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プロフェッショナル対談 第7回

Legal Professional x Mercer

組織のあらゆるところで必要な人材ポートフォリオを構築するためには、パフォーマンスが十分に発揮されない人材に対して、改善のためのアドバイスを与え、また社内外の別の機会を見つけるよう促すなど、人材の代謝を効果的に実行する必要があります。 そのような代謝を行うにあたり、そもそも現在の日本の解雇法制はどのようなものか、また、今後ジョブ型雇用における雇用調整や雇用保障のあり方はどのようなものかについて白石弁護士にお話を伺いました。

白石紘一弁護士 x Mercer

第7回 ジョブ型雇用におけるタレントマネジメント~ジョブ型雇用における人材の確保・活用・代謝

2020年11月26日、「ジョブ型雇用におけるタレントマネジメント」セミナーにて講演の様子

 

東京八丁堀法律事務所 

白石 紘一 様

 

2012年弁護士登録。2016年に経済産業省に任期付公務員として着任。「働き方改革」等に関する政策立案に従事し、労働法関連政策に加え、企業人事制度の変革、兼業副業やHRテクノロジーの普及促進等を担う。


2018年10月より東京八丁堀法律事務所に復帰し、企業法務、労働法務、HRビジネス支援等を手掛ける。並行して、2019年5月まで、経済産業省の臨時政策アドバイザーを務める。


著書に「HRテクノロジーで人事が変わる」(共著、労務行政)、「働き方改革関連法完全対応 就業規則等整備のポイント」(共著、新日本法規)等


インタビュアー:白井 正人

取締役 執行役員 組織・人事変革部門 日本代表 

 

ファシリテーター: 中村 健一郎

組織・人事変革コンサルティング部門 シニアプリンシパル

 

(敬称略)

 

白井: 白石先生、本日はありがとうございます。早速ですが、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」の違いを整理させてください。前者は、雇用保障の代償としてどんな仕事でもします、というものですよね。後者は、コミットしたジョブに対する定義やそれに見合った処遇とキャリアも提供するという考え方に立脚します。

法的観点から見た雇用契約

白井: 法律は変わっていませんし、労働法規による急激な変化も想定はしていないのですが、雇用契約を長い目で捉えた場合の法的判断に今後どのようなインパクトがあるのか、お聞かせ願えますか?

 

白石弁護士: もともと、解雇権濫用法理における抽象的な解雇要件には、客観的合理性と社会的相当性があります。解雇権濫用法理自体のルールはそれに尽きるので、それ自体が直ちに厳しいルールというわけではありません。

 

解雇がなかなか認められないといわれていることについてですが、日本企業だと、解雇の前に人材の配転ができます。本人の同意がなくても、人事権を発動し、異動や降格を行うなど、様々な手段を行使できます。それゆえ、解雇はあくまで最終手段でなければならず、結果として、なかなか解雇は認められない。会社としては事前に策を講じなくてはならないという前提があるわけです。


仮にこの「ジョブ型」が行き着くところまで行き着いた場合、あくまで本人同意がないと他の職に動かすこともできないので、本人が配転等を拒否し続けるのであれば解雇、労働契約の終了しかないということもあり得ます。その観点から、社会の意識が変わると解雇権濫用法理の使われ方も少し変わってくるのかもしれません。

 

白井: その意味ではまだ可能性の話ということですね。最終手段の判定で今のポイントが社会的なコモンセンスとなれば、考え方が変わり得るくらいのご感覚でしょうか。

 

白石弁護士: その程度ですね。裁判所が先端的な社会情勢を拾って当てはめることは困難ですし、全体がそこに行き着くとしても.....やはり20年、あるいは40年は先になるのではないでしょうか。

 

退職勧奨上のコミュニケーション-注意点と姿勢を考える

白井: よく分かりました。現実的に解雇自体はハードルが高い、しかし将来的に変わるかもしれない。要するに、最終手段性が低いのであれば、まずはPIP(Performance Improvement Plan)、それでも難しい場合は退職勧奨が考えられますよね。退職勧奨は解雇とは違い最後は自発意思ですが、退職自体を勧める点に問題はないという理解で良いですか?

 

白石弁護士: それはもちろん、勧めること自体に問題はありません。ここで重要となるのが、勧め方です。「このままでは解雇です」と言ってしまえば、本人は「解雇される前に自分で辞めなくてはならない」と思ってしまう、錯誤に陥ってしまう。言い方に十分気を付けなくてはなりません。

 

白井: 答えられる範囲で伺いたいのですが、「仕事ができていない」「周りからはこう捉えられている」といった評価やフィードバックを伝えるのは合理的でしょうか?

 

白石弁護士: むしろそれは求められると思います。要は、本人が納得した上で意思表示をしたことをいかに担保するかがポイントなので。会社として、「あなたの成績はこうで、周りの評価もこうだ」と具体性をもってお考えを積極的に伝えいただくべきだと思います。ただし、同僚の声をそっくりそのまま伝えては本人を傷つける可能性も大いにありますし、別の紛争の種になりかねません。そこはやはり含みおきする必要があるかと……。

 

白井: 解雇されるかもしれない、とある種脅しの状況ができてしまうと問題であり、良識的な範囲でということですね。退職勧奨のコミュニケーションで、他に何か気を付けた方が良いことはありますか?

 

白石弁護士: 特に注力すべきは、その社員の評価をできるだけ客観的なデータで示すことです。抽象的または定性的な「あなたは仕事ができない」という言い方ですと、直ちに不法行為や退職の意思表示の無効とまではならないにしても、後々紛争の種になります。訴訟になった場合は、一言一句そのとおりかはとにかくとして、「私はこの場でこれほどひどいことを言われた」と訴えられることもあります。会社としては、「この点に関して説明した」とペーパーを見せることは重要で、裁判所に対しても積極的な材料となります。基本としては、ぎりぎりの状況でも、「相手の気持ちに寄り添う」姿勢を保つことが大切です。

 

白井: 単なる良し悪しで心理的なプレッシャーを掛けるのではなく、会社の事情や考えをしっかりと書面に落として説明する、というニュアンスでよろしいですか?

 

白石弁護士: そうですね。特にPIPまで行っている場合は、目標を当人に対して与える中でここまでしかできなかった、というある程度定量的な説明がつきます。可能な範囲で明確に見せていく方がむしろ本人の理解を得る上でも大事だと思います。

 

白井: ありがとうございます。バブル崩壊後90年代中盤から後半にかけて、退職勧奨における割増退職金について、アウトプレースメントの個別対応の是非についてなど、希望退職が花盛りの頃、沢山質問を受けてきました。基本的には、そうした対応を行われることは極めて不公平だ、と心配する方が多いのですよね。それに対し退職勧奨は、「今から大変になると思いますが、会社としては割増退職金をきちんとあげます」と言われており、不公平とは言い切れないと感じるのですが、どのようにお考えですか?

 

白石弁護士: 法律的な問題点が生じる話ではないと思います。割増退職金は、「本人の任意かつ自発的な意思で辞めていただく」ことを担保するための材料です。その時に「僕は他の人と違った。そんなつもりはなかったんだ」という理屈は通りませんし、金額に差があっても法律的には問題がないわけです。さらに最近では、同一労働同一賃金を気にされる方もいらっしゃるかと思いますが、そもそも日本の同一労働同一賃金では、正社員間で格差をつけること自体全く否定されていません。基本的に問題ないと思います。

 

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PIPは、期間や回数というよりは、どれほど本人と向き合ったのか、精一杯向き合ったのかが問われる
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「ジョブ型雇用」と政策的な「働き方改革」の関連性

白井: よく分かりました、ありがとうございます。時間の兼ね合いで実務面でのお話を中心に伺ってきましたが、世の中がジョブ型に移行しつつある今、お考えや論点など幅広くお聞かせ願えればと思います。以前、経済産業省で政策立案に携われ、現在では弁護士業務をされている白石先生のご経験からいろいろと感じるところがあろうかと思いますが、いかがでしょうか?

 

白石弁護士: 政策的に「働き方改革」には、「正社員絶対主義」を打破するというポリシーがあったように思います。例えば、長時間労働是正の要は、労働時間の無限定性に対してブレーキを掛けようという発想がありますよね。また、同一労働同一賃金のガイドラインの冒頭でも、職務を明確化してそれに基づいて報酬の仕組みを作ることが結局重要である、と謳われています。

 

ただし、この大きな方向での「ジョブ型」かどうかという話は、正しい議論ではない印象を受けています。もっと重要な点としては、「正社員絶対主義」ではない、もう少し連続的な人事や人材マネジメント、あるいは企業間の壁が低い仕組み、正社員と非正社員という「身分制」より、もう少しなだらかな、分かれ目のない仕組みを作っていこうという発想が根幹にある方が良いと思います。一方で、当時の政策の枠組みで職務の明確化を入れようとした部分は、現在の「ジョブ型」の議論に少なくとも活かされているとも感じています。

 

兼業副業が分かりやすい例です。副業を受け入れる側からしたら、その人に何をしてもらうかを明確に切り出す必要があります。本業側もその人が兼業している前提で、いつでもなんでも対応可能ではないことを考慮した上で、社内のマネジメントをしなくてはなりません。その点では、この兼業副業の推進も、職務の明確化、あるいは人の出入りが割とフラットになる環境づくり、会社と会社の壁を低くできる仕組みづくりを進めるポリシーがありました。しかし、元々はそう期待していたのですが、2020年9月の厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定で、兼業副業にも労働時間管理、副業先にも労働時間を明確に行う必要がある、とメンバーシップ型に近いマネジメント仕組みが入ってしまいました。個人的に、期待とは違う方向に向かっている印象です。

 

白井: 本日のセミナーにご参加いただいている方々は、実務の責任者・担当者として退職勧奨に関心が高い一方、今のようなお話にも知的興味を抱かれていると思います。時間に対して払わなくてはいけないのは、解雇してはいけない、と同じくらい日本の労働管理にとって重要な影響を及ぼしていますよね。ジョブ型であればその人の仕事に対して支払われることが基本となり、より流動的に値が付き、労働者保護の悪い会社であれば外に出ていく選択肢もある。その意味では、時間管理がこれから緩められるのではと思っているのですが、政策立案時には議論にのぼりましたか?

 

白石弁護士: 時間管理を緩める……。少なくとも現時点ではあり得ない雰囲気でしたね。

 

白井: そうですか(笑)。少し残念ですが、視聴いただいている皆さんも「勘弁してよ」と思っているかもしれないですね。

 

白石弁護士: 高度プロフェッショナル性、ホワイトカラーエグゼンプションがぎりぎりのラインかと……。

 

中でも、兼業副業に副業先も含めた労働時間管理は、そもそも立法趣旨が間違っているとしか思えないというのが正直なところです。健康管理を無くすわけにはいかないから労働時間管理をする、というのは合理性に欠けています。ただ、そのくらい、労働時間を管理すべきという発想は、この労働基準法の下に根強く残っていますね。

 

 

社会設計の変化-期待高まる人材シェアリング

白井: 政策に関わるところは、本日聞いていただいている方々にも声を挙げて頂くと良いのかもしれません。この議論は、ジョブ型雇用のトレンドとして続いていくと思います。そういった中で、最近気になっている動きやお考えをお聞かせください。

 

白石弁護士: 『ジョブ型』のポリシーの1つに、人材の流動化があります。特に会社と会社間の壁がもう少し低くなって、気軽に他社をひょいっと見れるような社会設計になっていけば良いと思っています。その点では、兼業副業にとても期待していましたし、最近の流れだと人材のシェアリングに関心があります。シェアリングエコノミー、例えばクラウドワークスのような会社が挙げられますが、それとはまた別に、正社員のシェアリングのような動きが出てきています。

 

皆様が思い付いているものより少し前、昨年5月から既に動きがありました。業種特化でやっている会社では、社会情勢的に一気にそのビジネスがしぼむと、社員の時間を遊ばせてしまいます。それは会社のためにも本人のためにもならないということで、ベンチャー・スタートアップ間で、お互いに出向したい社員と出向を受け入れたい会社とのマッチングをするプラットフォームができました。また最近では、大企業の社員を他社に出向させるケースもあります。渦中にある方としては、今まで慣れ親しんだ仕事から急に、ある種の会社都合で出されては不安もあるかと思いますが、解雇よりは良いのではという気もしています。

 

人材流動化の流れができてくると、今度は『ジョブ型』が進む社会基盤、特に人材の市場や受け皿も含めて、出来上がってくるのではないかと。今は厳しい状況にある会社が何とかするための施策のように捉えられているかもしれませんが、もう少し自然な形で転換が進めば良いと思っています。

 

白井: 貴重なお話をありがとうございました。


Q&Aセッション

退職勧奨に向けたPIPの実施方法

中村: 質疑応答に移らせていただきたいと思います。1つ目のご質問は退職勧奨に向けたPIPについてです。期間はどれほどを目安に実施すれば良いのか、アドバイスを頂けますでしょうか?

 

白石弁護士: きっと特に決まった期間がないことを前提にお尋ねいただいていますよね。先に挙げた例では、実際にPIP後に解雇まで行ったのですが、解雇無効となったケースもあります。期間はあいにく覚えていないのですが、無効となったケースでもPIPを3回実施していました。その結果改善の見込みなし解雇、としたのですが結局無効になった事案です。結局は長さの問題ではないのですよね。

 

まず具体的な目標を立て、達しなかったという場合でも、会社がその人と共に改善に向けた原因を究明し、改善に向けた検討を重ねても結果としてやはり達しなかった。という事実が必要になります。期間や回数というよりは、どれほど向き合ったのか、まさに精一杯向き合ったのかが問われると思います。たとえ、1回のPIPの内でも、どれほどマネジメントができているのかが見られます。

 

白井: 30年くらいこの世界にいるのですが、実際期間で見てみると、3カ月から1年ほどに、実施期間の例は分かれます。イメージとしては、3カ月、6カ月、1年のプログラムがあります。複数回、様子を見ながら繰り返している企業の皆様も多いですね。よくある設定としては、3カ月プログラムを2、3回行う方法です。年数だとさすがに長いですが、数年続けるクライアントも過去にはありました。

 

中村: 関連した質問がございます。PIPを実施したとしても、基本的に退職勧奨であれば本人合意または本人の自由意思に基づく退社が中心。仮に合意されなかった場合は、PIPを継続する必要性も感じますが、それ以外の方法はありますか?

 

就業規則上の根拠を基にした降格・降級という選択肢

白石弁護士: 他の手段がないという前提でしょうか?例えば、降格・降級も含めてというご質問ですか?

 

中村: はい、ご認識の通りです。別に、会社としてはPIPと同時に降格・降給などの手段もとりたくなりますが、解雇法制とは別にどのような留意点があるのか、というご質問も頂戴しています。それも含めて総合的にご回答くださいますか?

 

白石弁護士: まず、降格・降給にはいわゆる就業規則上の根拠が必要です。その観点では、現在の規定をご確認いただき会社判断で降格あるいは降給ができるのかをご判断いただきます。解雇に比べ認められやすい現状もあります。合理的理由さえあれば、他は比較的に緩くなります。内容的判断ではなく、会社としてある一定の合理性が担保されていれば良いということです。

 

あとは、手続きですよね。本人に対する説明を丁寧に行い、また弁解をきちんと聞いておくことも重要です。手続きをある程度行っている、かつ会社の合理的な判断による降給は認められています。やはりそういった手段が選択できれば進めていただいて、本人のパフォーマンスに見合った報酬なり役職なりに変えていくということだろうと思います。

 

中村: PIPを続けるよりも、降格・降給も有効な手段として使うべきであるということですね。 ありがとうございます。

 

白井: 1点確認させてください。退職勧奨でお辞めいただくのはあくまでも本人の合意ですよね。降格と降給に関しては、合理的な理由や規定などの条件はあれど、会社に決定権がある。いわば、それが権利の濫用かどうかがポイントになるということですか?

 

白石弁護士: おっしゃる通りです。解雇権濫用法理に比べれば、降格・降給における権利濫用の有無、つまりは有効性は易しく見られています。根拠規定さえあれば、降格・降給は昇格・昇給と同じようにある程度会社に裁量権があるわけです。一方解雇は、まさに労働関係の切断なので厳しく見ています。会社に入る、それは会社からの人事マネジメントを受けるということなので、その範囲内に収まります。

 

白井: ありがとうございます。

 

 

雇用確保の将来ー高齢者雇用や金銭救済制度

中村: それでは、あと2つほどの質問に絞らせていただきたいと思います。今後の方向性として、日本の雇用確保は法的に守られ続けるものなのか、というご質問です。

 

例えば、70歳定年とも呼ばれている時代になりましたが、高齢者雇用の法律なども守られていくのでしょうか?また、金銭解決というものを阻んでいるものは一体何なのでしょうか?

 

白石弁護士: 1つ目に関しましては、企業に社会保障制度の一端を担わせる文脈で今後も続くのではという気がしています。それこそ兼業副業で、そこに風穴を開けに行ったりしていた面もあるのですが……。

 

ちょうど70歳定年の話が出てきましたが、70歳まで雇用しなくてはならない、というものではありません。65歳を超えた後に、会社には5つの選択肢のいずれかをとる。その中の1つに、フリーランスとして独立起業の支援があります。ちょうど私も経産省にいた頃から、会社が70歳まで絶対的に雇用保障しなくてはいけないとなると、会社がもたないぞという話をしていました。フリーランスになっていただく場合の支援もあるのでは、という点も議論に挙がっていました。最近の事例は、それがある意味結実したと思っています。

 

電通の独立事業主になるための支援をはじめ、他にも事例がありますし、全体的な社会保障の仕組みも同じビジョンをもっています。政府でも、フリーランスの支援が重要な政策パッケージとして出てきてました。雇用の維持を強める弱めるだけではなく、フリーランスになっても大丈夫なんだ、という仕組みづくりにまさに取り掛かっている段階です。それが基盤となれば、会社から離れることがすなわち崖から突き落とされることであるという捉え方ではなく、会社から離れても柔らかいクッションができる。そうなると、解雇に関する判断も緩んでくることがあり得ると思います。が、それはまだ先ですね。今はむしろ、フリーランスの方が働きやすい仕組みの設計が進んでいるというステージです。

 

2つめの金銭解決を阻むものという質問ですが、オープンの場で議論されているものをそのまま紹介すると、根本として労働者側の大反対があります。解雇の金銭解決とは、言い換えれば、労働者を首にする仕組みが一つ増えるだけではないかと。最近までなかなか議論が進まなかった背景として、使用者側に対する強い不信感があるのですよね。今は、労働者側をしっかり保護する前提の仕組みにすれば良いではないか、と見直されています。議論の結果、解決金の金額水準も随分と高く設定するという議論になりつつある印象を受けています。お金を払えば首にできる制度の真逆へ、まさに労働者側の選択肢として確立していく仕組みとして今、議論検討されているところです。名称も、金銭解決ではなく金銭「救済」制度となります。

 

 

日本の労働市場におけるジョブ型雇用の未来

中村: ありがとうございます。次の質問はジョブ型雇用への移行についてです。マーケットデータも含め、日本では労働市場が形成されていないのではないでしょうか。先んじて行ったとしても、結局外から有用な人材が雇用できなかったり、マーケットデータが参照できなかったりと課題が多くあるかと思います。どのように乗り越えていくべきでしょうか?というご質問を頂戴しています。

 

白井: それは私からお答えさせてください。おそらく実務で関わっていらっしゃる方からのご質問ですね。マーケットが無い点は半分認めざるを得ないです。が、ある程度出来上がってきているという言い方もできます。過去と比べると、採用者において、中途採用の数は格段に増えていますし、新卒の方に比べると数だけでは超えていると思います。ただし、現状では、中途の方には何度も転職をされている方もいらっしゃいますが、大企業だと新卒から定年まで勤務し人生を終える方がまだまだ多いのが現状です。

 

まさに鶏と卵の話です。現実を見ていていただくと、新卒のトップ層の意識と行動は、なかなかのジョブ型です。マーケットや職種を意識した形でないと採りにくくなりました。 また、中途でデジタル系の方やグローバル系の方をいち早く採る必要が出てきている。回答にならず大変恐縮ですが、彼らは外資系も含む多くの企業がピンポイントで欲しがっている層です。

 

そういった意味で、まずはジョブ型運用をお始めになって慣れていきながら、段々と広げていくことが現実的だと思います。難しければ一国二制度で一部適応する、あるいは部分的にやっていかなくては、結局10年経って完全に逆ピラミッド型の人口構成・労働人口になった時に新卒で優秀な人材が入ってこなくなる。そこは一歩進んでいただくしかありません。ただ最初は不合理が沢山あるのは全くその通りです。その点は、是非ご協力させていただきたい、というところでございます。

 

白石弁護士: 弁護士にも関わらず政府の話ばかりで恐縮ですが、方向性として、職種別マーケットはあるべき、そうでないと職務に見合った給与体系ができない、と政策的にも認識しています。アメリカには、職業ごとに必要なスキルや平均的な賃金がサイト上に全て整理・公開されているデータベース、O*NET Onlineがあります。つい最近では、厚生労働省も職種別に必要なスキルセットなどをまとめたサイト、日本版オーネットというものを作りました。民間が推し進めていくことも考えられますし、政府にもコミットする姿勢があると感じています。

 

中村: 本日は長時間にわたり、誠にありがとうございました。

 

 

 

2020年11月26日 対談実施

 

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インタビュアー

白井 正人

取締役 執行役員 組織・人事変革部門 日本代表

ファシリテーター