コンサルタントコラム 671
JPX日経インデックス400

昨年初めに、JPX日経インデックス400(以下、JPX400)という新しい株価指数が立ち上げられてから1年が経ちました。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国内株式の運用指標の1つとして採用したことでも注目されましたが、昨年1月から今年2月までの同指数のリターンは21.0%の上昇でした。また、同じ期間におけるTOPIXは20.4%の上昇でしたので、JPX400はTOPIXを0.6%上回る結果であった訳です。

もちろん、この期間だけを見てJPX400の成否を判断するのは適切ではありませんが、そもそも、同じ株価指数であるTOPIXとJPX400は何が異なるのでしょうか。まずTOPIXは、東証一部に上場されている全銘柄の値動きを表す指数であり、その構成銘柄は1859に上ります(2015年2月末時点)。また、運用業界では日本の株式市場全体の値動きを測る指数(いわゆるベンチマーク)としても広く使われています。一方、JPX400はROE(株主資本利益率)、営業利益、国際会計基準の採用、社外取締役の選任といった基準に則して選定された400の銘柄によって構成される指数です。つまり、TOPIXは日本の上場株式を広く遍く構成銘柄として含めているのに対し、JPX400はより質の高い銘柄を選別することを目指した指数となります。これをスポーツに喩えるなら、TOPIXは経験者なら誰でも入ることのできるチーム、一方、JPX400は体力テストを行い、一定水準を超えた選手だけが入ることのできるチームという感じになります。

冒頭で、昨年1月から今年2月までの期間のJPX400のリターンはTOPIXを0.6%上回ったことを述べましたが、体力テストを合格した選手で構成されるJPX400チームと、経験者なら誰でも入ることのできるTOPIXチームの差としては少し物足りなさを感じる方もいるのではないでしょうか。このことは、アクティブ運用とパッシブ運用のどちらが有効かという議論にもつながりますので、それぞれの手法を簡単に振り返りたいと思います。アクティブ運用は、「市場は非効率的である」という考えに基づき、より高いリターンが期待できる銘柄を選別して投資することで、市場全体(日本株ならTOPIXのようなベンチマーク)を上回る収益の獲得を目指すものです。一方、パッシブ運用は、「市場は極めて効率的であり、ベンチマーク以上の収益を上げることは困難である」と考え、ベンチマークに追随することを目指します。このように見ていくと、JPX400は指数ではありますが、目指しているところはアクティブ運用と同じと言えます。つまり、ファンド・マネジャーが投資銘柄を選定する伝統的なアクティブ運用と手法は異なりますが、より優れた銘柄を選び出すことによって市場全体(TOPIX)を上回ることをJPX400は目指しているということです。

では、「なぜJPX400チームはTOPIXチームにもっと差を付けられないのか」という問題に戻りますと、確かにメンバーの現時点での実力を比べますと、JPX400チームの方が平均して上だと言えます。ところが、株式投資では現時点の実力よりも、今後収益が拡大する会社を選ぶこと、そしてその取得コストが重要となります。JPX400では国際会計基準の採用や社外取締役の選任など定性的な項目も選定基準に含まれてはいますが、会社の将来の収益成長を直接予想するものではなく、また、各銘柄の株価水準(割安か割高か)は考慮されません。スポーツ・チームでまた喩えますと、JPX400チームは実績のあるメンバーが揃っていますが、通常、その獲得に相応の契約金を要します。一方、TOPIXチームにも実績のあるメンバーはいますが、将来有望な若手選手や残念ながら見込みのない選手なども入り混じっており、その契約金も様々です。JPX400の1年目はTOPIXを上回りましたが、中長期的にどちらがより優れた投資成果を上げるかは簡単に判断することができません。

さて、ここまでJPX400をTOPIXと比較して見てきましたが、JPX400のように特定の要因に着目し、体系立てた方法でベンチマーク指数を上回るリターンの獲得、或いは、リスクの低減を目指す指数や運用商品は他にもあり、数年前から提供されています。総称して「スマート・ベータ」と呼ばれていますが、具体的には以下のようなものが挙げられます。

種類 概要
ファンダメンタル型 企業のファンダメンタル(売上高、株主資本等)に応じて構成銘柄の配分を加重する手法
最小分散型 リスクを抑えることに主眼を置いた手法
等金額型 構成銘柄を均等に配分する手法

さらにこれらのスマート・ベータの中身を見ていくと、それぞれに異なる特性を持っていることが分かります。手法から明らかなものもありますが、一般的にファンダメンタル型はバリュー(割安株)の特性、最小分散は低リスクの特性、等金額型の指数は中小型株の特性、そして、JPX400はクオリティ(質)の特性を持っています。また、これらの特性は異なる市場環境で異なるパフォーマンスを見せます。例えば、等金額型(中小型株の特性)は上昇相場に強く、最小分散型(低リスクの特性)は下落相場で下げ幅を抑える傾向があります。また、同じ上昇相場でも、企業収益が注目されている時にはJPX400のようなクオリティ型が、割安に見過ごされていた銘柄が買われる局面ではファンダメンタル型(バリューの特性)が総じて優位となります。

JPX400を含め、スマート・ベータへの投資をご検討される場合には、それぞれの特性を十分に理解するとともに、ご自身の投資目的を明確にし、それに適した手法を選定することが重要となります。