年金ニュースレター第28号
確定給付企業年金制度に係る改正事項 – 確定拠出年金法等の一部を改正する法律
荒木 啓太

執筆者: 荒木 啓太(あらき けいた)

年金コンサルティング コンサルティング アクチュアリー
日本アクチュアリー会 正会員  年金数理人  日本証券アナリスト協会 検定会員

確定拠出年金制度(以下、DC)の加入可能範囲拡大や、企業年金間の資産移換(ポータビリティ)の拡充を盛り込んだ「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」が2016年5月24日に成立した。この法案は2015年4月に国会に提出されていたが、昨年の通常国会では継続審議となり、一年越しでの成立となっている。改正内容は法案提出時から変わっていないため、冒頭のDCに関する改正の詳細については、昨年のニュースレターを参照いただきたい。

ライフコースの多様化、企業年金の普及やDCの運用状況の改善に対応するものとして、DCに関連する改正が中心となっている法律ではあるが、確定給付企業年金制度(以下、DB)に関連する改正もいくつか盛り込まれている。その中でも、影響が大きいと思われる以下の3点について説明する。

  1. DBからDB・DCへの一時金相当額移換の対象者(中途脱退者)拡大
  2. DB間の権利義務移転承継手続きの簡素化
  3. DBからDCへ資産移換する際の同意要件の緩和

1. DBからDB・DCへの一時金移換の対象者(中途脱退者)拡大(施行日:2016年6月3日から2年以内)

現在、DBからDB・DCに脱退一時金を移換できるのは、老齢給付金の受給権を持たない者に限られている。つまり、年金を受け取るための加入者期間を満たすが、支給開始年齢に達していない者がDBを脱退する場合、他の制度に資産を移すことはできない。

この場合、事業譲渡等で他のDBやDCに従業員が移る場合、受給権を持つ者と持たない者とで取扱いが異なることになる。受給権を持つ者がそれまでに積み上げた給付の支給義務は譲渡元のDBに残すか、一時金として払い出すしかしかない一方、他の従業員は譲渡先の制度に持ち込むことができる。

この改正が施行されると、老齢給付金の受給権の有無に限らず、原則全ての人を移換の対象者とすることができるので、統一的な取り扱いが可能となる。

2. DB間の権利義務移転承継手続きの簡素化(施行日:2016年7月1日)

改正前は、DB間で権利義務移転承継をする場合、当該移転承継に対して厚生労働大臣の承認・認可が手続き上必要となっていた。権利義務の承継先で給付設計を変更する場合、これに加えて給付の減額判定や減額申請等を行う必要がある。

この場合、関係会社間で異なるDBを実施していて転籍が発生する都度、権利義務移転承継に対して承認・認可の手続きを行うことになるが、転籍の発令が転籍日までに十分な期間がある場合を除いて短期間での申請が要求される。転籍が頻繁に発生するような企業の場合、この手続に割く時間や労力は無視できないだろう。

この改正により、本人同意があれば、権利義務移転承継に対して厚生労働大臣の承認・認可が不要となった。手続きが簡素化されることで、急な転籍に対しても従前より余裕を持って対応できるようになった。

3. DBからDCへ資産移換する際の同意要件の緩和(施行日:2016年7月1日)

改正前は、DBの一部の加入者に係る資産の全部又は一部をDCに移換する場合、移換対象者の2分の1以上の同意に加え、対象者以外の2分の1以上の同意も必要とされていた。

この場合、複数企業で構成されるDBのうちの一事業所が資産を移換すると、移換しない事業所の従業員の全員から同意を取得し、合計で2分の1以上の賛成同意を得なければならない。この同意要件は労働組合等で代替することはできないため、従業員数が多い場合には取得に時間がかかり、スムーズな移換の阻害要因となっていた。

この改正により、ある事業所が脱退したとしても移換元DBの掛金が増加しない場合や、増加する掛金を脱退時に支払う場合に限定し、その他の事業所の従業員からの同意が不要となる。そのため、企業買収等でDBから事業所が脱退し、短期間でDC制度に移換する手続きを行う必要がある場合にも対応できるようになった。

 

今回のニュースレターでは、法改正に伴うDBに関係する変更について、従業員本人の選択肢の拡大や申請手続きの簡素化/緩和に焦点を当てて解説を行った。その他、前回のニュースレターで解説したDCに関係する主要な変更に加え、DCの運用に関する変更等が実施される盛り沢山な改正となっている。今後も、リスク分担型企業年金の実施等、企業や従業員の自助努力である企業年金の状況は刻一刻と変わっていくことが見込まれるので、最新の状況を把握し、有事に適切な行動を取れるように備えておくことが必要だろう。