コンサルタントコラム 663
新興国ベトナムの福利厚生事情

2015年の新年をベトナムのハノイで迎えた。このコラムを読んでいただく頃には新年の話は もはや時期外れかもしれないが、筆者の感じたハノイの印象と、マーサーの福利厚生レポートである「Worldwide Benefit & Employment Guidelines (WBEG) 2014 Edition」をもとに、ベトナムの福利厚生事情について触れてみたい。

ベトナムは人口約9170万人、人口密度が1平方キロメートルあたり253人。日本の約1億2653万人、人口密度337人と似通っており、雰囲気が50年前の日本のようだという人もいる。私がハノイで最も驚いたことは二つあり、一つは若い人が圧倒的に多いことで、もう一つはバイクの数の多さであった。ベトナムは、中国、北朝鮮、ラオス、キューバとともに現在5つある社会主義国の一つだが、昨今は政治的に安定した結果、未曽有のベビーブームを迎えており、平均年齢は28歳。日本の平均年齢45歳と比べると、なるほど若い人が多いという印象も頷ける。

交通事情については、私に限らずベトナムを訪れた日本人は皆、カルチャーショックを受けると思うが、とにかく信号がない。3車線道路であっても人が自由に横断する。平日の通勤時間帯はバイクが道に所狭しと並んでおり、その隙間を人が横断していくのだ。現地人によると横断のコツはできるだけゆっくり進むこと、走ってくる車やバイクを見ないことだそうで、曰く、たいしてスピードを出していないので、人を避けて走れるらしい。ほかにもバイクの5人乗りや、大きな家具や売り物の風船等を2~3メートルの高さに積んでいるなど、道路交通法は存在しないのか?と思ってしまう風景をたびたび目撃した。

そんな活気にあふれたハノイで、新年ということもあり、人々は皆、幸せそうであったが、経済指標はどうなのであろうか。マーサーのWBEGによれば2013年のベトナムのデータは以下のとおりである。GDP成長率5.4%、物価上昇率6.6%、失業率4.4%、15歳~64歳までの労働人口71%。65歳以上の人口6%。特に物価上昇率は、2011年の18.7%、2012年の9.1%からだいぶ落ち着いてきている。

次に、社会保障制度について見てみよう。年金制度は確定給付型となっており、会社負担率が給与の14%、本人負担率が8%。支給開始年齢は男性60歳、女性55歳。企業による退職金制度の上乗せ保障は普及率1%と低いが、近年、上乗せ制度の採用を検討する企業が増えてきている。医療制度は会社負担率が給与の3%、本人負担率が1.5%。扶養家族もカバーするが、医療サービスの水準が十分でないため、企業が独自にプライベートヘルスインシュアランス制度を、社員のために提供するのが一般的で、企業による医療制度の普及率は93%と高い。事故等による死亡・傷害保障は、企業が制度を社員に提供することが義務付けられており、98%の普及率となっている。その結果、ベトナムにおける企業の福利厚生コスト増加率は64%で、総報酬の15%超を占めるまでになっている(出典:APAC Mercer Market Pulse Survey 2013)。

近年、ベトナムに進出する日本企業は増加しているが、日本の福利厚生コスト増加率(69%)と同程度のコスト上昇に企業が耐えているにも関わらず、ベトナムでの転職率は高い。 少し古いデータではあるが、現地従業員の約40%は職場に不満を持っており、転職したいと考えているというマーサーのサーベイ結果がある(出典:Mercer 2011 What’s Working survey based on 5,000 respondents in Asia Pacific)。最も高いインドでは二人に一人が転職を考えているのだ。

では、平均年齢が若く、社会保障が充実していない新興国において、現地従業員のモチベーションを上げるために、企業は何を提供すべきなのだろうか。一例ではあるが、あるアジアの企業で、単なるサラリーアップだけではなく、従業員およびその家族が、企業に所属しているからこそ割安に得られるプラン、かつ自ら欲しいプランを選択できる福利厚生制度を構築して、社員とその家族に利用を促したところ、企業への満足度を高めたというケースがある。このような任意加入制度は、運営に手間とコストがかかるものの、企業から社員にメッセージを伝える効果と相まって、単なるサラリーアップよりも社員の会社への帰属意識を高めるのではないかと思われる。

2月25日に開催予定のマーサー・マネジメント・フォーラム2015では、「日本企業のグローバルビジネスを成長させる、人事、組織、人材育成」というテーマの中で、「人件費リスクの最適化」というセッションを予定している。その中で、社員が最も重視する要素(金銭、非金銭)は何なのか、各国ごとで重視する要素に違いがあることを踏まえて、広く総報酬という枠組みの中で様々な考察をしたいと思っている。
その一端は次回のコラムでまた触れることとしたい。