*当記事は「オル・イン Vol.51 2019年春号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


2018年の市場の示唆

株式やクレジットへの投資から着実に収益を積み上げることのできた2017年とは一変して、2018年はたびたび株式市場の急落に見舞われ、その背後にある先行き不透明感がクレジット市場にも伝播した。昨年、何がそうした市場変動をもたらしたのか振り返ってみることで、2019年以降の投資環境を左右する要素が見えてくる。

 まずは米国の金利上昇だ。昨年2月と10月の株式市場の急落は、米国の金利上昇が本格化したことに伴うバリュエーション調整がきっかけとみられる(図)。長く続いた低金利環境下で進行した負債の膨張とその質の劣化にどう向き合うか、とりわけ選別の重要性は高まると見ている。高金利下でも元利払い能力に傷のつかない企業や国、資金調達形態を選ぶことができれば、安全資産としての役割は果たし得るし、市場全体の低迷はかえって投資機会となる。債務再編企業が増えてくればディストレスト・マネジャーも腕の見せ所となる。

 

 


次に「市場参加者動向」だ。2018年の急落の特徴は、それを増幅する投資家が存在感を増していたことにある。つまり、リスク・パリティ、ボラティリティ・コントロールといった、機械的な要素もあるリスク管理型戦略が「下がったら売る」投資行動に出ることで、下落に拍車をかけた。

「適切な価格で買いが入る」という市場本来の価格発見機能が、一時的にでも働きにくくなったことは示唆的である。旺盛な需要という点で、1.プライベート資産、2.スマート・ベータを含むシステマティック戦略、3.持続可能性に注目した投資の残高の積み上がりに、供給不足という点で、4.各国で量的金融緩和政策を縮小する中での受け皿不在に、マーサーでは注目している。

最後に米中貿易戦争や欧州政治の混乱が、ことあるごとに市場の話題となった点に触れたい。どちらの動きも、過去半世紀にわたり進められてきたグローバル化の後退を示唆している。経済の分断が進めば、通貨を含めどの国や地域を選択するかが運用成績を分け、主に企業間のグローバル比較を超過収益源とするグローバル型アクティブ運用は有効性が落ちてくる可能性もある点で注意している。また、投資対象としての中国にどう向き合うか整理が必要になる。ベンチマーク指数によっては、中国という世界第二位の経済大国の存在感が高まると予想される。指数の構成要件に照らし、「指数が組み入れるから投資する」ということでよいのか、アセット・オーナーとしての見解を再確認しておきたい。

 

執筆者:今井 俊夫 (いまい としお)

資産運用コンサルティング部門 シニアコンサルタント

2018年の市場の示唆