*当記事は「企業年金 2022年7月号」の「資産運用コンサルタントの視点」に寄稿した内容の再掲載


第4回 クローズドエンド型ファンドの留意点~ポートフォリオ編

プライベートエクイティへの注目が高まる中、クローズドエンド型ファンドに投資を行う企業年金も増加傾向にあると考えられる。クローズドエンド型ファンドへの投資に際しては、様々な留意点が存在するが、前回「第3回 クローズドエンド型ファンドの留意点~シングルファンド編」では、1本のクローズドエンド型ファンドに投資を行った際のパフォーマンス評価に関する留意点について考察した。今回は、複数のクローズドエンド型ファンドで構成されるポートフォリオのパフォーマンス評価を行う際の留意点について考察したい。

 

1. ポートフォリオ構築の重要性
 

ポートフォリオのパフォーマンス評価を行う際の留意点に触れる前に、クローズドエンド型ファンドに投資を行う場合には、ポートフォリオを構築することが重要である点について改めて確認してみたい。前回、1本の個別のクローズドエンド型ファンドに投資を行った場合、例えば10億円のコミットメントを実施しても、実際の投資残高はファンドの運用期間中のほとんどの時点でコミットメント金額を大きく下回ることを確認した。一方、ファンドの収益を生み出すのは、コミットメント金額そのものではなく、投資先に投下された投資残高である。従って、クローズドエンド型ファンドへの投資で想定したリターンを創出するためには、投資残高を投資家が定める一定の水準にコントロールすることが極めて重要となる。

これを実現するためには、複数のクローズドエンド型ファンドで構成されるポートフォリオを構築することが前提条件となる。図表1は、目標投資残高を100億円として成功裏にポートフォリオが構築された場合の毎年の投資残高の推移を示しているが、投資開始から10年目辺りに目標投資残高となる100億円の水準が達成され、その後もその水準が維持されていることが示されている。オープンエンド型ファンドに投資を行う場合には、1本のファンドへの投資で投資家が目標とする投資残高の水準を直ちに達成することが可能であるが、クローズドエンド型ファンドの場合は毎年一貫したコミットメントを実施してポートフォリオを構築することにより初めて目標とする投資残高の水準が達成される。

 

図表1 投資残高の推移①

投資残高例-コミットメントペーシング実施
注:マーサーのプライベートエクイティ・ファンドのキャッシュフローモデルを基に投資残高を算出。例示を目的としたものであり、実際の投資残高は異なる。
(出所)マーサー 
 

 

2. コミットメントペーシング実施の重要性

 

クローズドエンド型ファンドは、目標投資残高に到達するのに何年も要するほか、コミットメント金額=投資残高ではないため、目標投資残高を達成し、またその水準を維持するためには、毎年どの程度のコミットメントを行うべきかの試算(以下、コミットメントペーシング)を伴う中長期的な投資計画の策定が欠かせない。

 先に述べた図表1はコミットメントペーシングを実施し、成功裏にポートフォリオを構築した事例を示している。一方、図表2は、コミットメントペーシングを実施しなかった事例を示しており、投資残高は目標を大きく下回っている。収益源となる投資残高が十分に積み上がっていない場合、クローズドエンド型ファンドへの投資が想定したリターンを創出来ない可能性が高まる点に注意されたい。


図表2 投資残高の推移②

投資残高例-コミットメントペーシング未実施
注:マーサーのプライベートエクイティ・ファンドのキャッシュフローモデルを基に投資残高を算出。例示を目的としたものであり、実際の投資残高は異なる。
(出所)マーサー 
 

 

3. ポートフォリオのパフォーマンス評価に際する留意点

 

図表3は、コミットメントペーシングを実施し成功裏にポートフォリオが構築された図表1の時間加重平均収益率を示している。特に注目したいのが、投資残高が目標水準に達しその水準が維持されると、時間加重平均収益率が一定の水準で安定するようになる点である。前回、一般的に時間加重平均収益率は個別のクローズドエンド型ファンドを評価するのに適した手法とは考えられていないと述べたが、クローズドエンド型ファンドのポートフォリオを評価する際には時間加重平均収益率も活用される。収益を生み出す投資残高が一定の水準を維持している場合には、時間加重平均収益率の水準も安定し、更に他の伝統的資産との比較も意味を成すようになると考えられることがその背景にあると筆者は考えている。


図表3 プライベートエクイティ・ポートフォリオの時間加重平均収益率(年率)

1年目
2年目
3年目
4年目
5年目
6年目
7年目
8年目
9年目
10年目
11年目
12年目
13年目
14年目
-24%
-24%
-14%
-5%
1%
6%
9%
11%
11%
11%
11%
11%
11%
11%
注:マーサーのプライベートエクイティ・ファンドのキャッシュフローモデルを基に収益率を算出。例示を目的としたものであり、実際の収益率は異なる。 
(出所)マーサー

 

このほか、クローズドエンド型ファンドの評価で一般的に活用される内部収益率はポートフォリオの評価においても活用される。プライベート資産ベンチマークとの比較には内部収益率を活用するのがよいだろう。

 

前回と今回の2回にわたり、クローズドエンド型ファンドのパフォーマンス評価を行う際の留意点について考察を行ってきた。評価対象が個別のクローズドエンド型ファンドであるか、或いはポートフォリオであるかによって留意点が異なっており、各投資家の状況や目的を鑑みながら適切な投資評価に繋げて頂きたい。また、改めてポートフォリオを構築し、一定の投資残高を積み上げることが想定したリターンを達成するために重要である点も確認頂ければ幸いである。

 

執筆者:細谷 弥穂  (ほそや みほ)

資産運用コンサルティング部門 シニアコンサルタント

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