年金ニュースレター第19号

2013年のIAS 19改正動向(従業員掛金のある制度の取扱いの明確化と割引率の決定基礎)

伊藤 寛太

執筆者: 伊藤 寛太(いとう ひろた)

年金コンサルティング シニア アクチュアリー
日本アクチュアリー会 正会員・年金数理人

 2011年6月にIAS (International Accounting Standard) 19は大きく変更されたものの、さらに大きな課題である退職給付債務(DBO-Defined Benefit Obligation)の評価そのものについては、未だ議論の決着はみていない。そのような状況において、2013年のIAS 19の動向について、紹介しておきたい。

 現在、つぎの2つの課題が検討されている。

  1. 従業員掛金のある制度の取扱いの明確化
  2. 割引率の決定基礎

 

1. 従業員掛金のある制度の取扱いの明確化

 2013年3月25日にIAS 19の一部改正の草案 (ED-Exposure Draft)が出され、2013年中に反映させるよう取り組まれている。

 3月25日付EDでは、確定給付の退職給付制度における従業員拠出に対応する部分の勤務費用(Service Cost)の取扱いが明示された。

  • 原則的な取扱い
    勤務費用(Service Cost) = 全体給付の勤務費用-従業員拠出相当分の勤務費用(数理計算による評価額)

 従業員拠出が将来の勤務に及んで決定される場合、例えば、勤続10年未満は給与の2%、勤続10年以上は給与の4%というように従業員拠出が決定される場合、従業員拠出分に相当する勤務費用は、拠出額ではなく、数理計算による評価額を控除して算定する。

 このとき、従業員拠出相当分の勤務費用は、従業員拠出の見込み額をDBOの算定の考え方同様に、発生したとみなされる期間に適切に配分して算定する。

  • 簡便的な取扱い
    勤務費用(Service Cost) = 全体給付の勤務費用-従業員拠出額

 従業員拠出が現在の勤務のみで決定される場合、例えば、従業員拠出が全勤務期間において、給与の一定率で決まる場合、勤務費用は従業員拠出額を控除して算定する。

 厳密には、従業員拠出部分の勤務費用が退職給付見込み額に相当する部分の現在価値となっていないが、簡便手法をとることが認められるよう提案されている。

  • その他
    勤務に関連しない従業員拠出、例えば、投資損失や数理計算上の差損から生じる積立不足を賄うための従業員拠出は、退職給付に係る負債(Net DB liability)の再評価(remeasurement)の計算の中で反映される。
  • 適用時期
    改正が有効になった日をもって、遡及適用される。

 なお、7月25日までEDに対するコメントが受け付けられている。

2. 割引率の決定基礎

 割引率は、IAS 19パラグラフ83によると、優良社債の金利(high quality bonds yields)を参考に決定することとされている。また、十分な取引市場がない場合には、国債金利を用いることとされている。

 ただし、優良社債の定義(A格では優良ではないのか、AA格ならいいのか)は明確に記述されていない。

 2012年の欧州危機では、AA格以上の銘柄数が大きく減少し、取引量が小さくなり、結果として、ひとつの取引による割引率の決定に及ぼす影響度が大きくなったことが見られた。さらに、国債金利を用いた場合、その国債が優良であるべきとは基準に記述されていない。こうした課題が持ち上がっている。

 現在、IASB (International Accounting Standards Board) での議論の途中であるが、IAS 19の一部改定を行うことと一部ガイダンス(十分な債券市場が存在せず、国債が優良でない場合の対応)を出すべきかなどが検討されている。

 なお、これに関しては、第3四半期にIAS 19の一部改正のEDが提案される予定である。