度も立ち寄ることなく、テーブルで直接、待たずに商品を受け取れる*11
*10 日経クロストレンド https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00491/00001/
*11 マクドナルドHP https://www.mcdonalds.co.jp/company/news/2020/0403b/

 

以上、 “Future of Work”への変化であるWork Transformationの視点や海外の動向、今後のドライバーについて紹介してきた。産業革命以来ともいわれる変化の時代を乗り切り、好機としていくための創造的な議論の呼び水として、少しでも参考となれば幸いである。


(URLは全て2023/3/26現在閲覧可能)
 

執筆者:戸川 武則(とがわ たけのり)

組織・人事変革コンサルティング マネージャー
組織設計・人事戦略プラクティスグループ

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