年金ニュースレター第12号
確定拠出年金法の一部改正について

 年金確保支援法(国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律)が2011年8月10日公布された。この中で確定拠出年金法の一部が改正された。主な改正点は以下の項目となる。

  1. 企業型年金加入者の資格喪失年齢の引上げ(施行日:公布日から2年6ヶ月以内の政令で定める日)
  2. 企業型年金加入者による掛金の拠出(施行日:2012年1月1日)
  3. 投資教育の継続的実施の明確化(施行日:公布日(2011年8月10日))

1. 企業型年金加入者の資格喪失年齢の引上げ

 企業の雇用状況に応じた柔軟な制度運営を可能とするため、加入資格年齢が60歳から65歳までの規約に定める年齢まで引上げが可能となる。(ただし、上述のとおり、現時点で施行日は確定していない)

 これにより、60歳を超えた定年を定めた企業は定年まで確定拠出年金へ加入させることや60歳を超えた雇用延長者にも新たに確定拠出年金を提供することも可能となる。

 改正法では、確定拠出年金(DC年金)の規約に定める事項として、「60歳以上65歳以下の一定の年齢に達したときに企業型年金加入者の資格を喪失することを定める場合にあっては、当該年齢に関する事項」(法第3条第3項第6号の2)が追加された。ここで、注意すべき事項は「年齢」を要件としていることである。例えば、就業規則に定年が「65歳に達した日の直後の9月30日」と定められている場合、改正法の下でも、65歳を超えて加入者となることはできない。

 60歳を超えてDC年金の加入者範囲を拡大させることにより、掛金を会社の定年まで支払うことが可能となる。ただし、現在、60歳を超えた定年の定めがあり、同時に確定給付企業年金制度(DB年金)を実施している企業では、60歳を超えた部分の掛金がDC年金へ支払えないため、DB年金側で補っている場合がある。このような場合、DB年金側の60歳を超える部分の給付引下げを同時に行うことが想定され、DB年金の規約変更および給付減額の手続きが発生することは留意したい。

2. 企業型年金加入者による掛金の拠出

 従業員拠出(いわゆるマッチング拠出)を可能とし、従業員拠出額を所得控除の対象とすることとされた。従業員拠出の導入は、従業員の拠出額は給与所得控除の対象である点、DC年金専用の投資信託等の運用商品を追加購入できる点、また、特別法人税が凍結されている現状では、運用益の課税繰延べもあり、従業員へのメリットは大きいと考えられる。ただし、従業員拠出は、次の条件の範囲の中で設定しなければならないこととされている。

  • 企業拠出を超えないこと
  • 拠出額は従業員が規約に基づき決定すること
  • 従業員拠出は、会社を通じて行うこと(給与からの天引きが可能)
  • 企業拠出と従業員拠出の合計額が拠出限度額を超えないこと

注) 拠出限度額(企業型の場合)
 他に企業年金がない場合:月額51,000円
 他に企業年金がある場合:月額25,500円

この条件の下では、企業側で拠出限度額まで拠出している場合、従業員は自ら拠出することはできない。従業員の属性により、拠出できたり、拠出できなかったりする場合が生じ、また、拠出できる上限額も各人で異なる場合が多い。

例えば、他に企業年金がある場合で、「基本給×5%」を企業拠出月額と定めている場合、

  • 基本給51万円以上なら、企業拠出額が25,500円以上となり、従業員拠出は不可
  • 基本給30万円なら、企業拠出額は15,000円となり、10,500円(=25,500円-15,000円)まで従業員拠出が可能
  • 基本給20万円なら、企業拠出額は10,000円となり、10,000円(企業拠出と同額)まで従業員拠出が可能

従業員拠出に関する条件が多いため、制度導入には、拠出ルールに関し、誤解が生じないようDC年金の制度内容の周知徹底に努めていくことが重要だと考えられる。

3. 投資教育の継続的実施の明確化

 企業による従業員に対する継続的投資教育の実施義務が明文化された。従来の努力義務から一歩前進し、企業は従業員に対し、運用指図へ有効活用できる資産運用の知識向上を配慮し、継続的投資教育を行わなければならない。

 運用指図へ有効活用できる資産運用の知識とは何か、ということは様々な議論がなされてきているところであるが、ひとつのキーワードは「老後」であると考えられる。確定拠出年金自体が老後の所得確保のために作られた法律であり、従業員拠出も老後所得の確保に向けた自助努力の支援である。資産運用の知識そのものも重要であるが、DC年金の範疇にとどまらず、背景にある公的年金制度、その他の企業年金制度、会社の定年制度や再雇用制度等を踏まえて、「老後」とは何か?ということを踏まえて、投資可能期間や資産運用リスクを考えていけるようになるのが理想ではないかと考える。


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