執筆者: 浅井 将尚(あさい まさなお)
年金コンサルティング シニア アクチュアリー
日本アクチュアリー会 正会員・年金数理人
後期高齢者医療制度において、現役世代の負担分となる後期高齢者支援金は毎年増加し、健保組合や協会けんぽの財政を悪化させる要因となっています。財政悪化は、場合によっては保険料の引き上げを必要とし、結果として、個人や企業の負担の増加につながります。しかし、この支援金が今後どのように増えていくのか、具体的な数値はあまり目にしません。そこで今回、複数のシナリオの推計を試みました。結果、考えられるどのようなシナリオでも支援金が大幅に増えることがわかりました。このニュースレターでは、まず後期高齢者医療制度の仕組みを整理した上で、推計結果について説明します。
75歳以上の高齢者を「後期高齢者」とし、独立した制度としています。(正確には65歳以上75歳未満であっても、障害状態にある方の一部は対象になります。)費用の負担は、後期高齢者自身が約1割、公費が約5割、75歳未満が約4割となっています。75歳未満の負担は、個人でお金を納めるのではなく、健保経由で支援金として支払われる仕組みとなっています。つまり、個人と企業が払っている保険料の中に含まれていることになります。
将来の支援金を推計は、医療給付費の伸びと人口推移の推定の前提の置き方により変わってきます。
一人あたり後期高齢者の給付費の伸びは、次の3パターンの前提を置きます。
将来人口推計の前提は、次の3パターンの推計を利用することにします。
国立社会保障・人口問題研究所-日本の将来推計人口(平成24年1月推計)より
これらの前提の下、加入者1人当たり負担額の推移を推計します。
10年ないし15年後には負担が倍になると見込まれる中、やはり何らかの改革は必要ではないかと思われます。後期高齢者医療制度の問題点は、高齢者の負担の観点からはよく取り上げられていますが、現役世代の負担、企業の負担の観点でも、もっと取り上げられるべきではないでしょうか。
改革の一番のポイントは、やはり医療費抑制だと考えられます。高齢者の医療費抑制は、医療の効率化だけでなく、高齢者の就業とも密接に関係していると考えられます。そのため、働く高齢者へのインセンティブを与えるような施策も必要かもしれません。
また、負担の仕組みを見直すことも必要と考えられます。少子高齢化の社会では、世代間扶養を前提の財源手当てのやり方では持続可能性の低い制度となってしまうでしょう。世代間扶養を前提としない事前積立するような仕組みも考えられるのではないでしょうか。
しかし、現在の状況下では負担の仕組みがすぐに変わることはあまり期待できません。健保への保険料負担は今後増えていくことが想定されるため、企業の財務リスク管理の観点から、支援金の増加に伴い、保険料負担がどのように増えていくのか把握しておくべきでしょう。負担の一部は報酬比例の部分もあり、企業ごとに受ける影響度合いが異なるため、個々企業で影響度合いを把握することが必要かもしれません。また、一部は人数比例だった支援金のすべてを報酬比例とすることも検討される動きもあります。報酬水準の高い企業では更なる負担増が予想されるため、その影響度も把握しておくべきと思われます。
マーサーでは、企業年金制度における将来推計等のアクチュアリーの技術を活かし、健保のコンサルティングを行っています。上述のような後期高齢者支援金の推計だけでなく、各収支項目を合理的に推計し、リスク管理をサポートいたします。