福利厚生サーベイご利用の勧め

本コラム執筆中の2月の下旬、ラグビーの世界最高峰のリーグ、スーパーラグビーが開幕した。ラグビーと言えば、来年日本でワールドカップが開催されることになっており、世界の強豪国のプレーを間近で見ることができることを楽しみしている方も多いであろう。このラグビーの世界ランキング1位(2018年2月時点)の国は、現在ニュージーランドだが、筆者は以前に数年間同国に在住していたことがあるのでその意味でもこの国への思い入れは強く、彼らの日本での試合を見るのを非常に楽しみにしている。少し前の1月下旬頃だったろうか、このニュージーランドに関するニュースが筆者の目に留まった。

「ニュージーランド首相が妊娠、6週間育休へ 副首相が代行」*日経新聞1月

ニュージーランドは昨年9月の総選挙で8年間続いた国民党から労働党が政権を奪取したのだが、その党首であり現在の同国の首相が就任から間もない時期に育児休業を取得する、という記事である。

ニュージーランドはCommonwealthという所謂イギリス連邦の一国であり、「ゆりかごから墓場まで」という言葉を聞いた事がある人も少なくないと思われるが、基本的に福利厚生制度が手厚い国ということで知られている。そんな福利厚生大国であるので育児休業を取得するのは当たり前のこと、と言われればそうであるかもしれないが、仮にも一国の首相が就任から間もない時期に取得するということで少なからず目を引いた。日本でも少し前に国会議員の育児休業の取得について話題になったのを覚えている方も多いと思う。果たして当地ニュージーランドの世論は如何なものか、と気になるところだが、現地の国民から寄せられたツイッターによると「現代的な家族の模範となる」など、好意的な投稿が相次いでいるということらしい。

さて、この育児休業だが日本では昨年10月に法改正がなされた事はご存じの方も多いと思う。改正の概要(一部抜粋)は以下となっている。

◆育児休業期間の延長
<改正の内容>
1歳6か月に達した時点で、保育所に入れない等の場合に再度申出することにより、育児休業期間を「最長2歳まで」延長できる。
上記に合わせ、育児休業給付の支給期間を延長する。

◆育児休業制度の個別周知
<改正の内容>
事業主は、労働者又はその配偶者が妊娠・出産した場合、家族を介護していることを知った場合に、当該労働者に対して、個別に育児休業・介護休業等に関する定めを周知するように努めることが規定された。

◆育児目的休暇の新設
<改正の内容>
事業主に対し、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、育児に関する目的で利用できる休暇制度の措置を設けることに努めることを義務付ける。
例)いわゆる配偶者出産休暇、入園式等の行事参加を含めた育児にも使える多目的休暇など(失効年次有給休暇の積立制度を育児目的として使用できる休暇制度として措置することも含む)※厚生労働省HPより

この中で一番インパクトがあるものはやはり、子が2歳になるまで育児休業期間の取得延長ができるものになった、ということであろう。従業員にとっては、新たに6か月間の延長期間が与えられることは実際に大きな変化であろうと考えられる。では、企業側にとってはどうだろうか。自社の制度がこれまで、1年6か月であった場合は、最低でも期間を2年間に延長しなければならず、この法改正に伴い就業規則の変更が必要になってくる。

ただ、単純に法改正に合わせて法定水準の2年間に延長をするだけで良いのか、ということを考えてみたい。自社はこれまで法定と同等の水準であったが、果たして市場水準はどうなのか、また競合他社はどうなっているのか、このような機会に確認してみてはどうだろうか。

筆者が担当している業務に福利厚生サーベイがある。マーサーでは年2回、企業の福利厚生制度の状況を調査しており、企業の労働時間、各種休暇、就業制度、生命保険や住宅制度などの所謂"法定外"福利厚生(Benefit)制度を対象とし、従業員と役員の二つのカテゴリにおいて統計的にみることが出来るデータベースを構築している。この福利厚生サーベイにおける育児休業の調査結果のデータの一部を抽出してみたので以下に紹介したい。

<法定以上の育児休業制度のある企業>

データ元:マーサー福利厚生サーベイの2015年版と2017年版より

これによると、法定以上の制度の有る企業数は30%以下であるが2015年から2017年にかけて増加しているということがわかる。

ここで、福利厚生に関わる現状の背景として以下も共有しておきたいと思う。2016年9月、内閣官房に「働き方改革実現推進室」が設置され、それ以降、政府主導で働き方改革が推進されており、現在では連日紙面に掲載されているように多くの企業が様々な制度改善の取組を行っているという状況は皆様もご存じの事と思う。加えて現在の人材マーケットは労働力不足ということが一つのキーワードであるが、この労働力不足という課題をどのように対処していくのかはそれぞれの企業によるところであろう。 ITの積極的活用による省人化や賃金の引き上げも考えられるが、同時にフレックス制や時短勤務、また本テーマである育児休業等を含む就業制度を整えることで従業員にとってより働きやすい環境を提供することも、新たな人材の獲得と既存従業員により長く就業してもらうためのひとつではないかと筆者は考える。

前述の福利厚生サーベイ調査結果と政府が推進する働き方改革の影響、また労働力不足による企業の対応などを考慮すると、就業環境を改善していく企業の増加傾向は今後も継続していくであろうと予想される。

今回の育児休業の法改正の場合、この福利厚生サーベイを活用することで、昨年の法改正に伴い自社の制度を単に法定水準に合わせるのではなく、法定水準以上の制度にすべきか否かについての検討をする機会ではないかということを伝えたい。

上記のグラフではたまたま増加しているが、他の福利厚生制度については必ずしもそうでない場合もあるし、従業員構成や年齢等のその他諸条件によっては、法定水準以上が必要なものもあれば、そうでないという場合もあり得るのであくまで一例として捉えて頂ければと思う。

このような調査データを活用することにより、自社と市場の水準を比較(ベンチマーキング)することで、単に法定水準に合せるだけでは無く、市場水準を意識した制度の構築について明確な理由を持って判断することができるようになる。また、従業員にプラスになる制度改善にはコスト増を伴うことが多いが、その場合でも会社(マネジメント)側に対しても納得感が得られやすいと思われる。

福利厚生サーベイでは、各制度の項目別のデータを上記グラフの条件の様に、産業別、また、従業員数別に条件を設定(Peer Groupの設定)してデータを抽出することが出来るので、自社が比較したい市場データを確認すること、また、統計データとして各設問項目における平均値、25%ile、Median(50%ile)そして75%ileに対して自社制度と横並びで比較することも可能となっている。

同業他社と同等の制度を構築したい場合は、Median値を参考にすることで他社に最低限引けをとらない水準になり、また他社を上回っている制度を構築する場合は75%ileの水準を参考にすることが妥当という判断をすることなどが考えられる。

昨年より、自社の福利厚生制度の見直しについての問合せが増えてきている印象がある。そのような場合には是非、福利厚生サーベイの利用について検討を頂きたい。また、マーサーでは市場データの提供だけではなく、自社の制度が市場に対してどの程度の水準であり、変更、改善、または廃止すべきところがあるのかを判断するサービスも提供している。お困りの場合には是非ご一報を頂ければ幸いである。

さて、話はニュージーランドに戻るが、今年の11月に同国代表のオールブラックスが来日することが決まっているらしい。日本代表と対戦するということだが、世界ランキング1位の国にどこまで善戦するか、その際は福利厚生については忘れ、両国の素晴らしいプレーの観戦を純粋に楽しみたいと思う。


 

執筆者: 曽田 純平 (そだ じゅんぺい)
プロダクト・ソリューションズ コンサルタント