コンサルタントコラム 656
世界から見た日本の年金制度 ~「グローバル年金指数ランキング(2014年度)」

執筆者: 塩田 強(しおた つよし)

年金コンサルティング
シニア・アクチュアリー
日本アクチュアリー会正会員 年金数理人
日本証券アナリスト協会検定会員

皆様は日本の年金制度が、グ ローバルな視点で見たときにどのようなランキングになるか興味を持たれたことはあるだろうか。マーサーでは、2009年から日本を含む世界各国の年金制度を比較した「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング」を毎年発表している。

2014年度については、10月14日に「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング」を発表した。その結果として、日本の年金制度は、最下位から数えてインド、韓国に次ぐ25カ国中23位となった。首位はデンマークで、2012年より首位の座を保ち、3年連続で首位となった。十分に積み立てられた年金制度や、多くの加入者数、優れた資産構成と掛金の水準、十分な給付レベル、および法令の整った私的年金制度が首位となった主な理由である。デンマークと共にオーストラリア、オランダは3年連続トップ3の順位を維持している。

日本の年金制度が、25カ国中23位というのは大変残念な結果である。そこで今回は、日本の年金制度を世界の年金制度と比較した当年金指数ランキングの内容について、少し詳しく説明したいと思う。

 十分性:年金額は十分か、老後の所得のために資産を残す仕組みがあるか等
 持続性:年金支給開始年齢や平均寿命のバランスはよいか、政府の債務残高は妥当な水準か等
 健全性:年金制度に運営報告の義務はあるか、年金制度の透明性は高いか等

3つの評価軸は、十分性、持続性 および健全性をそれぞれ40%、35%および25%の割合で加重して評価付けしている。例えば、年金額が高すぎると十分性の観点から見ると評価は高くなるが、十分な資産等の裏づけがないと持続性の観点から見ると評価は低くなる。逆に、年金額が低すぎると 十分性の観点から見ると評価は低くなるが、持続性の観点から見ると評価は高くなる可能性がある。当年金指数ランキングの評価の高い年金制度としては、適切な給付水準が長期的に持続可能な枠組みとして健全性を担保され、運営されている年金制度ということになる。

以下、日本の年金制度の各評価軸の結果について、確認してみたい。

十分性については100点中48.0点で22位となった。特徴として、"所得代替率"(現役世代の年収と年金給付額の比率)が低いことが、十分性の評価が低い要因の一つとなっている。本年度に公表された日本の公的年金の平成26年度財政検証(厚生労働省)では、現状の制度を変更しない場合、少子高齢化の進展に伴う所得代替率の低下が不可避であることを示唆する結果となっており、将来的にこの十分性の評価が良くなることは難しいかもしれない。

持続性については100点中28.5点で22位となった。評価の一つとして、”年金支給開始年齢と平均寿命の差”を確認している。年金支給開始年齢と平均寿命の差が長いということは、年金支給期間が長いということを意味しており、年金制度の持続性という視点では、マイナス評価になると考えている。厚生労働省が発表した平成25年簡易生命表によると男子の平均寿命は80.21歳、女子の平均寿命は86.61歳だった。日本での公的年金制度(基礎年金)の年金支給開始年齢は65歳であるが、他国においては、年金支給開始年齢に引き上げを検討し、日本の年金支給開始年齢よりも高い年齢からの支給を導入している国もある。世界の中で、平均寿命が最も高い日本においては、年金制度の持続性の観点から、年金支給開始年齢の引き上げを真剣に検討していかないといけない状況にあると思われる。

健全性については100点中60.9点で21位となった。制度自体の透明性の高さや法令の整備については比較的高い評価がされている。一方で、年金制度の加入者・受給者による不服申し立て等のシステム整備では低い評価となっている。公的年金制度では、ねんきん定期便等を活用し、将来の年金額を伝える仕組みはあるが、私的の企業年金制度では、将来自分がもらえる年金額を明確に伝えているケースはあまり多くないように思われる。まずは、年金制度への関心を高めていく方策を検討していくことが必要かもしれない。

以上が年金指数ランキングの概要である。当年金指数ランキングの評価にあたり、評価対象を老後の所得保障制度としているが、各国の社会保障制度または文化的な背景の違いがあるため、もしかしたら、十分な比較対象となっていない点があるかもしれない。しかしながら、世界の年金制度を一定の評価軸を基に比較することは、現状を認識するうえで、一定の参考になるものではないかと考えている。

本年度は、日本の公的年金の平成26年度財政検証が実施され、公的年金制度の課題がより明らかになってきている。また、企業年金制度において、平成26年10月から確定拠出年金の拠出限度額の引き上げが実施されているが、企業年金制度の改正について、さまざまな検討が進められている。今後、永続的に持続可能となる年金制度を構築するため、現状の課題解決も含め、年金制度の改革を速やかに実行していくことが必要だと思われる。当年金指数ランキングが、今後の日本の年金制度の見直しに少しでも参考になれば幸いである。

「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数(2014年度)」の詳細については以下をご参照いただきたい。

 2014年度プレスリリース マーサー「グローバル年金指数(2014年度)」を発表

総合指数によるランキング結果一覧

  各項目の指数
ランキング 国名 総合指数 十分性 40% 持続性 35% 健全性 25%
1 デンマーク 82.4 77.5 86.5 84.5
2 オーストラリア 79.9 81.2 73.0 87.8
3 オランダ 79.2 75.3 76.3 89.4
4 フィンランド 74.3 72.2 64.7 91.1
5 スイス 73.9 71.9 69.7 83.1
6 スウェーデン 73.4 67.2 74.7 81.6
7 カナダ 69.1 75.0 58.6 74.3
8 チリ 68.2 57.3 68.7 85.0
9 英国 67.6 69.8 52.4 85.4
10 シンガポール 65.9 56.4 68.5 77.4
11 ドイツ 62.2 75.8 37.6 75.0
12 アイルランド 62.2 75.8 37.6 75.0
13 米国 57.9 55.2 58.5 61.2
14 フランス 57.5 76.4 37.7 54.9
15 ポーランド 56.4 61.7 41.4 68.9
16 南アフリカ 54.0 48.3 44.6 76.3
17 オーストリア 52.8 67.5 18.9 76.6
18 ブラジル 52.4 61.8 26.2 74.2
19 イタリア 49.6 68.1 13.4 70.7
20 メキシコ 49.4 49.9 53.1 43.5
21 中国 52.8 67.5 18.9 76.6
22 インドネシア 45.3 37.5 37.8 68.3
23 日本 44.4 48.0 28.5 60.9
24 韓国 43.6 42.6 42.5 46.7
25 インド 43.5 37.1 40.6 57.7
  平均 60.6 63 49.7 71.9

 

年度別総合指数によるランキング推移

総合
ランキング
ランキング
2014 2013 2012 2011 2010 2009
1 デンマーク デンマーク デンマーク オランダ オランダ オランダ
2 オーストラリア オランダ オランダ オーストラリア スイス オーストラリア
3 オランダ オーストラリア オーストラリア スイス スウェーデン スウェーデン
4 フィンランド スイス スウェーデン スウェーデン オーストラリア カナダ
5 スイス スウェーデン スイス カナダ カナダ イギリス
6 スウェーデン カナダ カナダ イギリス イギリス アメリカ
7 カナダ シンガポール イギリス チリ チリ チリ
8 チリ チリ チリ ポーランド ブラジル シンガポール
9 イギリス イギリス アメリカ ブラジル シンガポール フランス
10 シンガポール ドイツ ポーランド アメリカ アメリカ 中国
11 ドイツ アメリカ ブラジル シンガポール フランス 日本
12 アイルランド ポーランド ドイツ フランス ドイツ -
13 アメリカ フランス シンガポール ドイツ 日本 -
14 フランス ブラジル フランス 日本 中国 -
15 ポーランド メキシコ 中国 インド - -
16 南アフリカ 中国 韓国 中国 - -
17 オーストラリア 日本 日本 - - -
18 ブラジル 韓国 インド - - -
19 イタリア インド - - - -
20 メキシコ インドネシア - - - -
21 中国 - - - - -
22 インドネシア - - - - -
23 日本 - - - - -
24 韓国 - - - - -
25 インド - - - - -