2020年5月29日、参議院本会議で年金改正法案(「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」)が成立しました。
この法案は、より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、公的および企業年金制度全般に渡り見直しをかけるものです。
今回は、企業型の確定拠出年金(以下「DC」)に関する改正内容の概要と、押さえておくべきポイントを解説します。
1) 企業型DCに関連する改正内容の概要
内容 |
留意点/対応事項 |
適用日 |
① DCの受給開始時期の選択肢の拡大 受給開始時期の上限が、現在の70歳から75歳まで引上げられる |
退職者(特にシニア層)への案内の変更 |
2022年4月 |
② 企業型DCの加入可能要件の見直し 70歳未満の会社員は規約に定めれば全て加入可能になる |
資格喪失事由の見直しの検討(詳細は後述) |
2022年5月 |
③ 退職に伴う企業型DCから通算企業年金への移換 企業型DCの個人別管理資産の移換先として、iDeCo(個人型DC)に加えて通算企業年金(企業年金連合会への移換)が新たに加わる |
退職者への案内で、移換先のオプションを追加する |
2022年5月 |
④ DCにおける中途引出しの改善 退職者が海外へ移住した場合に、一時金として受け取れる要件が緩和される |
外国籍人材への案内の変更(詳細は後述) |
2022年5月 |
⑤ iDeCoの加入の要件緩和 企業型DCの掛金が上限に達していないものについては、iDeCoの加入が可能になる |
企業型DCとiDeCoが連携する必要があり、企業にとっても拠出可能額を知らせる等の事務負担がかかる可能性 |
2022年10月 |
2) 押さえておくべきポイント
②企業型DCの加入可能要件の見直し(定年延長等に対する企業型DCの対応)
現行でも、65歳未満まで継続加入可能ですが、あくまで60歳前と同一事業所で継続して使用される者に限定されています。そのため、定年延長に伴い、資格喪失年齢を60歳から65歳へ変更する時点での60歳以降の従業員や、60歳到達後にグループ会社から転籍された場合等では、再び加入できないケースが発生します。その代替として、前払い退職金で手当するなどの検討が必要となり、実務的な煩雑さがありました。
今回の改正により、厚生年金の被保険者であれば、70歳未満まで加入可能になり、定年延長した場合であっても、全社員がDCに加入することが可能になります。
④DCにおける中途引出しの改善(外国籍の従業員への対応)
現行では、居住地にかかわらず、DC資産額が1.5万円以下であることなどの非常に限定的な条件を満たす人に限り、脱退一時金として引き出すことができます。このため、数年間で本国に帰る予定の外国籍の従業員であっても、一旦DCに加入すると、退職時(帰国時)に前述の条件を満たさなければ脱退一時金として引き出すことができず、60歳まで待ってから受け取る必要がありました。
そうした外国籍の従業員のデメリットを避けるため、前払い退職金との選択も検討されますが、外国籍の従業員のみ選択肢を与えるということは通常認められていないので、結果、全員に選択を与えることになります。年金での受け取りやマッチング拠出(従業員による任意の上乗せ拠出)による老後資金の準備の充実を目的として、なるべく多くの従業員にDCに加入してもらいたいと考える企業にとって頭の痛い問題でした。
今回の改正により、拠出期間が5年以下または残高が25万以下(政令等の規定内容により変更の可能性あり)の退職者が海外へ移住した場合には、脱退一時金の受け取りが可能になります。外国籍の従業員に対する懸念が解消され、より円滑に企業型DCを導入ができるようになります。