コンサルタントコラム 728
教育費用を補助していますか?~グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材育成における帰国子女への期待~

2012 年秋、文部科学省は、グローバル人材育成推進事業として、高等教育の国際競争力を強化することを目的に、スーパーグローバル大学創成支援対象に 37 大学を選定した。

「若い世代の内向き志向を克服し、国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図るべく、大学教育のグローバル化を目的とした体制整備を推進する事業に対して重点的に財政支援する」という趣旨である。

国は、若い世代の内向き志向に危機感を感じ、グローバルで活躍する人材育成のために様々な取組みを始めており、これはその一つである。この様な取組みに対し、企業が派遣している赴任者に帯同し海外で就学した子女、いわゆる帰国子女が期待されているという声もある。

帰国子女は、日々の生活の中で異文化に対する理解やコミュニケーション能力、主体性などを身に付けている場合が多く、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材になり得る素養を持っている確率が高いのかもしれない。

外務省の海外在留邦人数調査統計(外務省領事局政策課発表)の直近 10 年間の推移を見ると、長期滞在者数(多くは企業が派遣する赴任者と考えられる)が 17 % 増えているのに対し、学齢期(義務教育期間)の子女の数は小学部で 32 %、中学部で 48 % と大幅に増えていることがわかる。

以下、「外務省海外在留邦人数調査統計」(外務省領事局政策課発表)より筆者作成

 

地域別に見ると、アジアでは小学部が約 6,000 人、中学部が約 3,400 人、北米では小学部が約 2,700 人、中学部が約 2,100 人、欧州では小学部が約 4,500 人、中学部で約 1,000 人増えている。人数は少ないが中南米や中東も増加傾向にある。

 

また、各地域における就学先を種別(日本人学校/補習授業校/その他)で比較すると、アジアでは日本人学校への就学数が増加している。また、アジア、北米、欧州ともその他(現地校、インターナショナルスクール、在外教育施設など)が大幅に増加していることが窺える。

 
 

尚、この統計では、義務教育期間外である就学前児童や高校生などの状況は把握できず子女数には含まれていないが、この結果に驚いている海外人事担当者もいるのではないだろうか。

海外人事を担当していると、海外赴任に際して家族を帯同したほうが良いか、それとも単身が良いか相談を受けることはないだろうか。家族帯同が原則ということを規程に明記している企業もあるが、実際には本人に判断を任せているケースがほとんどであろう。赴任者は家族状況や子女の年齢、派遣先の状況、派遣期間などと共に、教育補助に関わる会社の制度を検討し判断することになる。

帯同した家族が現地に適応できずに、不幸にして早期帰国するケースを経験したことがある企業もあるだろう。帯同した家族の現地への適応は海外赴任の成否のカギを握っているとも言える。

赴任者本人は明確な目的やタスクを持って、多くの時間を仲間と共に会社で過ごす一方、家族、特に子供は言語が異なっている、文化や風習が異なっている、学校内のルールが異なっているなど新しい社会、環境の中で 1 から人間関係を構築していかなければならない場合が多い。学齢期の子女を帯同する海外赴任を成功させるという視点で、教育費補助に関わる制度について点検してみるのはいかがだろうか。

<赴任前~赴任中>

マーサーの調査では、本人および配偶者については 90 % 以上の企業が語学教育の補助対象としている。子女については補助対象としている企業は 64 % である一方、残りの 36 % の企業では子女を補助対象外としている。

34 % の企業が何らかの制度を設けている赴任前視察に関しては、配偶者を対象としているケースは 41 % に対し、子女を対象としている企業は 14 % に留まっている。

マーサーの調査において、日本企業は派遣先での子女の教育費について 99 % の企業が補助制度を設定しているのに対し、海外の企業は 4 % の企業が補助をしていないと回答している。特に中南米の企業は 12 %、アジアの企業も 7 % は補助していないようだ。

ほぼ全ての日本企業では幼稚園から高校までを対象としており、米国系企業の回答と同じ傾向を示している。米国系企業の場合 Pre-Kindergarten を対象としている企業は 36 % に留まっている。

義務教育期間外に関しては、義務教育期間と同じ扱いをしている企業は 40 %、補助する対象項目を変えている企業が 11 %、自己負担額の設定を変えている企業が 43 % であった。また、中南米やアジアの企業では 12 % の企業が大学までを対象としている。

日本企業の場合、日本人学校を基準としているのが 81 % と圧倒的であり、日本人学校がない場合は公用語によって対応を分けている企業は 40 %、インターナショナルスクールが 36 %、現地校が 20 % となっている。 現地での授業についていくためのサポートとして家庭教師(チューター)を利用することも想定されるが、これを補助している企業は 5 % に留まっている。

<帰任前>

マーサーの調査では受験のための一時帰国制度がある企業は 61 % であった。また、通信教育費を補助している企業は 60 %、塾に関する費用を補助している企業はまだまだ少ない。

<帰任後>

忘れがちであるが、帰国後に日本の学校生活になじめるようなサポートは必要ないだろうか。

海外赴任は家族にとってもチャレンジであり、特に学齢期の子女、それも高学年であれば帯同するのかどうか一層悩むのではないだろうか。赴任者の教育費補助をどのように組み立てるのか、国内勤務者との公平性や派遣先が異なる赴任者間の公平性という視点は大切にしたい。

ただし、もしも余裕があるのであれば、海外赴任を成功させる、失敗させないという視点や、国と大学が連携して進める将来のグローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材育成に関して企業として協調するという視点を加えてみたらどうだろうか。