海外から日本への旅行者、すなわちインバウンドが劇的に拡大している。
筆者は外国人観光客が日本に来て観光をしている様子を見るのが好きで、浅草などのお土産屋で、「一番」という文字に日の丸が入った鉢巻を嬉しそうに買っている外国人などを見ると可笑しくも嬉しい気持ちになる。
下図は2003年以降の日本人の海外旅行者数と訪日外国人旅行者数それぞれの推移を表しているが、2003年当時は全出入国者数のうち3割に満たなかった訪日外国人旅行者数が、2015年にはついに日本人の海外旅行者数を超え、2016年もその差を引き離す結果となった。
2016年の訪日外国人旅行者の日本における消費額は4兆円に迫っており、海外売上比率の増加の話とは別に、読者の中にはインバウンド消費の恩恵を大きく受けている企業の方もいるのではないだろうか。
さて、海外人事に目を移すと、海外現地法人から日本本社への駐在員受け入れに関するご相談、お問い合わせがこの2,3年でかなり増えたと感じている。
1年以上の長期派遣であり、かつ本国に帰任することを前提にした派遣である場合、日本企業に限らずグローバルで既に多く導入されている「購買力補償方式」を前提にした内容のご相談、お問い合わせであることが多いが、最近は、ある課題意識を持つ企業が出始めている。
それは、派遣者の中で多数を占める「日本人駐在員」に対して説明のし易い制度にすることと、数的にはまだ少数である、海外から日本もしくは海外拠点間を異動する外国人駐在員も含めたグローバルで公平性のある制度にすることの両立が難しい場合がある、という点である。
一例として、ハードシップ手当を考えてみよう。
生活環境の厳しさを計るためのデータとして、マーサーでご提供しているデータのうち、日本企業で多くご利用いただいているのは、「日本人世界生活環境レポート」と「都市別ハードシップ評価スコア」という2つの商品が挙げられる。
前者は日本人駐在員に対してアンケートを行い、任地で生活をしてどう感じているかに焦点を当てた、いわば「肌感覚」を重視し、生活環境指数(日本を100)として出しているデータであるのに対し、後者はマーサーが客観的に生活環境の厳しさを評価してスコアを出しているという違いがあるが、共通なのは、どちらも「日本人にとっての生活環境の厳しさ」を測っている、という点である。
既にお分かりいただけると思うが、上記の2つのデータについては日本人駐在員の処遇に適用されるデータであることから、海外から日本、もしくは海外拠点間を異動する外国人駐在員の処遇に適用するに適さないことになる。
一方、マーサーでは、「国際人用世界生活環境レポート」と「Location Evaluation Report」というデータもご提供しており、日本企業での利用割合はまだ低いものの、どちらも、日本語の通用度や、日本食料品の調達可否など、日本というキーワードが使われた評価項目はなく、全ての国籍の派遣者に適用できるという特徴がある。
ただし、これらの「グローバル」のデータを活用する場合、「日本人にとっての生活環境の厳しさ」をきめ細かく測る、という考え方からは離れる必要がある。
「グローバル共通ルール」vs「日本人駐在員の既得権」のジレンマについては一朝一夕には解決しない問題なのかもしれない。
駐在員処遇において絶対的な正解はないことは読者の皆様も周知の事実だが、会社の恣意性をどこまで排除するべきなのか、「日本流」をどこまで通すのか等について、国際間異動が増加している今、改めて考える必要があると筆者は考える。
余談だが、筆者はインドネシア人の知人・友人が多くおり、彼らが来日した際に会うことが時々あるが、彼らが日本をどう捉えるかは実に様々である。政府主導での「クールジャパン」を前面に押し出し、「安全」、「便利」、「おもてなし」、「技術」など自画自賛する傾向が多く見られるが、それらの捉え方は欧米諸国とアジア各国の差だけでなく、個人差も当然ながらある。
誰にとって「クール」なのかを考えてみるのも面白いだろう。
執筆者: 石渡 康太 (いしわた こうた)
プロダクト・ソリューションズ コンサルタント