育成上手なPeople Managerの行動様式

 

数年前から欧米企業で始まったパフォーマンスマネジメントの変革は、日系企業にも確実にインパクトをもたらした。具体的には、1on1というアプローチを導入し、頻繁かつタイムリーな対話やフィードバックを通じて人材育成を推進する企業が増えてきている。

混沌として先行きの見えない世界において、ヒトモノカネという経営資源でヒトの重要性が高まりつつある今、この傾向は非常に望ましいものであると考える。

こうしたヒトに投資する土壌が育まれ、人材育成をさらに進化させていくために求められるPeople Managerの行動様式について仮説を提示したい、それが本稿の趣旨である。

 

1.「自分1人で育てる」という意識を手放す

これは誤解を招くような表現だが、People Managerが育成責任を放棄していいということではない。育成への関わり方について視点を変えてみてはどうだろうか、とこの場を借りて提案させていただきたい。本当の意味での「育成責任にコミットするマインドセット」と表現してもいいだろう。これまでの経験が通用しにくい先行き不透明な環境下、1人のPeople Managerが多様なスキル・興味・経験を持った各人に対し、全ての分野に明るいフィードバックやアドバイスを提供できるということなどあり得ないと考えている。継続学習を怠っていいということではなく、ある分野に関しては自分以外の適任者がアドバイスやフィードバックをする方がベターであるという意識を持つことが、今後ますます重要になるのではないだろうか。

 

2. メンバーとの関係性の質を向上させる

育成に向けて必要な要素が何かを把握する上で、人事システムに人材プロファイルが揃っており、それらがオープンになっていれば情報を獲得することは技術的にはあまり難しいことではない。重要なのは、人材プロファイルの情報の裏側にある、キャリアおよびライフの志向性やその強さ、どのような仕事経験を通じて現在のスキル・知識・能力を積んできたのか、また今後に向けたニーズが何かを深掘りし認識することである。そのためには、メンバーが腹を割って話せるような心理的安全性を確保し、関係性の質を向上させる取り組みが求められる。

 

3. アンテナを高く持つ

People Managerには、メンバーの成長に必要な要素を最適な人からアドバイスやフィードバックをもらえる場を作ることが求められている。誰がどのようなスキル・経験・知識等を保有しているのかを的確に把握し、適任者にアプローチできる関係性を日々構築することが重要だ。 社内に関しては仕組み化することで可能かもしれないが、社外にまで視野を広げ考えてみると、日頃から人脈を構築するセミナーや勉強会、書籍あるいは論文等に常にアンテナを立てておくことが求められる。こうした取り組みは自身の能力向上にもつながり、Learning agilityを高めていけるだろう。

上記の3つの行動様式は実際にはそんなに簡単なことではないかもしれない。しかし、継続学習することを前提としながら、自分自身がアドバイスやフィードバックできる分野とそうでない分野があることを潔く認め、配下のメンバーに対してもそのことをオープンに共有する率直さが重要だ。

こうした行動様式を備えたPeople Managerが増えていくことは、効率的かつ効果的な人材育成が組織全体で実現するだけではなく、エンゲージメントや組織内関係性の質の向上、ひいてはオープンイノベーションの素地を形成し、持続的な事業成長につながっていくのではないかと考える。

執筆者: 渡部 優一 (わたなべ ゆういち)

組織・人事変革コンサルティング部門 シニアマネージャー

育成上手なPeople Managerの行動様式