*当記事は「オル・イン Vol.58 2021年冬号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


プライベート・アセット投資のポイント ~米国公的年金の事例から学ぶ~

米国最大の公的年金であるカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)は、プライベート・エクイティに約250億ドル投資しており、プライベート・エクイティ・チームには約30名のスタッフがいる。しかしながら、2020年9月に開催された資産運用委員会の資料によると、カルパースのプライベート・エクイティのパフォーマンスは、過去1年、3年、5年、10年、20年のいずれの期間においても、プライベート・エクイティのインデックスをアンダーパフォームしている。その要因として、カルパースは、一貫したコミットメントの欠如、方針の一貫性の欠如、分散の不足、コスト効率性の低さを挙げている。このカルパースのアンダーパフォーマンスの要因から、プライベート・アセット投資において重要な点を説明したい。

一貫したコミットメント

カルパースは、パフォーマンスの悪かった2006~2008年のビンテージへのコミットメントが多かったことがアンダーパフォームの要因となった。毎年どれだけのコミットメントを行うと、何年後にどの程度のエクスポージャーとなるのかというコミットメントのペースのシミュレーションを事前に行い、それに基づいて一貫したコミットメントを行っていくことが重要である。

方針の一貫性

カルパースは、方針をあまりにも高い頻度で見直したことが、アンダーパフォームの要因となった。担当者が交代した場合、厳しい市場環境となった場合等にも、方針がぶれないよう中長期的な投資方針・計画を作成し、それに基づいて一貫した運用を行うことが重要である。

分散

カルパースは、グロース等のパフォーマンスの良好であった戦略への配分が少なかったことが、アンダーパフォームの要因となった。ビンテージ、地域、セクター、マネジャー等の分散を十分に図ることが重要である。また、プライベート・アセットの市場、投資手法は常に進化しているため、従来の分散で良いのかという検証を行っていくことも大切だ。

コスト効率性

カルパースは、一般的にノーフィー・ノーキャリーで投資できることからコスト効率の高い共同投資が少なかったことが、アンダーパフォームの要因となっている。プライベート・アセットは運用コストの高い資産クラスであることから、コスト効率性は重要である。ただし、大切なのは、コストを出来るだけ低くすることではなく、付加価値に対するコストであるため、分散、優れたマネジャーへのアクセス等の観点から優れたファンド・オブ・ファンズに投資することもコスト効率の高い選択肢になり得る。

 

プライベート・アセット投資において、多くの投資家が優れたファンドを選定することに注力している。優れたファンドを選定するのも、プライベート・アセット投資において重要なポイントの1つではあるが、それだけでは不十分だ。このカルパースの事例の4つのポイントも優れたファンドの選定と同様にプライベート・アセット投資の成功において不可欠である。

執筆者:五藤 智也 (ごとう ともや)

ウェルス・コンサルティング本部代表

プライベート・アセット投資のポイント