*当記事は「オル・イン Vol.57 2020年秋号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


プライベート資産投資におけるエクスポージャー維持の重要性

世界的な低金利の環境下、プライベート資産への需要は益々高まっている。魅力的なリターンの獲得、ポートフォリオのボラティリティ低減に対する期待がその背景にある。一方、こうした利点を享受するには、プライベート資産の特性に留意した投資が必要となるが、その中でも今回はエクスポージャーの維持の重要性について考察したい。

プライベート資産では、コア型の不動産ファンドを除き、キャピタルコール方式のクローズドエンド型のファンド形態が主流である。この形態のファンドは、コミットメント金額とNAVの値が異なるほかキャッシュフローが不規則であるなどの特性を有すため、確実に目標エクスポージャーに到達し、また維持するためには、毎年どれ程の規模のコミットメントを行うべきかの検証(コミットメントペーシング)が不可欠となる。

例えばプライベートデット(PD)に運用資産総額の10%となる250億円の配分を行った場合を考えてみたい。図表Aは適切なコミットメントペーシングを行った場合、図表Bはオポチュニスティックにコミットメントを行った場合、図表Cは1年目にのみ目標エクスポージャーと同額となる250億円のコミットメントを実施した場合を示す。

 

 

図表BとCは、何れも目標エクスポージャーの維持が達成されていないが、この場合何が問題なのか? 第一に、政策アセットミックスでPDへの配分を定めている場合はこれを遵守出来ていない点が問題となる。第二に、ポートフォリオ全体のリターンが低減する可能性がある。図表A、B、Cにおいて、仮に投資先のPDファンドのパフォーマンスが全てIRR 6%であった場合、論理的にはPDポートフォリオ単体(図表の水色部分)のIRRも6%程度となり、差が無いことになる。しかし、NAVが250億円に達していない部分は「他の資産」で運用されている。この「他の資産」のリターンが低いほど、また目標エクスポージャーと実際のNAVの乖離(図表の緑色部分の面積)が大きいほど、ポートフォリオ全体のパフォーマンスを低減する要因となる。

上記の事例は、プライベート資産投資で魅力的なリターンを享受するためには、エクスポージャーの維持も重要な要素となることを示している。なお、毎年継続的にコミットメントし更にモニタリング管理を行うことは、多大な負荷となる。この場合、ファンド・オブ・ファンズの活用も選択肢となるだろう。

執筆者:細谷 弥穂 (ほそや みほ)

資産運用コンサルティング部門 シニアコンサルタント

プライベート資産投資におけるエクスポージャー維持の重要性