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プロフェッショナル対談 第1回

Microsoft x Mercer

リモートワークは、社員に自律性を促し生産性を高める柔軟な働き方の手段の一つ。オンラインと対面の特性を理解した上で臨機応変に使い分けることが重要です。日本マイクロソフト株式会社の杉田勝好様にお話を伺いました。

Microsoft x Mercer

第1回 リモートワークを通じた人材競争力の強化

 

日本マイクロソフト株式会社

 

執行役員 人事本部長
杉田 勝好 様

 

新卒社員として、旭化成株式会社に入社し、工場労務から人事フィールドのキャリアをスタートし、その後、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社にて外資系人事の経験を積み、US本社勤務を経験。日本ヒルティ株式会社、アストラゼネカ株式会社にて、人事部門のトップを務め、ダイバーシティや成果主義にフォーカスした組織風土改革、シニアレベルのタレント採用・育成をドライブし、人事部門の強化に邁進。現在、日本マイクロソフト株式会社にて、Data driven HR のアプローチを進め、ビジネス・カルチャーのトランスフォーメーションを展開中。


インタビュアー:白井 正人

取締役 執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表 パートナー

 

 

オンライン会議はアジェンダ・進め方などの事前準備がより重要

 

緊急事態宣言を受け、貴社社員はどのように働かれていますか

 

Microsoftでは従来からリモートワークを実施しており、レディネスは高かったと思います。現状、対顧客業務を担う営業部門の一部の業務以外、大半がリモートで完全に完結しており、大きな支障はありません。ただし長期化するにつれ、連日のリモートワークが辛いという声は、特に若い層から聞こえてきます。相対的に独身の方も多く、外出を自粛する中でコミュニケーション機会がかなり減っていることが影響しているのではないでしょうか。

 

その中で、社員主体の工夫が広がっています。デジタルを活用した飲み会やランチやコーヒーブレイクなども広がり、チャット機能を使った交換日記など、対面でのコミュニケーション機会が少なくなった今の方が、自己開示が進んでいると感じます。

 

一方、オンライン会議で深い話をすることの難しさを感じることはあります。話が通じにくい、ニュアンスが伝えきれない状況があり、会議のアジェンダや進め方を事前に明確にしておくことが対面以上に重要になってきます。

 

オンライン会議で深い話をすることの難しさは何が要因だと思われますか

 

空気感を理解出来るかどうかの差が大きいと思います。ダイバーシティ&インクルージョンにもあるように、エンパシー(自分と異なる価値観を想像する)、インクルージョン(異なる価値観を認め活かす)の考えが重要で、相手の理解や配慮の有無が大きな差になると感じます。

 

対面であれば表情が確認でき、声のトーンや視線の強さなどで分かることもありますが、オンラインでは限定的になります。カメラ機能をオンにする等の工夫は行っていますが、限界があります。

 

裏を返せば、そういった微細なニュアンス理解が求められない通常の会議・打ち合わせは全く支障なく運営できています。

 

 

 

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対面・オンラインの特性を踏まえ、目的を明確にした上で、リモートワークを活用することが有効
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日本マイクロソフト株式会社 執行役員 人事本部長 杉田様とのオンライン対談の模様

何もしなければ元の働き方に戻る。今後もリモートワークを有効活用する上では、オンライン・対面の特性を正しく理解し、目的達成の手段として活用することが重要

 

コロナショックで急速にリモートワークが普及しましたが、コロナショック後はどのような働き方になると思われますか

 

現状の事態が収束し、特別に政府や有識者などから働きかけがなければ、皆Face to Faceに渇望しているために急激に元に戻ると思います。しかし、満員電車で毎日通勤するよりは自己責任で柔軟な働き方を選択できる方が望ましいのではないでしょうか。その上では、対面・オンラインの特性を踏まえ、目的を明確にした上でリモートワークを活用することが有効だと思います。

 

会議の特性に応じてオンラインに向いている/向いていないがあるということでしょうか

 

アジェンダが明確なディスカッションはオンラインでもさほど問題を感じませんが、オフサイトでのチームビルディング、バリューの共有などはやはり対面でやることの意味が大きいと思います。

 

採用面接でも、経歴やハードスキル(形式知化された知識・技能)の確認は、オンラインの方がレジュメや話に集中することができ、むしろバイアスがかからないように感じます。逆に、ソフトスキル(ヒューマンスキル)の確認はオンラインでは難しく対面の方が望ましいと感じます。会議にせよ、採用にせよ、オンラインと対面の特性を理解した上で、組み合わせて設計するのが望ましいと言えます。

 

目的の明確化について、もう少し詳しくお話しいただけますか

 

リモートワークは目的ではなく手段だと思います。企業の理念やビジネスにおける競争力強化の観点から、社員がどのような働き方をするのが望ましいのかを明確にした上でリモートワークを設計すべきと考えます。

 

例えば、営業担当がクライアントを訪問し、場合によっては様々なメンテナンスやサポートが必要になります。関係者全員での対面のアポイント調整は時間を要しますが、オンラインであれば必要な人を早期に巻き込むことができ、スピードアップが可能です。また、オンラインの打合せや商談であれば、実際に多くの数に対応できます。同時に仕事の質を担保するために、自分でスケジュールをブロックしてインターバルを取るなどの工夫も重要です。

 

また、採用競争力の観点からも、リモートワークを含め、柔軟な働き方を認めることは重要です。特に若い世代については働き方に関する関心は高く、リモートワークやフレキシブルワークに取り組まない企業は選ばれなくなる可能性もあると思います。

 

日本企業の競争力強化に向けて、これから政府や企業はどのような取り組みをしていくべきでしょうか

 

リモートワーク、フレキシブルワークを促進していく上では、時間管理は可能であれば個々人の自律性に任せた方が良いと思います。働く人の健康を阻害するような過剰労働は避けるべきだと思いますが、過重労働は企業の責任をより一層強く求めるためにも罰則を厳しくすることで、個別の規制自体は緩和することも考えられます。

 

 

性善説に立ち、社員の自律を前提とした働きかたを認め、生産性を高めることが重要。そのためにリモートワークは有効な手段

最後に企業経営者へのメッセージをお聞かせください

 

性善説に立ち、社員の自律を前提とした働き方を認め、生産性を高める努力をすることが重要です。その上で、リモートワークは有効な手段です。生産性を上げる努力をしないことは、生産性の低い人にあわせて仕事をすることと同義になり、出来る社員のモチベーション低下に繋がります。

 

生産性向上には社員の時間の使い方の分析も重要だと思います。例えば、当社が提供し自社でも使っている分析ツールの結果によると、パフォーマンスの高い営業チームの方が、限られた数のクライアントにより時間をかけて対応していることや、自社内の別のチームと打ち合わせの時間をより長く取り、関係者をうまく巻き込めているこということが把握できます。こういったことを定量的にきちんと把握し改善につなげることで、リモートワークが単なる福利厚生ではなく競争力強化の手段として捉えられるようになり、日本社会でも取り入れられていくのではないでしょうか。

 

2020年4月16日 対談実施

 

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インタビュアー

白井 正人

取締役 執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表 パートナー