気候変動によって炭素排出量ゼロ経済への移行が差し迫る今、投資家と企業が求められていることは何か ― リスクと機会を洞察します。
気候変動により、炭素排出量ゼロ経済への移行が不可欠となってきており1、投資家と企業の意識は急速に高まっています。投資家は、移行の結果として直面するリスクを把握すると同時に、持続可能性が高く、関連事業から収益(グリーンリベニュー)を生み出す企業に対する投資機会について理解したいと考えています。多くの企業や投資家は、地球の気温上昇を産業革命以前の水準から1.5℃未満に抑えるなど、2015年に採択されたパリ協定の数値目標達成に向けて歩調を合わせていきたいと考えています。
1 気候変動に関する国際連合枠組条約(2015年)パリ協定を参照。2018年10月、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1.5℃の温暖化、そして2℃上昇のシナリオとの違いに関する報告書を公表し、0.5℃の差がもたらすさらなる影響と、パリ協定で2℃より「十分に低く」 抑えるという意欲的目標が正当化される理由について述べています。
マーサーの低炭素社会移行に関する新たな分析・助言サービスは、マーサーがコンサルティングを行っている世界中のお客様に提供されています。これらのサービスでは、世界全体で運用資産総額3,045億ドルとなる投資ソリューションを提供しているお客様のために 、低炭素社会への移行に対応するための戦略構築をサポートします。
世界の平均気温は、産業革命以前の平均気温からすでに1℃上昇しています。最新の科学では、今後わずか30年で、2℃の気温上昇に直面する可能性があり、これは、人類がかつて経験したことのない気候であり、過去数百万年にわたって 地球で生じたことのない気候となる可能性が示されています。これは、中央銀行と気候変動リスク等に係る金融当局ネット ワーク(NGFS)が “ホットハウス・ワールド” で生活する社会と表現しています 。この気候変動による危機は、世界の気温上昇を1.5℃未満に抑えるという意欲的目標に沿い、そして国連の“遂行の10年と位置付けられる取組”を支持するとともに、今日ややるべき事項として真っ向から移行対応に取組む必要を訴えています。
図表1. 再生可能エネルギーの最大手企業が、石油メジャー最大手の時価総額を上回る
気候変動に関するシナリオ分析を行っている投資家にとっては、低炭素社会への移行計画を立案することは次に取るべき 当然の段階となります。「気候変動に関する世界のリーダーとの協働によって、マーサーが長年に渡り取り組んできた気候 変動シナリオの分析とモデリング、そして“未来の創造者(フューチャーメイカー)”については、「気候変動の時代における投資(続編)」と「気候変動の時代における投資(2015年)」にまとめられています。これらの調査と他の業界でも行われている調査からは、3℃の気温上昇が想定される現在の軌道を、理想的には1.5℃シナリオに移行することが投資家にとってはより有利になることが明らかになっています。また、喫緊の課題である低炭素社会移行に向けた対応をすることは、投資家に恩恵をもたらすであろう新たな投資機会の発掘にもつながります。
投資家の移行計画におけるプロセスは以下のとおりです。
マーサーの助言と分析により、投資家は、ポートフォリオにおける、炭素集約度、移行能力、環境関連事業からの収益(グリーンリベニュー)に関する評価を行い、ランク付けを行うことができます。こうした評価の中核となるのは、ポートフォリオ全体に対して、世界の気温上昇を1.5°C未満に抑えるという目標と整合するための移行能力を考慮することです。トップダウンアプローチによるポートフォリオ全体に対する見方と、セクターや個別企業へのエクスポージャーなど将来を見据えたボトムアップによるポートフォリオ分析を併用することが最善です。これにより、投資家は、次のステップと、今後配分可能な投資先を特定できるため、運用会社と対話ができるようになります。
図表2. マーサーの移行フレームワーク
出典:マーサー
低炭素社会への移行計画の策定とその実行は、マーサーと世界経済フォーラムが協働で作成した報告書で述べられているように、変革的投資(複数の長期の世界的なシステミック・リスクに対応しつつ、魅力的なリスク調整後のリターンを追求)につながります2。
2 Mercer and World Economic Forum. Transformational Investment: Converting Global Systemic Risks into Sustainable Returns, 2020. https://www.weforum.org/whitepapers/transformational-investment-converting-global-systemic-risks- into-sustainable-returns
マーサージャパン株式会社
金融商品取引業者 登録番号 関東財務局長(金商)第1061号
加入協会:一般社団法人日本投資顧問業協会 投資助言・代理会員
シリーズ No. 1 低酸素社会に向けた転換期の投資(2021年1月刊行)
シリーズ No. 2 逃げ場はどこにもない(2021年10月刊行)