コンサルタントコラム 743
アジア新興国進出とハードシップ手当てについて
尾西 博樹

執筆者: 尾西 博樹(おにし ひろき)

インフォメーション・ソリューションズ シニア コンサルタント

昨年の12月は、初旬に韓国のソウル、年末には三重県の伊勢神宮と、和歌山県の高野山金剛峯寺を旅した。

ソウルでは三清閣という所に行ったのだが、日本家屋に似た韓屋造りの建物とまだ残っていた紅葉で、どこか日本の京都に来たような風景であった。京都との違いは三清閣は宗教施設ではなく、韓国の迎賓館のような存在であり、実際ソウルの街を散策しても仏教寺院はそれほど見当たらず、キリスト教の教会を多く見かけるのが印象的である。

年末に行った伊勢神宮では、ボランティアガイドが参拝者に伊勢神宮に無いものは何か、と問いかけていたのが印象的であった。
日本にあって外国に無いものの一つは伊勢神宮を初めとする神社であるが、特に伊勢神宮の特徴は、自然の森と、そのシンプルな建築物にあると感じる。

高野山金剛峯寺では、近隣の宿坊に一泊したが、欧米系と思われる外国人観光客が非常に多いのが目についた。
金剛峯寺は平安時代に中国から伝わった真言密教の総本山であるが、唐代の中国文化を保存するものとして、外国人観光客が興味を持つのかもしれない。

さて、経済産業省が2016年5月に公表した「第45回海外事業活動基本調査」によると、2014年度の製造業の海外生産比率は過去最高水準の24.3%となった。
また海外現地法人数の売上高については、272.2兆円と前年度から+12.2%の増加、海外現地法人数は24,011となったことが見て取れる。
海外現地法人は地域別にみるとアジアの割合が増加しているようである。そのアジアの中では、中国の割合が低下し、ASEAN4(フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア)やその他アジア(ベトナム、インド)が増加している模様である。

社員を海外に派遣する場合には、海外生計費部分に関しては、購買力補償方式の考え方に基づきマーサー等コンサルティング会社が公表している生計費指数により決定していることが多いようだ。
しかしながら、海外での生活には生計費以外にも、都市によって気候や風土、政治環境などの環境差があり、それらから駐在員が受ける不便・精神的苦痛等を補填するものとしてハードシップ手当を設定している企業が多くみられる。
ハードシップ手当の決め方は、自社独自の評価により設定している企業もあるようだが、多くはマーサー等のコンサルティング会社の情報により設定しているケースが多いようである。(マーサー「海外駐在員規程及び福利厚生制度調査」)

マーサーはこのハードシップ手当の根拠となる生活環境指数について日本人向けに「日本人世界生活環境レポート」と、「都市別ハードシップ評価スコア」の2種類を提供している。
前者は日本人駐在員の視点から56項目のアンケート調査を実施、独自の分析を行い指数化し、レポートとして提供するもの。後者は、都市ごとに10カテゴリー(43項目)別にマーサーが評価を行い、日本人駐在員として生活するうえでの困難さをトータルスコアとして提供している。

これらのレポートの利用方法として、総合指数からハードシップ手当額のテーブルを企業が決定する方法もあるが、生活環境指数はカテゴリ・項目別に見られることから、企業独自にあるカテゴリもしくは項目を抜き出して決定する方法もある。
例えば「日本人世界生活環境レポート2016」から、カテゴリ「社会文化環境」の項目「文化・習慣」、「宗教」、「対日感情」のみを抜き出してアジアの主要都市ランキングを作成してみると、良い方から順に、

1位 台北
2位 シンガポール
3位 ハノイ
4位 バンコク
5位 ソウル
5位 マニラ
7位 クアラルンプール
8位 ジャカルタ
9位 北京
10位 ニューデリー

となる。

このように、生活環境指数の利用方法として総合指数をそのまま利用するだけでなく、カテゴリ・項目を抜き出して企業独自の評価スコアも作成できるので、現在自社独自の評価によりハードシップ手当てを設定している企業についても、弊社指数をご利用して頂くと便利であると思う。 (カテゴリ「社会文化環境」から上記3項目を選んだのは筆者の興味に基づいて決定したものであり、本ランキングを用いてハードシップ手当てを決定することを推奨するものではない。)

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