*当記事は「オル・イン Vol.56 2020年夏号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


ヘッジファンド投資の再考

近年、オルタナティブ投資、とりわけプライベート資産に投資家の関心が集まる中で、ヘッジファンド投資に向けられる関心はプライベート資産程高まっていないように感じられる。20年から30年といった長期実績において、株式に対してリスク調整後で魅力的なリターンをもたらしてきたヘッジファンド投資ではあるが、ここ数年間では株式投資が好調なリターンを上げる中で、ヘッジファンド全般として相対的に奮わないパフォーマンスが続いた状況を考えると無理のないことなのかもしれない。

ヘッジファンド投資が苦戦している理由としては、各国中央銀行の大胆な金融刺激策により、投資家が一様にリスクオンモードへ駆り立てられ、投資家の群衆行動が促された結果、個別銘柄間のばらつきや市場全体のボラティリティが減少しアクティブな投資判断を行う機会が減少したことなどが考えられる。

ただし、ヘッジファンド投資が、運用にかかる制約を少なくすることで様々な投資機会へアクセスを可能にし、伝統的な株式、クレジット、金利リスクといった一般的な投資家のポートフォリオの大部分を占めるベータリスクに大きく依存しないものであるならば、リスクファクターの多様化を通じて、ポートフォリオの成長ドライバーを増やし、絶対的な意味でのリスク軽減をもたらす。ヘッジファンド投資の評価においても、ヘッジファンド投資自体のパフォーマンスだけではなく、ポートフォリオ、とりわけ株式ポートフォリオに対する分散効果をもたらしているかを勘案する必要があると考えられる。

また、ヘッジファンドを取り巻く環境においても、足元では変化の兆しが見られている。投資機会の減少をもたらしていたボラティリティの低下基調は反転している。加えて、リスク資産が全面的に上昇していく環境に慣れてしまっている一部の投資家では、ボラティリティの高まりによってリスク資産への配分見直しを迫られることもあり得る。市場や投資家の動きに不均一性が高まることで、ヘッジファンドにとって投資機会を見つけ出すチャンスが増加している可能性もある。

一方で、ベータ中心の伝統的資産のアクティブ運用と異なり、ヘッジファンド投資は運用者のスキルであるアルファがリターン源泉に占める割合が高いため、マネジャー間のパフォーマンスのばらつきが大きく、ヘッジファンド・ポートフォリオを適切に構築するには、様々なスタイルにおける優れたマネジャーを慎重に選定していくことが重要である。

新型コロナウイルス感染拡大に端を発した金融市場の混乱がどの程度継続するかは依然として不透明であるものの、足元ではアクセスが困難あるいは、クローズ中のファンドにおいても新規資金の受け入れを開始する動きが見られており、投資家にとっては自身のヘッジファンド・ポートフォリオのクオリティを見直す機会になるだろう。

執筆者:木下 智雄 (きのした ともお)

資産運用コンサルティング部門 コンサルタント

ヘッジファンド投資の再考