*当記事は「オル・イン Vol.55 2020年春号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


2020年代の運用

2010年代は欧州債務危機やチャイナ・ショックに見舞われつつも、あとから振り返ってみれば、各国中央銀行による継続的な流動性供給に支えられ、株式と債券の両面から資産運用は報われやすい環境だった。しかし2000年代にITバブルの崩壊やグローバル金融危機で痛手を被った経験を踏まえれば、2020年代が2010年代の延長であるとの楽観は禁物である。2020年代の投資成果のために、今、考えられるのは、どのようなことだろうか。日々のマーケットの上下から目を離し、少し長い目で世界を眺めた時、注目すべきトレンドとして、以下のようなものが浮かび上がる。

金融政策の限界が指摘される一方で、現代貨幣理論の台頭に見られるように、財政政策への容認論が広がっている。財政支出の拡大でインフレが想定を超えて進行すれば、コモディティや実物資産、物価連動債がポートフォリオの実質価値を守るだろう。米国の財政支出が突出するようなら、金などによる米ドルヘッジが取り上げられる可能性もある。インフレ以外にもさまざまな影響が表れ得ることを考えれば、信用力の高い変動金利債券や資産担保証券、場合によってはキャッシュをも選択肢として、安定資産ポートフォリオを分散したほうがよい。

地球温暖化の進行が明らかになるにつれ、一層の規制が必要と認識されるようになっているほか、規制に頼らず自らの企業選別で世界をより良い方向に導きたいと考える消費者が増えている。気候変動が海面上昇などを通じて経済に影響を与えるには時間を要するが、その進行を抑えようとして行われる規制や消費者行動の影響は、ポートフォリオの運用成果にすぐにも現れるかもしれない。より持続可能性に着目した銘柄選別を行うことが有効である。持続可能な世界の実現のためのインフラストラクチャー投資や技術開発投資も必要だろう。調達市場としてのグリーンボンド市場の活性化も見えてくる。

人工知能の研究開発が急速に進んだように、技術革新は経済や投資を大きく変える力を持っているが、試行錯誤がつきものであり、その投資は期待の高まりと失望を繰り返すのが常である。プライベート資産の活用も排除せず、高い機動性と柔軟性を持って取り組みたい。

そして分散投資をあきらめるべきではない。この10年成果が上がりにくかった割安株、ヘッジファンド、新興国株式・債券も、2010年代が繰り返されるとは限らないと考えれば、来るべき変化への備えとして持ち続ける意味がある。

執筆者:今井 俊夫 (いまい としお)

資産運用コンサルティング部門 プリンシパル

2020年代の運用