役員報酬は世間水準と比較して検証!? - 検証の観点と世間水準の読み方

昨年末(2018)から今年(2019)の"人事部門あるある"かもしれないやりとり。貴社ではいかがでしょうか?

(役員) ウチの役員の報酬金額って妥当なの?ちゃんと検証とか、やっているよね?特に海外って大丈夫なんだっけ?先週のニュース特集をみていたら心配になってきてね・・・。
(人事) 大丈夫です。ウチの報酬は世間水準より上です!
(役員) 世間より上ってどれくらい上?そもそも、上だったらいいんだっけ?それに、世間水準っていうけど、世間って誰なの?
(人事) はあ・・・。

■報酬検証の観点と世間水準の読み方

(1)報酬検証の観点:報酬額が市場より高ければ大丈夫!といえる?
(2)世間水準の読み方:世間とはいったい誰なのか?どうやって世間を定義する?

マーサーでは、サービスとして報酬ベンチマーク・分析レポートを提供しており、毎日、どこかの国の報酬水準と、お客様のどなたか(実在者)の報酬との比較・分析が行われています。これに携わる中で驚くのは、業界の日本代表とも言えるような優良企業や大企業でも、冒頭のやり取りにあるような質問にグローバルレベルできちんと答えられる日系企業は多くはないということです。
そこで今日は、日々の業務として、報酬ベンチマーク・分析を行っている担当者の視点から、考えていることをお伝えしてみようと考えました。

(1)報酬検証の観点:報酬額が市場より高ければ大丈夫!といえる?

世間より報酬が高いとなんだか良い気がする・・・。本当にそうだろうか?市場より高ければ良くて、安ければ悪いのか?
マーサーで、報酬を世間水準(マーサーでは、市場報酬水準、と呼ぶ)と比較する際の観点は2つ。
このどちらの観点においても、市場水準=正しいわけではなく、市場水準は基準値に過ぎません。

市場水準を見る際には、市場に対する自社の事業戦略と市場水準に対する自社報酬の位置付けの間に整合性が確保されているかどうか?を重視したいものです。

例えば:
自社がアジアでは短期間での市場拡大を志向しており、成長緩やかなヨーロッパでは顧客維持を目標している場合、アジアの経営幹部報酬は、市場より高く設定しトップ人材を確保する一方、ヨーロッパの経営幹部報酬は市場並~以下に留める、等。事業戦略に沿った報酬戦略が確保されているのが望ましいわけです。

観点1 総報酬の金額:
基本給に手当と変動給(年次賞与/中長期インセンティブ)を加えた総報酬を、総報酬の市場水準額と比較します。

実在者総報酬として市場水準額に対して90%程度が確保されていれば市場水準並と言って差し支えないですが、120%を超えると過払いとなり、逆に80%を下回ると他社からの引抜き等に合った場合に離職されてしまうリスク(リテンションリスク)を認めるレベルと評価されます。

観点2 報酬構成:
基本給に対する変動給の割合(%)を算出し、これを市場水準と比べることで、報酬構成を市場水準と比較します。

もし、日本のセールスマネージャーであれば、基本給に対する年次賞与の割合は約17%(セールス以外のマネージャーの場合15%)が水準。変動給の割合(%)が市場よりも低い場合、当該企業の報酬構成は、業績と報酬の連動性の低い固定的なスタイルと言えます。このスタイルを、安定的な報酬構成と捉えるか、インセンティブ効果の弱い報酬構成と捉えるかは企業のポリシーに拠るため、一概に良し悪しを評価するのは適切ではありません。変動給率(%)が市場を上回る場合についても同様です。

観点1 × 観点2 ひと目でわかる報酬比較マップ 市場報酬水準vs自社報酬

複数国を相手に報酬分析を行おうとすると、国別に市場水準と比較・構成チェックを行うため、一覧性を持って結果を把握するには手間がかかってしまいます。前述の2つの観点をマップに整理すると、ひと目で国別・個人別に市場報酬水準との比較結果を見える化することができます。

ちなみに、日系企業の典型ともいえるパターンは以下のとおり。
仮にアジアを中心とした成長戦略を持っている企業だとすれば、事業戦略に対して、報酬側面から切り取った人材戦略の整合性はいまひとつ。背景や更なる詳細調査を要すると言えるでしょう。

(軸の説明)
市場に対する現金総報酬の高さ:
実在者報酬額(総報酬) / 市場報酬水準額 - 1:実在者と市場とのGAPを%表示
市場に対する賞与比率(%)の高さ:
実在者変動給率(変動給/基本給) / 市場の変動給率水準:実在者と市場とのGAPを%表示

 

(2)世間水準の読み方:世間とはいったい誰なのか?どうやって世間を定義する?

(市場シェアと同じように)報酬においてもライバルはいつもの競合他社・・・なのか?

マーサーでは、市場報酬水準を人材市場における当該ポジションの市場価格と捉えています。
実際、報酬ベンチマークという言葉は、英語ではMarket Pricingと訳され、表現としてはより直接になります。
"世間"は人材市場を示していることから、報酬の比較対象群には、事業上の競合だけでなく人材競合企業も含めて考えるのが適切と考えられます。

一般的に、従業員~管理職層においては、人材競合は同業種であることが多く、経営幹部になると業種よりも企業規模が人材市場を分けるようになるため、厳密に言うなら、職位レベルに応じて"世間"の定義を変えるのが望ましいといえるでしょう。

 

記載している内容は、秘伝のタレのように隠して守り通すような内容でもないものの、お客様に対して説明する際には、レポートの付加価値としてお話している内容でもあり、報酬ベンチマーク(Market Pricing)に兼ねてから取組もうと思われていた方も、最近、急にその必要性に迫られている方にも、少しでも参考になればと考える次第です。


 

執筆者: 伊藤 実和子 (いとう みわこ)
プロダクト・ソリューションズ シニア コンサルタント