コンサルタントコラム 736
個人型確定拠出年金制度(イデコ)について
甲斐 佑太

執筆者: 甲斐 佑太(かい ゆうた)

年金コンサルティング アソシエイト コンサルタント 日本アクチュアリー会 準会員

書店の投資コーナーへ足を運ぶと、確定拠出年金に関する書籍を多く目にするようになった。中でも個人型確定拠出年金(以下個人型DC (Defined Contribution))については、確定拠出年金法の改正により2017年1月から原則全ての人が加入できるようになり、老後の資産形成を進める 1 つの方法として関心が高まっているようである。

以下では、改めて本制度の特徴を解説し、従業員事業主それぞれの立場で本制度についてどのように関わればよいかを考えてみることにする。

1. 制度の解説

個人型DCは、個人のアカウントに掛金を拠出し、自ら指定した運用方法で投資を行って資産を形成する制度である。老齢や死亡等の給付事由が発生した際に、累積した個人資産を取り崩して給付として受け取ることができる。その主な特徴は以下の3点に集約できる。

1.1. 資産形成の過程で税制上優遇されている

個人型DCは、掛金の拠出時は給与所得控除、資産運用収益は非課税、給付時は退職所得控除や公的年金等控除の対象となるなど、老後の資産形成にあたって税制上の優遇措置を受けることができる。これが個人で実施する貯蓄あるいは資産運用と比較して有利であるといわれる大きな理由といえる。このような手厚い税制優遇は、老後の所得確保を支援する目的で設けられているものと考えられる。本制度による給付はあくまで老後の所得保障であると位置づけられており、一般的な退職金とは異なり原則60歳になるまで受給ができないことに注意する必要がある。

1.2. 掛金として拠出できる額に上限がある

上記のような税制優遇措置を過大に享受されることのないよう、個人型DCには掛金の拠出限度額が法定されている。自営業者は月6万8千円、企業年金がない会社の従業員は2万3千円等、その個人の置かれている状況によって拠出限度額は異なる。この拠出限度額は企業が提供するDC年金(以下企業型DC)にも設けられており、過去何度か引き上げられてきた経緯がある。今後さらなる引き上げが成されるかは現時点では不明であるが、経済界からの引き上げ要望は未だ根強いものがある。

1.3. ポータビリティに優れている

個人型DCは離職・転職の際に年金資産の持ち運び(ポータブル)が可能であるといわれる。例えば退職金では転職(=退職)した際に支払いがなされるため次の会社ではまた 1 から積み直しになることもあるが、個人型DCでは転職先に企業型DCがあればそこに資産を持ち込むことができ、無くても個人型DCを継続することでリタイア時まで通算した資産形成ができる。働き方の多様化が進む昨今の労働環境においては、転職を繰り返したり、一旦専業主夫/婦となった後で再就職をしたりする等で退職給付がブツ切りになってしまうことが少なくない。このような離職・転職を阻害しない本制度にはメリットがあるといえよう。

2. 従業員の視点で

前述の通り多くのメリットがある個人型DCについて、会社で働く従業員としては加入を検討することが有益であると思われる。検討のポイントは以下2点である。

2.1. 会社の退職給付制度の把握

現在勤務する会社の退職給付制度について、その仕組みや金額の十分性をまずは確認する必要があるだろう。会社が企業年金を提供しているかどうかによって拠出限度額が変わるため、個人型DCに加入した場合掛金をいくらまで拠出できるのかも見ておくべきである。

2.2. 運営管理機関の選び方

個人型DCは、その名の通り個人で運営する制度であり、運営管理機関も自分で選定する必要がある。選定する際は、資料や運用指図方法の分かりやすさ、サポートの充実度、提供する運用商品の充実度、手数料の水準等を確認する必要がある。実際に金融機関等複数社に資料請求して、比較してみるのがよいだろう。

3. 事業主の視点で

基本的に個人が加入するか否かを判断する個人型DCについて、事業主が検討することはそう多くはない。ただ、すでに企業型DCを実施している事業主においては注意が必要である。なぜなら、そのような企業型DCの加入者(=従業員)は個人型DCに加入できない場合があるためである。

企業型DCの加入者が個人型DCに加入できる要件は、当該企業型DCの拠出限度額を一定程度に抑えていること(個人型DCと併せた掛金額を拠出限度額以下に抑える趣旨)および従業員拠出(マッチング拠出)の定めがないことである。事業主としては、現在マッチング拠出を導入している場合はそれを継続するか、廃止して個人型DCに加入できるようにするかを検討する必要がある。

個人型DCはあくまで個人で運営する制度であり、その管理手数料等は従業員個人が負担することになる。一方マッチング拠出には会社負担の掛金を超えて拠出できないという制約があるため、会社掛金が低い場合に大きく掛けられる個人型DCへの加入を望む従業員もいよう。現行制度の特性を見つつ、総合的に判断すべき事項であると考えられる。

おわりに

充実した老後を迎えるためには、少子高齢化等を受けスリム化が進む公的年金だけに頼るのではなく、会社で提供する企業年金・退職金や本稿で述べた個人型DC等による自助努力の資産準備を図っていかなければならない。普及のため iDeCo (イデコ)という愛称が与えられた個人型DCが今後どこまで拡大していくか、要注目である。