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プロフェッショナル対談 第6回

Cosmo Energy Holdings x Mercer

リモートワークでは対面のコミュニケーションが難しく、生産性の低下が懸念されることがあります。しかし、こうした環境下だからこそ、本来あるべき仕事の進め方に立ち返ることで、むしろ生産性を上げることも可能です。コスモエネルギーホールディングス株式会社 執行役員人事部長の竹田純子様にお話を伺いました。

Cosmo Energy Holdings x Mercer

第6回 危機を契機に、リモートワークを活かした新たな働き方と生産性を追求する

 

コスモエネルギーホールディングス株式会社

 

執行役員 人事部長

竹田 純子 様

 

慶應義塾大学を卒業後、新卒社員として、コスモ石油株式会社に入社。販売部門・経営企画部門を中心にキャリアの経験を歩み、コスモ石油の人事総務部長、企画管理部長を経て、2019年4月にコスモ石油の取締役執行役員に就任。2020年4月より、コスモエネルギーホールディングスの執行役員人事部長を務めている。


インタビュアー:中村 健一郎

組織・人事変革コンサルティング部門 プリンシパル

 

 

社員の健康を守り、企業としての責任を果たす

 

今回のコロナショックを受けて貴社ではどのような対応をされていますか

 

まず最優先事項としたのは、石油の供給という当社の企業責任を果たすための取り組みです。作業員にコロナウィルスの感染者が出ることで製油所の操業が止まらぬよう、現場を守ることに最善を尽くしました。例えば計器室に入室できるのは必要最低限の関係者のみにするなど工夫を重ね、そうした取り組みは現在でも徹底しています。結果として現時点では一人も感染者を出さずに操業を続けています。こうした取り組みは製油所だけでなくサービスステーションなどでも同様に行われています。

 

貴社にはBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の設定もあるかと思いますが、今回の事態は想定内でしたか

 

正直なところ想定外でした。地震などの災害により、設備の損壊や一部の作業員が業務を遂行できない事態等は想定していましたが、今回のようにウィルス感染者が発生し、周囲の関係者が濃厚接触者と見做された場合のシナリオは想定していませんでした。しかしながら、既存のBCPとそのために準備してきたものを、作業員の健康を守ることを最重要事項として、ルールに囚われず応用し、対策を実行しました。地震など過去の経験を踏まえてマスクや防護服などの用意をしていたことなど、日頃からの準備と、その柔軟な応用を通じて、製油所で年度初めに予定されていた多くの人が集まる大規模な定期整備についても、無事、感染者を出すことなく完了することができました。

 

内勤社員に対する対応はいかがでしょうか

 

内勤社員に対しては可能な限り在宅勤務を推奨しましたが、当時年度末を迎えていたため、実態としてはなかなかオフィスワークからの切り替えは進みませんでした。しかし4月の緊急事態宣言発出以降は、原則在宅勤務とする方針とし、特に4月末からは出社に際して上長の許可を必要とすることとしました。本社には当時通常の1~2割程度しか社員はいなかったと思います。

本来あるべき仕事の進め方に立ち返り、高い生産性を実現する

 

オフィスワークからリモートワークへ切り替えるにあたり、貴社社員の働き方に変化はありましたか

 

在宅勤務でも効率的に働けるよう、社員一人一人が生産性を高めるための工夫を心掛けるようになったと感じています。例えば、会議の前に資料を共有するよう心掛けることで、会議の時間を資料の説明ではなく内容の議論に使うことができます。結果として、会議の限られた時間内で結論を出すことができるようになってきていると思います。

 

また在宅勤務を実施するにあたり、社員には毎日、仕事始めにその日に取り組む業務を、仕事終わりにその日の業務の成果を上長に報告することを徹底してもらっています。そして上長もまた、部下からのそうした報告内容を確認することとしています。そうすることで上司と部下の間で業務の進捗や配慮すべき点について、密に連携することができています。リモートワークになって、新たな取り組みを行うことで、逆に、部下の状況をより把握できるようになったという声も挙がっています。私自身、以前は通勤に使っていた朝の時間を、仕事の準備のために使うなど、仕事の仕方は格段に変わったと思います。

 

以上のような取り組みは、本来在宅勤務でなくとも出来ているべきことだったのかもしれませんが、以前オフィスで働いていた頃はどうしても曖昧になりがちだったと思います。在宅勤務とすることで、むしろ従来の働き方を見直し、生産性を高めることができた面もあると感じています。

 

一方で、リモートワークに切り替えるにあたり課題となったのはどのような点でしょうか

 

在宅勤務導入が定期異動のタイミングと重なってしまったので、時期としては厳しかったと思います。新しい業務を担うことになったにもかかわらず、十分な引き継ぎも受けられずに業務を始めることになった社員がいたのはもどかしい点でした。私自身、4名いる配下のグループ長のうち3名が新しい業務を担うことになりましたが、オフィスワークとは異なり近くにいる社員に教えてもらうことができず、やはり負担は大きかったと思います。

 

そうした中で重要なのは、業務の質を保つために組織内の“情報量”を一定に保つことだと考えています。私の部署でも、部下には社内・社外の然るべき関係者と適切に連携するよう指示し、今まで以上に積極的に情報を集めるよう促しました。結果として、今年度から新たにグループ事業会社より転入してきた部下は、ある程度スムーズに業務と向き合うことができました。彼らには、今後、人事として果たすべき役割について、事業会社視点の意見を取り込んでくれることを期待しています。

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当社には、「"お互いの信用と信頼"とともに良いことは積極的にやる」というカルチャーがある。明確に目的を発信すれば、変革は進む
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“良いことは積極的にやる”というカルチャーのもと、“究極の生産性”を目指して働き方改革を進める

 

今後貴社では働き方はどのように変化していくでしょうか

 

今回、きっかけが感染症の広がりであったことは残念ですが、結果として在宅勤務を推進する実績ができました。今後は“究極の生産性”をキーワードとして、最も生産性が高まる勤務形態を追求していきたいと考えています。今は、既存のルールにこだわるのではなく、出社とリモートワークについて、ゼロベースで、生産性が高まる上手な使い分けを模索するよう各部門に求めています。今後は、その模索の中で得られた経験を形にしていきたいと考えています。

 

貴社において、こうした取り組みを推進できる要因は何でしょうか

 

当社は、成り立ちは製油所にルーツを持つ、旧い体質をもっている部分はあります。もちろん、世の中から見れば、そうした印象があるかもしれません。しかしながら、当社には、“お互いの信用と信頼”と共に“良いことは積極的にやる”というカルチャーがあります。まじめで誠実だけど、硬くない人の集まりです。明確に目的を発信し、それを実践するツールと環境を整えることができれば、舵を切ることができる会社です。今回の在宅勤務導入でもそれが確認できたと考えています。

 

この変化を契機に、今後2~3年でどのような取り組みを進めていかれるのでしょうか

 

私は現在ホールディングスに在籍していますが、自身の役割は、各事業会社の成長を促すことです。その成長を実現するためにはグループ各社がより効率的な組織となっていく必要があります。その施策の一環として、今回の変化を契機とした働き方変革を織り交ぜていきたいと考えています。今後1~2年で、それをサポートするような方針・制度づくり、ツールの提供により注力していきたいと考えています。印鑑が必要な業務や、郵便物への対応など、現状をすぐには変えられない業務もありますが、オフィスにある紙の資料を電子化するなど、在宅勤務の導入に向けてできる取り組みも沢山あります。

 

今回のコロナショックは企業変革を引き起こす契機にすることができると思っています。全社に対して目指すべき方向を示し、そして実行への移行をスピード感持って進めていきたいと考えています。

 

働き方の変革を促進する上で、国に伝えたいメッセージがあれば伺いたいと思います

 

やはり労働時間管理についてです。大原則として、従業員の生活と健康が脅かされることがあってはなりませんが、当社のオフィスワーカーにおいては、実際にこの2か月間、個々人の裁量が高まった環境下で業務を進めることができています。日本のホワイトカラーの生産性が他国と比べて劣っていると言われて久しいですが、その管理において時間という概念から離れ、個々人の成果に着目した管理がしやすくなるような環境整備が進むとよいと感じています。環境が変わったこの機会に、時間管理をするために監視する仕組みを導入するなど、管理のための対応に組織としての労力を払うことに意味があるとは思いません。オフィスワーカーの成果をどう評価するべきか、といった点から少しずつ見直していく必要があると考えています。

 

2020年6月5日 対談実施

 

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インタビュアー