ニュー・プロップ Vol.15 2021年12月号
*当記事は「ニュー・プロップ Vol.15 2021年12月号」に寄稿した内容の再掲載
グローバルにインフレリスクへの懸念が高まっている。本稿では、インフレリスクの対応策を考えるために、経済や市場に起こりうる様々なシナリオと、各シナリオが様々な資産クラスに与える影響について説明する。
今後のシナリオ
図1は、弊社が今後3年の時間軸で検討した経済と市場の様々なシナリオである。
*円の大きさは、各シナリオの確率を示す
- ゴルディロックス:生産性の向上により堅調な成長を遂げ、インフレ率も低く抑えられる
- バランスのとれた成長:経済成長とインフレ率は緩やかで、コンセンサス予測と一致
- ハードランディング:財政出動が抑制され、成長率が大幅に低下し、デフレリスクが高まる
- 金融抑圧:高い成長率とインフレ率が、債務削減を目的とした中央銀行の低金利によって長期的に支えられる
- オーバーヒート:中央銀行が暴走するインフレのリスクを回避するために、先手を打って引き締める
- パンデミック・スタグフレーション。パンデミックが再燃し、成長は鈍化するが、サプライチェーンの問題からインフレが進行する
ヒートマップ
図2のヒートマップは、今後3年間のシナリオにおいて、様々な資産クラスがどのようなパフォーマンスを示すと期待されるかをまとめたものである。
* マーサーの2021 年6 月末時点の資本市場前提条件を用いて算出した各資産クラスの期待リターンに基づく。これらのリターンが達成される保証はなく、実際のリターンは異なる場合がある。
まず、このヒートマップは様々なインフレに対処する単一の資産クラスの解決策は存在せず、インフレ対策を多様化するべきことを示している。また、ヒートマップの上部の資産クラスに集中している伝統的なポートフォリオは、より厳しいインフレリスクがあることを示している。
多くの投資家のポートフォリオが最も脆弱なのは、パンデミック・スタグフレーションおよびオーバーヒートのシナリオである。前者のシナリオでは、コモディティ関連の戦略や金がより確実なプロテクションになると考えられる。金利上昇局面となる後者のシナリオでは、ストラクチャード・クレジット(資産担保証券、レバレッジドローンなど)や一部のプライベート・デットなどの変動金利戦略がデュレーションの長い固定利付債よりも有利となる可能性が高い。
まとめ
投資家は以下の点に留意して、インフレ対策を検討すべきだと考える。
- インフレは様々な形で現れる可能性がある。
- どのようなシナリオでも有効な万能な資産クラスは存在せず、様々な資産クラスに分散することがより現実的なソリューションである。
- 株式と債券が中心の伝統的なポートフォリオは、インフレには適していない。
- 投資家により、インフレリスクの影響度、既存のポートフォリオ等が異なることから、投資家の状況に応じた適切なインフレ対策を実施する必要がある
本稿で説明したシナリオとヒートマップが、インフレへの対応策を考える上で一助になれば幸いである。
執筆者:五藤 智也 (ごとう ともや)
ウェルス・コンサルティング本部代表