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プロフェッショナル対談 第5回

Ministry of Economy, Trade and Industry x Mercer

国民の生活や働き方に急激な変化を及ぼした新型コロナウイルス。Withコロナ時代、私たちはこれからどのように新たな価値を生み出していくのか。経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長 能村幸輝様にお話を伺いました。

METI x Mercer

第5回 組織と個人のあり方を再定義することで生まれる付加価値

 

経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長

 

能村 幸輝 様

 

2001年 経済産業省 入省。人材政策・税制担当、エネルギー政策・資源外交担当、原子力被災者支援担当、大臣官房総務課政策企画委員などを経て、2018年より現職。経産省の人材政策の責任者。テレワーク、副業・複業、フリーランスなど「多様な働き方」の環境整備、リカレント教育・AI人材育成、HRテクノロジーの普及促進などを担当。


インタビュアー:白井 正人

取締役 執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表 パートナー

 

 

不可逆的な流れによって問われる個人の役割と企業・組織の本質

 

緊急事態宣言の全面解除から一夜明けた今、率直なお気持ちをお聞かせください

 

新型コロナウイルスはリモートワークを拡大し、「一人ひとりの役割や生き方を再考する契機」になったのではないかと思います。不可逆的な流れによってより本質が問われている、とも言えます。多くの企業がリモートワークをせざるを得ない、物理的に社員が同じ会社にいないという経験をしました。所属している組織・団体のミッション、ビジョン、バリューを共有する重要性に改めて気付いた人も多いのではないでしょうか。

 

同時に、今後はより一人ひとりの生産性が問われていくと感じています。足元で、個々の「ジョブ」に対する明確さを増す動きが起きていくのではないかと。その結果、働き方改革の第二章として、「個」の人生全体におけるポジティブなキャリアオーナーシップの見直しに拍車がかかるでしょう。自らは何を為すべきで、リモートワークで浮いた通勤時間を何に充てるのか。それ一つを取ってみても、自身が何に価値を置いているのかを再認識できたはずです。各々にライフステージがありキャリアもその一部である、そう気付くことができたように思います。

これから選ばれるのは、業務のあり方の見直しを徹底し個々の働き方と向き合う企業

 

リモートワークによるメリットやデメリット、新たな発見はありましたか

 

昨年、『変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言』を発表しました。冒頭では、日本企業・個人を取り巻く社会・経済環境の大きな変化を3つの要素に細分化しています。その2つ目として掲げたデジタル化が、これほどダイナミックに且つ短期間で私たちの日常を変えるとは想像していなかった、というのが本音です。

 

また、『変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言』では、働き方の多様化、個のキャリア自律や人材の流動化が重要である、といった内容が謳われているのですが、今回の経験を通じてその必要性はより高まるのではないでしょうか。新型コロナ感染拡大の中で、リモートでも仕事ができるということを多くの方が実感し、必ずしも以前のようにオフィスで働くスタイルに戻らなくて良い、という選択肢が与えられたように思います。一方で、F2Fでないと生産性が上がりにくいという声もあります。私たちは便利さを知った、故にBPRの取組みも合わせて考えなくてはならない局面に今立たされています。

 

具体的には、IT企業をはじめノイズが無くなることでより集中できるという声もあれば、意見を出し合う場などはF2Fの方がその場の空気や一体感から新しいアイディアが生まれやすいという声もある。対面・接触型のビジネスやサービスをどう転換していくのか、エッセンシャルワーカーに対する処遇等をどうしていくべきかなど、BCPの観点からも、個々の働き方と向き合いながら、今後どのように見直すことができるか。その課題に真摯に取り組む企業が選ばれ、ますます差別化されていくのではないかと考えています。

経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室長 能村 幸輝様とのオンライン対談の模様 

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組織と個人のあり方を再定義することに向き合う。それができる企業が、今後リジリエントな付加価値を打ち出していくのではないか
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「自律的なキャリアの構築と社会全体のリスキル」を意識した時間管理・評価・処遇

 

時間管理という枠組みについてはいかがですか

 

このパンデミックをきっかけに、社員たちには自由や裁量を与えベネフィットをもたらすべき、という考え方が広まるのではないでしょうか。最近ではグローバル展開の中で、海外で優秀な人材を雇い、部下は現地で勤務しているという企業も増えてきていますよね。物理的に彼らの働きぶりを見ることもできなければ、そもそも時差を考慮してコミュニケーションを図らないとならない。信頼をベースに、自己申告型の管理を導入していかないとうまくいかない、そのことを私たちは学びました。


この気付きから、従来の過重労働させないための時間管理は、ハイブリッドに進化していくと考えられます。会社という領域以外、自宅でも仕事する時間が増えていく中、育児・介護を担っている人々の仕事の成果を1分単位で分けることはできません。それでは働きづらく、息苦しくなってしまう。評価・処遇は、時間ではなく、成果に応じてしっかりと見ていかなければなりません。

 

海外の例を見ても、兼業や副業を含め多種多様な働き方を選択できる環境こそが「ニューノーマル」です。この中では、労働時間で労働者を管理し保護していくこと自体にも柔軟性が求められ、大きな流れの中で新たなアプローチが必要になってくるのではないでしょうか。会社という物理的な帰属性が取っ払われたこと、それが日本社会全体に広まりました。これからは自身がどう働いていくのか、個人の「裁量」と「自律」がより問われていく社会に変わっていくと思います。

 

評価・処遇について、もう少し詳しくお聞かせください

 

大きく3つ、企画系、定型業務、エッセンシャルワーカーというカテゴリーに分けて考えてみたいと思います。まず、エッセンシャルワーカーには処遇を上げるなどの対処が必要という議論が挙がりました。必要不可欠な仕事に対し、それ相応の報酬が与えられて然るべきだからです。そして、全カテゴリーに共通して重要になるのは、自動化できる部分を早急に見極め対応することです。私たちの多くが、リモートワークでいかに生産性を高められるのかと頭を悩ませ日々を過ごしてきました。その結果、テクノロジーを駆使すれば、所属する組織の6掛または7掛の人材で機能するという感覚を覚えた企業も少なくないでしょう。

 

それでもなお、私たちの基盤は人です。継続的にアウトプットするプロフェッショナルグループ、組織に所属したいロイヤリティのあるグループ、いずれに対しても成果主義的な面を組み入れ、育成という幅を持たせる必要性があります。経営目標に照らし合わせ、一人ひとりが責任をもって個人目標を設定し、その達成度を定期的に測れるような仕組みをもって、雇用主あるいはマネージャーは然るべき評価をする。そのためにも、個人と組織は常に「自律的なキャリアの構築と社会全体のリスキル」を意識しながら、アジャイルに成長していくことが肝心だと思います。

官民一体で「良い方法」を共有できればインフラストラクチャー整備のスピードは上がる

 

自動化という観点から、印鑑やサインなど各種書類手続きの今後の見通しは?

 

オンサイト業務の中でも、印鑑・情報セキュリティについては政府でもよく議論にのぼります。対面・非対面の業務を棲み分けし代替できるものは、個社・産業レベルで考えていく必要性がありますね。各種申請、契約書、請求書などは早急な電子化を進めていますが、政府内でも進んでいるところと難航しているところがまだあるのが現状です。行政側でも、これまでの慣行にとらわれず、また企業間でも「こういう方法が良いのでは」とベストプラクティスを横展開していけば、国・産業・企業の各レベルでスピード感をもって変わっていけると思います。

国民一人ひとりに植え付けられたSDGs、ESGによって前進するSocialと個の価値創出

 

最後に、日本企業の競争力強化に向けて、これからの政府や企業はどう変革していくべきでしょうか

 

政府では、今後の雇用マーケットや一人ひとりの雇用のあり方(フリーランスの契約やキャンセルなどの課題)について、あらゆる角度から各種ルールの策定、整備を行っています。広い意味で労働取引ができる環境整備、いわば雇用側と被雇用側が対等に取引できる仕組みづくりを目標に掲げています。対等な取引関係があれば雇用に流動性が発生するため、セイフティーネットの充実ももちろん必要ですが、キャリア自律や多様な働き方の実現、という意味でポジティブな方向に向かっています。


また、持続的成長という点では、パンデミックを乗り越えるためにあらゆる企業がESGのSocialに注力しました。自社がもっている技術を駆使して、マスクや人工呼吸器などを生産し社会に貢献しています。私たち国民一人ひとりにSDGsが植え付けられました。政府・企業は、この経験を糧により関係性を強め、個人と企業双方にとっての価値創出に励むことができる、そう信じています。

 

2020年5月26日 対談実施

 

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インタビュアー

白井 正人

取締役 執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表 パートナー