*当記事は「オル・イン Vol.50 2018年冬号」の「コンサルタント・オピニオン」に寄稿した内容の再掲載


OCIOに対する5つの誤解

OCIO (アウトソースド・チーフ・インベストメント・オフィサー)は、近年、欧米を中心に広がりを見せているが、日本ではまだ浸透しておらず、誤解も多い。そこで、OCIOについて誤解の多い点について説明する。

年金基金等が担っている資産運用業務の一部またはほぼ全てをアウトソースすることを指し、デリゲーション、フィデューシャリー・マネジメント等とも呼ばれる。

 

1. 日本では必要ない

欧米でOCIOが広がった理由の一つとして、閉鎖型年金が増え、自らのリソースを投じるよりも、アウトソースを選択することが増えたことがあり、日本とは状況が異なる部分がある。しかし、金融危機の経験、その後の低金利環境等から、資産運用の分散化、高度化、複雑化が進み、そのためのガバナンスおよびリソースを強化する方法としてOCIOが広がったという側面があり、この点に関しては日本でも同じ状況である。また、日本は資産規模がそれほど大きくない年金基金等も多いことから、スケールメリットを享受できるOCIOの活用余地はより大きいとも言える。

 

2. 年金基金等の運用担当者は何もしなくてよくなる

OCIOを導入しても、年金基金等の行っている資産運用業務の全てをアウトソースできるわけではなく、運用目的、許容リスクの検討等については引き続き自ら行う必要があり、これらは結果に大きな影響を与える極めて重要なものである。運用 担当者が極めて重要な部分に集中で きるようになることは、OCIOのメリットの一つである。 

 

3. 全資産をアウトソースするものである

OCIOは、オルタナティブ資産のみ等、部分的にアウトソースすることも可能である。リソースが足りない部分、より高度、複雑な運用が必要な部分に限定するのも、OCIOの有効な活用方法である。

 

4. 資産規模の小さい年金基金等のためのものである

資産規模の小さい年金基金等の方が、OCIOのスケールメリットによるコストおよび分散のメリットを享受しやすいが、資産規模の大きい場合も、専門家へのアウトソース、重要なことに集中できる、迅速な意思決定、ベスト・イン・クラスのプロダクトへのアクセス等のメリットがある。 

 

5. コストが高い

OCIOと組み入れるプロダクトの二段階でコストが発生するが、OCIOのスケールメリットを活かし、組み入れるプロダクトのコストを引き下げることが可能なため、必ずしもコストが高くなるわけではない。また、専門家へのアウトソース等のOCIOのメリットを勘案し、コストの妥当性を判断するべきである。
OCIOは全ての日本の年金基金等に必要なものではないが、コーポレートガバナンス・コードで求められている「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置」への対応策にもなるため、選択肢の一つとして検討する価値があると考える。

 

執筆者:五藤 智也 (ごとう ともや)

ウェルス・コンサルティング 本部代表

OCIOに対する5つの誤解