執筆者: 松見 純子(まつみ じゅんこ)
組織・人事変革コンサルティング シニア コンサルタント
先日理系の世界にいる友人と話していたら、今Resilienceが1つのキーワードだと教えてくれた。RとLが両方含まれており、日本人には発音しにくい単語だが、弾性、回復力といった意味だ。
科学におけるResilienceとは、さまざまな分野で外的要因やシステム内部の変動がシステム全体に与える影響を吸収し、状態を平常に保つ強靭なリスクマネジメントに関する新しい考え方のようだ。日本においては特に東日本大震災・原子力災害という複合リスク問題を経験したこともあり、様々な外圧が加わっても、致命傷を受けることなく、被害を最小化し、迅速な回復を果たすための研究、さらに長期にわたるゆっくりとした環境変化にも適応し、生存できるシステムの実現に向けた研究も行われている。
もともと心理学、精神医学の用語であったResilienceは、最近では、個人の心の持ちようを表す言葉としても、どんな困難にもへこたれないタフな心、ストレスがあっても実力を発揮できる、逆境に負けない人材といった文脈で脚光を浴びている。
企業においてもSustainability、といった用語と共に重要なキーワードとなっているように思う。日本語で言えば、事業環境の変化に速やかに対応できる「しなやかな強さ」、とでも言おうか。「筋肉質」という表現も近いかもしれない。急速に進展するグローバル化、技術革新、消費者の嗜好の変化のなかで、いかに自社の強みを活かしつつ価値を生み出し続けるかがさらに重要になってきている。決して忘れてはいけない、あるいは最も重要なのは、組織内部で、強みを最大限に活かした工夫・切磋琢磨・改革が継続的に行われ、小さいイノベーションの積み重ねが生じていくことではないかと考えている。
企業におけるResilienceを強化するために、必要な要素として、London Business SchoolのLynda Grattonは、3つを挙げている1。
企業の利益の源泉は、より高度な技術、より魅力的な製品・サービス、異なる市場等、他者との「差異」であり、こうした「差異」を生み出せるのは人材である。人材の知見や洞察力を高め、やる気(前向きに何かを創り出そうという気持ち)を高めることによる、自社の強みを活かしたResilienceの強化のためには、従来から日本企業の強みである、目的を共有した上での現場の改善力、人から人への経験・知識の伝達、社員が自分ごととして経営を捉え自分の頭で考える主体性の重視、より各人が早いタイミングで意思決定し、より良いものを創り出すために協働する、ということがますます大事になってきている。
こうしたことが企業内部で実現できる仕組みづくり、中長期的な人材・組織力の強化のために何をすべきかを知ることが将来に向けたResilienceのための鍵となるであろう。