コンサルタントコラム 701

東京の生活、郷里の生活

筆者は海外駐在員の報酬を決定するためのデータおよびコンサルティングサービスを提供する業務に従事している。日頃クライアントから「ハードシップ手当(生活環境差手当)」を設定する際、どのように都市間の生活環境を比較したらよいか」というお問い合わせを受けることが多い。

一般的に日本企業は海外駐在員の報酬制度においてハードシップ手当を設定している。ハードシップ手当は海外駐在員が、本国と任地の生活環境差によって被る精神的、肉体的な苦痛に対する手当と位置付けられている場合が多く、そのため、任地によって支給される水準に差をつけていることが多い。

任地によって水準が異なるゆえ、課題も生じる。まず、そもそも「精神的、肉体的な苦痛」は主観的なものであり、その主観的なものに対してどのように水準を設定すればよいか。また、どのように差をつければよいか。そして、どのように任地間の生活環境差を把握すればよいか。
ハードシップ手当を設定するにあたり、企業はこの課題に答えを出さなければならない。
冒頭紹介した問い合わせについて、その背景を詳しく聞いてみると次のような悩みがよく語られる。生活環境が以前と比べて随分改善されていると思われる都市に駐在する社員に対して依然としてハードシップ手当が支給されている。複数の駐在員から特定の任地に対して支払われているハードシップ手当の水準に対して、その妥当性を問われており(その任地に支払われているハードシップ手当の水準は、なぜ自分の任地より高いのか等)、困っている。
本コラム読者におかれてもこうした悩みに思い当たる節があるのではないだろうか。

より具体的に近年の企業課題をヒアリングすると、生活環境がずいぶん改善されていると思われる都市にハードシップ手当を支給しており、減額・撤廃を検討したいが、根拠に欠けている。派遣者自身から特定の赴任地の手当額の納得性を問う声が出ている。または、注目すべき生活環境の変化(ex. 近年話題となっている中国の大気汚染など)への対応を検討しているが、一般的に他社はどのようにしているのか、など多岐にわたっている。

これら課題を解決するために、マーサーはハードシップ手当の設定根拠とできる生活環境差レポート(指標)、ハードシップ手当に関するプラクティスサーベイ・ベンチマーキングデータ、ひいては駐在員報酬制度全体の見直し・再構築に関するコンサルティングサービスを提供している。
こと主観で語られることが多い「生活環境差」に応じて設定される手当体系の構築は難しい。筆者もクライアントがもつこの難しい課題の解決に少しでも貢献できるよう、2016年も日々研鑽していく所存である。

さて、正月に我が家では東京と奈良(筆者の郷里)の生活環境の比較ついて、議論する機会があった。奈良は、文化財が多数ある。また、空気が東京に比べきれいである。そして、物価・住居費が東京よりも安い、大阪へのアクセスが比較的良いなどの良い面が挙がった。一方、妻によると、寒いのは苦手なので気候の良いところが好ましい。自治体の住民への補助なども確認しなければならないなど色々と意見が挙がった。東京と奈良どちらの生活環境にも良いところと悪いところがあり、どちらが好ましいかを決めることは本当に難しい。もし、その決め手を定めるとするならば、我が家では大変な作業になることに気づいた正月であった。